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貴子のブログ

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【佐藤春夫のラブレター】

2020-10-15 11:14:47 | 日記

佐藤春夫(さとうはるお)が恋文を送った相手は、谷崎千代(たのざきちよ)。
なんと友人である谷崎潤一郎の妻でした。
後に”細君譲渡事件”によって千代は谷崎潤一郎と離婚、佐藤春夫と再婚しています。

[大正10年1月28日の手紙]
いろいろの感情が心へ一ぱいこみ上げて来るので、思う事の十分の一も書けるかどうかわからない。
けれどもあんまりさびしいので、そうしてまた逢える日まで我慢が出来ないので手紙を書く。
(略)
あなたは私がどんなにあなたにこがれて居るかを察してくれないと見えますね。
私の今生きているのぞみは、あなたを一目見ることです、あしたは来てくれるか、その次の日にも来てくれるかとそればかり考えて、外の事はちっとも手につかないのです。
私は五分間とあなたのことを忘れたことはないのですよ。
私は一そう忘れてしまいたい。
胸がいっぱいで鉛か何かでも飲んだように重くるしくて、こんな日が半年もつづけば自然と死んでしまいそうに思える。
死ぬなら死んだ方がいい。
(略)
ああ、私も妻がほしい、子供もほしい。人間なみの幸福をうけたい。
私はしたい方だいがしたいのではない。ただ人間なみのことがしたいのだ。
私はどんな不幸な人間で、それだけのことも出来ないのだろうか。
さびしい。
あなたは今ごろ谷崎とたのしそうに何か話していることだろう。
私はあなたと夫婦になって、あなたに僕の子を生んでもらって、静かに平和に一生をおくりたい。
それより外には何の希望もない。
あなたは僕を恋しいと言ってくれるくせに、何一つ僕のために犠牲を払ってくれようとはしない。
ほんとうの恋というものはそんなものじゃないと思う。
僕はあなたのためになら命の外なら何でもすてる。
若しかすると命でもすてたい。
(略)
お千代さんの効能はエライもので、今朝来てくれたので、今日は原稿を六枚も書いた。
お千代さんお千代さん。
今晩はほんとうに甘く切なく恋しい。
いつものようにいらいらして恋しいのではない。
この前の晩に来てくれた時もそうであったが。でも、また二、三日も逢えないと思うと今から悲しい。
ーーそうそう。
今朝がた夢であなたと夫婦になった、面白いたのしい夢を見たっけが話すのを忘れていた。
あなたもこの間何か夢を見たそうだがそれも聞こうと思って忘れていた。
こん度来たら聞こう。
(略)