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日と鷹(日高)の神祇。日田の靱編連


 九州北半において、英彦山などに由来する根強い高木神(高皇産霊神、高御産巣日神)信仰があった。英彦山山頂域は高木神祭祀の旧地とされ、英彦山神領の48の大行事社は高木神社であった。
 高木神に由来するとみえる鷹羽の神紋を掲げる神社群が豊前域に密集し、鷹の巣や鷹取など「鷹」地名を散在させて、「鷹」の神祇が九州北半を縦断していた。

 また、小郡あたりの羽白熊鷲(はしろくまわし)伝承において、高木神は鷹の姿で現れ、横隈の隼鷹神社に祀られる。「鷹」の神祇とは古い根源的な信仰。そして、鷹とは猛禽とされ、忌避された神の象徴ともみえる。英彦山や高良山において、高木神とは山頂域をあけ渡し、山を下ろされた神とされる。


 英彦山南域に日田の靱編連、日下部氏族の存在がある。豊後風土記には日田の靱編郷の日下部君等の祖、「邑阿自(おほあじ)」が靱部として欽明朝に仕えたと記される。「靭(ゆぎ)」とは矢を入れる容器。靱編連(ゆぎあみ)とは矢に纏わり、靭を作る氏族。靱部(ゆきべ)とは靭を負って天皇を守護した軍団。この日下部氏は大化の改新の後、郡司に任ぜられて日田域を統治したという。

 日田の下流域、浮羽あたりでみられる装飾古墳に、赤色で描かれた同心円文は「的」を意味するとも。古く、浮羽(うきは)地名は「的(いくは)」に由来し、浮羽も日田の靱部とともに矢に纏わる域であった。

 遠賀川下流、鞍手の物部域で「剣」が称えられ、豊前、田川の弓削は「弓」を作っていた。そして、英彦山南域の日田や浮羽は「矢」に纏わって天皇を守護している。九州北部域にあって「鷹」の神祇に象徴された軍事集団の痕跡。彼らはこの国のかたちをつくった集団とも思わせる。


 日田盆地は玖珠川に南から大山川が合流して、三隈川となる。日田の地名由来のひとつは、盆地が湖水であった頃、大鷹が東から飛来して湖水に羽を浸し、再び、羽ばたいて旭日の中を北へ去るや、湖水は轟々と流れて干潟となり、日隈、月隈、星隈の三隈が現れたという「日」と「鷹」の神話。
 それよりこの地は「日高(ひたか)」とよばれる。確かに日田とされる以前は日高郡であり、本来は日高見国であったとも。現在も日田の中枢域に日高町の地名を残す。

 その日高町のあたり、刃連町に日田の祖神、邑阿自(おほあじ)を祀る「日下部神社(刃連神社)」が鎮座する。傍の日下部(くさかべ)氏族の墳墓とされるダンワラ古墳(跡)の石棺から一枚の宝鏡が出土したという。1~3世紀頃の漢鏡とされる「金銀錯嵌珠龍紋鉄鏡」、卑弥呼の鏡の異名をもつ特別な鏡であった。当に、「日」の神祇の宝器であった。

 九州の日下部氏族は多く祭祀職であり、皇祖に纏わり、「日」の神祇を奉じることでその名を得ている。新撰姓氏録は日下部氏を「阿多御手犬養同祖。」とし、火闌降命(海幸彦)の後裔、隼人(狗人)同族としている。

 そして、国造本紀によると、日田には高木神の5世孫である剣根命(つるぎね)の後ともされる比多国造の存在がある。成務朝のこととされる。
 九州北半を縦断する高木神由来の「鷹」の神祇は、この日田で「日」の神祇と交わり、日と鷹(日高)の神祇とされた。その背景には高木神氏族と日下部氏族の葛藤がみえる。


 英彦山では高木神は天忍穂耳命に山頂域をあけ渡した神とされ、神話において、天忍穂耳命が高木神の女(むすめ)を娶る意義が、天忍穂耳命に由来する氏族が、遠賀川水系の高木神氏族を婚姻をもって帰属させた事象の投影ともみえた。それが、遠賀川下流域の物部氏族に起因するとも思わせる。物部氏族の祖神、饒速日命(にぎはやひ)は天忍穂耳命の子神、天火明命ともされる。

 そして、高良山では高木神は狗人の神に山を下ろされた地主神とされ、高良域の高木氏族と火(肥)より進駐した日下部氏族(草部吉見氏族)との同化があった。それらが、高木神由来の「鷹」の神祇が忌避された理由(わけ)ともみえる。

 九州北半を縦断する太古の「鷹」の神祇、高木神祭祀域には古代の歴史ストーリーが重なって、これら「鷹」の神祇と「日」の神祇などの葛藤が、高天原神話などに投影された事象とも思わせる。この域は創世神話の原郷。この域の古層には国の生成に拘わる大いなる謎が秘められている。

 日田盆地北部の洪積台地上、小迫辻原遺跡からは3世紀末~4世紀初頭の日本最古とされる豪族の環濠居館の跡などが出土して、金銀錯嵌珠龍紋鉄鏡の存在と併せ、この地は特異な文化域の様相をみせている。(了)

 

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◎鷹の神祇。九州北半の高木神祭祀

九州北半において、鷹に纏わる神社群や鷹の地名を散在させる「鷹」の神祇とは、高木神祭祀に由来する軍事(兵杖)氏族の痕跡。この域の古層には神武東征以前に大和に在ったとされる饒速日命の王権や、高天原神話に投影された太古の謎が秘められる。

 

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