これは再掲に迷った「京楽×スターク」の再掲です。
直接的な腐的表現がありますので、閲覧には充分注意して下さい。
今作ではスタークは京楽の霊骸に乱暴されたことになってますので、
抵抗のある方は自己回避でお願い致します。大丈夫な方のみ下へスクロールしてご覧下さい。
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<幽愁の月に啼く>
霊骸達の氾濫に終止符が打たれ、何もかも全てが元通りに戻って行った。
激しい闘いによって破壊された建造物も次第に以前のような景観に戻りつつある。
隊長・副隊長が抜け、ほぼ壊滅状態だった護廷十三番隊も各隊の復興に全力を尽くし、
漸くその落ち着きを取り戻しつつあった。
京楽も一端は自邸に顔は出したものの、三分の一も失った隊の調整に時間を奪われ、
三日も隊舎に留まる事を余儀なくされた。
一週間以上も一人残されていたスタークの事が心配でならなかったが、
護廷十三隊隊長としてその公務をお座成りには出来なかった。
京楽の霊圧から作り出された偽京楽は滅び、本物の京楽がスタークの許へ帰って来た。
感極まって抱き締めて来る京楽に身体を硬くはしたものの、
久し振りの熱い抱擁にスタークはおずおずと震える手を京楽の背中に廻してしがみ付いて来た。
抱き合った状態の為、その表情は京楽には見えない。
少し痩せた気がするなとその抱き心地を確かめていた京楽だが、
暫くするとスタークはぎこちない表情で身体を離し、
後ろで待っている副隊長である伊勢を意識し、京楽に視線だけで「行け」と言った。
待ち焦がれた再会と言うのに、何故か素っ気無いスタークを不審には思うものの、
京楽も何故か以前のように軽い冗談を言ったり、少し強引に事を進められない。
意識してスタークに深く踏み込めないで居た。
それは霊骸の京楽が残した言葉。
「スタークを抱いたよ。酷く怯えさせて殺してしまう寸前までにね。
だから、君はあの子をもう抱けない」
そしてスタークは最後に乱暴された際に、偽京楽に言われた言葉に苦しんでいた。
「何を生娘ぶっているんだい。こんな事なんて、君には余裕だろう。
それに、原種は知っているよ。君が涅隊長に何をされたか。
その容姿でどんなに浅ましく男を誘うかも皆、知っているんだ」
それは呪い。
自分が滅んだ後、二人が以前のように強い絆で結ばれる事を許さない為の呪い。
スタークは夜冷えのする寝室で一人、布団に座位のまま動けないで居た。
「スターク、起きているんだろう。少しだけいいかい」
月明かりが長く背の高い男の影を室内に伸ばしている。
スタークが答える前に、有無も言わさず障子が音も無く横に滑る。
背後に丸い月を背負った京楽の表情は暗くて見えない。
しかし、凛とした態度に彼の決意が感じられ、スタークは小さく息を呑んだ。
もう逃げられない。
もう覚悟を決めなければならないのだと悟った。
「こんな夜遅くに悪いね。でも、時間は取らせないから。此処、座るよ」
背を向けて布団に腰掛けていたスタークの横に京楽が優雅に胡坐を掻いた。
その洗練された動きにさえ、スタークは偽京楽の影を見て、僅かに身を震わせた。
微かなスタークの変化に、京楽はすぐに気付いたが、気付かない振りをした。
それはスタークの今にも壊れそうな危うい心を示していると分かっているからだった。
「二人切りで話す機会を見付けられなくて、こんなに遅くなってしまった。
僕は君に謝らなければならない」
「……ぉ……れ…を……、……てる……から……か……」
謝罪する為に、京楽は頭を下げていた為、スタークの様子に反応するのが一瞬遅れてしまった。
そして京楽は顔を上げ、声を失う。
スタークは顔を紅潮させ震えて居たのだ。
太腿まで掛けられた布団を握り締めた拳が、真っ白になる程、力が入っている。
薄い水色にも見える灰色の切れ長の瞳からは、今にも大粒の涙が零れ落ちそうだ。
焦ったのは京楽の方だ。
京楽は、幾ら冤罪とは言え長いこと牢に監禁され、
自邸に一人残したスタークに心配を掛け、淋しく辛い思いをさせた事を謝ろうとしたのだ。
泣かれる覚えは無い。
「ス……、スターク、どうして泣くんだい。そんなに辛かったのかい。
ゴメンよ。本当にゴメン」
本物の京楽が拘束され、偽京楽と入れ替わった頃は、偽京楽は戦闘にはほぼ参加していなかった。
その間、恐らくスタークは偽京楽に乱暴され続けたのだ。
身体が弱くなってしまったスタークには余程負担だった事だろう。
京楽がスタークを保護し、家族になろうと言ってから数ヶ月。
二人の絆は深まっては来たものの、肌を合わせる処か、
生涯の伴侶になって欲しいと告白さえしていないのだ。
その自分が今、彼に何と言って慰めればいいのだろうか。
遊郭に通い、浮世に手馴れた自分が、まるで初恋をしたばかりの少年のように、言葉を紡ぐ事さえ出来ない。
その不甲斐無さに、京楽は顔を歪めた。その表情にスタークはその頬を涙で濡らした。
「………そ……なに……、俺は……汚らわし……か………」
「………ぇ………」
客観的に、自分は何て間抜けた顔をしているんだろうと京楽は思った。
しかし、それ以外言葉が出なかった。
スタークが汚らわしい。
イッタイナニヲイッテイルノカ。
呆気に取られ、思考が停止する。
こんなに淋しがりやで傷付いた魂とは不釣合いなその言葉に、京楽は咄嗟に反応出来なかった。
しかし、スタークはそれを肯定と取ったようだった。
血が滲む程に唇を噛み締め、吐き出すように言葉を続ける。
「……涅に……された……こと…、偽者のあんたに……されたこと……、全部知ってるんだろ…。
俺は…こんななのに……。……ガキでも……女でもな…のに……」
言いたくない。
でも、言わなくてはならない。
スタークは一端言葉を切って覚悟を決めたようだった。
「……男に……いいようにさ…て……、ホント……さいてーだよな……」
京楽は悟った。
スタークが何を知り、何と唆され、何を恐れたのか。
しかし言葉が間に合わない。
「……だから……あんたに……捨てられても……仕方な……。
………あんたが、俺…に…謝ることな…て……何もな…んだ……」
布団に突っ伏して呻くように泣き続けるスタークを見下ろしながら、
京楽の心に芽生えたのは何故か激しい怒りだった。
家族になろうと言った。
行く行くは伴侶として、生涯を共にしようと思っていた相手なのだ。
その大切な存在が傷物にされたからと言って、自分が簡単に捨てるような薄情な男だと思われていたのだろうか。
あんなに夜毎大切だと囁き続けた言葉は、スタークに全く届いて居なかったと言うのだろうか。
「……スターク。一つ君に聴きたい事がある。泣いてないで顔を上げて」
断る事が出来ない程、静かな京楽の言葉に、スタークは身を凍らせた。
目を真っ赤に腫らしたまま、顔を上げると、おずおずと視線を京楽に向けた。
哀れんでは居ない。
怒っているようにも見えない。
京楽は、ただ静かにスタークを見ていた。
その意思が読み取れず、不安そうに見上げてくるスタークの視線を真っ向から受け止め、京楽は口を開いた。
低く心地よい声。
スタークは薄灰の瞳を揺らした。
「仮に僕が君を捨てるとして、君はどうしたいんだい。
捨てられても仕方無いなんて。その言い方じゃぁ、大人しく捨てられてくれるのかな」
自分で言った言葉は責任を取らなければならない。
しかしスタークは自分で言った言葉の意味を改めて思い知らされて蒼白になった。
唇を戦慄かせ、言葉を窮す。
京楽邸から出て、何処へ行くと言うのだろうか。
実際行く宛てなどない。浮竹や更木など他の隊長の隊舎や屋敷に間借りしてもいいだろうが、
彼等にはスタークを養う義理も義務も無いのだから、いつまでも長居する訳にもいかない。
其処で一瞬黒と白で顔面を縁取った男の顔が浮かんで、スタークは身震いした。
そうなのだ。
護廷十三隊の隊主会で決まった条例を破って、京楽邸を出るのだ。
軟禁状態だったとは言え、この屋敷を出れば涅はスタークを捕獲しても誰も異議を唱える事は出来ない。
第1十刃(プリメーラ・エスパーダ)だった頃の力はスタークにはもう無い。
今度涅に掴まれば、恐らく命は無いだろう。
切り刻まれて試験管に入れられる自分の姿が脳裏に浮かぶ。
しかし、心の奥底で誰かが違うと叫んでいる。
言わなくてはならない事はそれだけじゃない。
今言わなくては、この屋敷で暮らした全てが否定されてしまう。
京楽にちゃんと自分の気持ちを伝えなくてはならない。
例え、忌み嫌われているとしても、二度と生きて逢えなくなってしまうかもしれないのだから。
「……俺……は……」
京楽は何も言わず、ただ静かに頷いただけだった。
辛抱強くスタークの次の言葉を待っている。
「………此処に………居たい……。………屋敷の片隅でいい……、納屋でも屋根裏でもいい………。
……あんたの傍に……居たい……」
「…………スターク………」
「………俺は……京楽が……、…春水が好き……なんだ……」
それまで無表情を装っていた京楽が、ふわりとまるで春風のように柔らかく微笑んだ。
涙で視界がぶれているスタークに、その全ては見えない。
だから京楽はスタークの腕を引き、半ば強引に胸の中に抱き込んだ。
スタークの薄灰の目が大きく見開かれる。
京楽はしっかりとスタークを抱き締めると、その柔らかい髪に口付けを落とした。
スタークはその事実をまだ受け止められない。
「………本当、馬鹿な子だね。……だけど、少しお仕置きが過ぎたかな」
ゴメンよと今度は耳元で囁くと、その耳朶に歯を立てた。
スタークの肩が大きく跳ねる。
「でも、お陰で君の本心が聞けて良かった。これで漸く言えるみたいだからね」
「………ぇ………」
今度はスタークが言葉を失う番だった。
抱き込まれている為、京楽の表情が見えない。
不安そうに震えているスタークに気付き、京楽が微苦笑して身体を離した。
温かい濃茶の瞳にスタークの顔が映り込んでいる。
「スターク。いや、コヨーテ・スターク。僕のお嫁さんになって欲しい。
…とと、怒られちゃうね。う~ん、そう、僕の伴侶になって欲しいんだ。
……えっと…意味分かるかな。生涯、ずっと僕の傍に居て欲しいんだ」
スタークは暫く放心したかのように京楽の顔を凝視していた。
困ったように京楽が顔を引き攣らせる。
男である京楽が、男であるスタークに求婚したのだ。
尋常でなければ冗談だと思う事だろう。
しかし、スタークはお呪いのように、ぽつりと呟いた。
出逢った頃に言われた奇跡のような言葉を思い出したのだ。
「………京楽の………本当の……家族……に………」
止まっていた涙が再び溢れ出す。
京楽は再びスタークをその胸に抱き締めると困ったように笑った。
その涙は喜びの涙でいいのかなと耳元で囁くと、スタークは縋るようにその背に腕を廻すと、小さく頷いた。
一人じゃない。
一人じゃないんだ。
その真の意味を、スタークは知る。
神泉のように溢れて止まらない温かい思いは、幸せという気持ちなのだろう。
だから、泣いてはいけないと、小さな犬歯をきゅっと噛み締める。
京楽の背中越しに、昼間のように明るく、月明かりが二人をいつまでも照らし続けていた。
<了>
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迷いましたが、スタークがお嫁さんになる原点のSSなので、再掲します。
再掲するに当たり、直接的な表現は訂正しております。ご了承下さい。
これから新妻スタークに続く訳です。新妻スタークまた書きたいですね。