青色日誌

還暦を超え、子育てもひと段落。さて!

黒坂通信7

2023年05月07日 | 思うこといろいろ
4月30日に開催されたレアサウンズコンサートのゲスト、
ピーター・オルスタッド氏を日本に招いてくださった、
プロモーター黒坂氏が綴る今回のツアーの記録を転載。

今回で最終回。
ビッグバンド愛好家にはとても興味深い内容ですよ!


新高岡駅前のホテルをチェックアウトしたピーターと私は、金沢、新大阪を経由して新神戸へ。滋慶学園COMグループの神戸・甲陽音楽&ダンス専門学校で、ユースバンド2団体を指導します。曲目は以下の通り。

1.柳学園蒼開高校Swinging Willow Jazz Orchestra
“Begin The Beguine”
”Mambo No.5”
2.神戸Youth Jazz Orchestra
“Tall Cotton”
”Council Grove Groove”

それぞれの曲で、ピーターがリードとして一緒に演奏してお手本を見せました。メンバーひとりひとりがテンポを正しく意識して演奏することでバンド全体のアンサンブルが整う、個人練習では小さな音量から大きな音量までいろんな変化をつけることでボリューム操作能力が高まる、短い間隔で練習と休憩を繰り返して耐久力を育てる、曲の“フィール”を理解する、自分の出したい音をイメージするためにいろんな名演をよく聴くなど、具体的な練習方法がアドバイスされました。

今日の受講者についてではなく、あくまでも一般論ですが、多くのアメリカの一流ミュージシャンのクリニックを通訳してきて、日本とは異なるところに練習の重点を置いていると感じます。

日本の学校バンドの多くは、ひとつの曲に多くの時間をかけて練習し、細部まで徹底的に練り上げるのを中心課題にする傾向が強い。つまり「完成化」です。

一方、アメリカのスタジオあるいはジャズミュージシャンが口を揃えて強調するのは、「初見」「即興」の2点です。初見については、同じ曲を何度も練習しない、次々と違う譜面に触れていろんな音楽のスタイルに慣れる、などが指導されます。

即興については、目を使わないで耳を使って練習しようというアドバイスがなされます。たとえばメジャースケールの1度、2度、3度、5度(ドレミソ)というモチーフを使って、それを4回繰り返す。次に半音上げる、さらに半音上げる…と繰り返し、すべてのキーで練習する。これを譜面に書かないで、頭の中でやるわけです。

また5度、3度、2度、1度(ソミレド)を使って上から半音ずつ降りてくる練習。さまざまなアーティキュレーションを組み合わせる。メジャースケールで違うモチーフを作る、マイナースケールでもやってみる、その他のスケールでもやってみる、など無数の練習を作ることができます。これをすべて頭の中でやる。

今日のピーターはそこまで踏み込んだ指導はしませんでしたが、バンド指導をする側と受ける側との認識が少し違うのは感じられました。つまり日本のバンドは与えられた時間(今回は70分)で2曲の細部を磨き上げてもらいたい。けれども指導する側はざっと聞いて課題を洗い出したら次の曲に進もうとします。

私の経験では、アメリカの大学の音楽学部でバンドクリニックを受けると、1時間で5〜6曲、多いときは10曲近くを次から次へと指導します。曲を覚えてしまわないうちに次の曲へ進むわけです。こういう練習を繰り返すことで、音楽の全体像を直感的につかむ能力を磨いているのだと思われます。

1曲の完成度を高めるのが「閉じる」練習だとすれば、初見と即興に重点を置くのは「開く」練習と表現できるかもしれません。どちらかを肯定してどちらかを否定するのではなく、アプローチの違いに着目することで多くの学びが得られるのではないかと思います。

打ち上げは、CNNが大阪で一番おいしいと報じたお好み焼き店「てんぐ」にて。今日のクリニックのコーディネーターであるグローバルの野々村さん主催による宴で、サックス奏者の古谷さん、ピーター、私の4人で鉄板を囲みました。

何もかもが4年ぶりの春のジャズツアー。いつもより短めの行程でしたが、ギュッと内容が凝縮された充実の日々でした。パンデミックから復興の手応えを感じます。

今回も各地で多くの方々のお世話になりました。バンド、学校、ホール、ライブハウス、楽器店、音響、照明、舞台、そして会場へ足を運んで温かい声援を送ってくださったお客さんたち。この場をお借りして謝意を表したいと思います。ありがとうございます。

またお目にかかる日を楽しみにしています。
この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 大阪3 | トップ | 5類 »