あおいこころ

わたしがこの世で生きていくこと🍎

アザラシまんじゅう 9話(最終話)/空想遊び🙃

2023-07-09 08:26:00 | 空想遊び

◇9話 愛のかたち(最終話)

 そのころ、アザラシまんじゅうの星で1匹のアザラシまんじゅうが悲しげに鳴いた。
「クー。。。」
周りのアザラシまんじゅう達も鳴き始めた。
その声に反応したように、海から微笑みの女の子が上がってきた。
微笑みの女の子の姿を見るとアザラシまんじゅう達は落ち着いたように静かになった。
少し困ったような表情をした微笑みの女の子は空を見上げ、手を合わせた。
合わせた手を開けると手の中には、一本の注射器があった。
注射器の中には淡い桃色の液体が入っていた。

 地球の地下深くから低い地鳴りが聞こえ始めた。
その地鳴りは、まるで重低音のあの鳴き声だった。
「クー、クー。。。キュー、キュー。。。」
この地鳴りを聞いた人間たちは、地球に浸透しているアザラシまんじゅうのことを思い出したのだった。
アザラシまんじゅうの与える一方の愛が、すべてを奪う憎しみとなった。
地面が揺れ始め、世界中で地割れが起こった。
巨大な津波、砂嵐、竜巻、洪水、あらゆる災害をアザラシまんじゅうは操り、人間達の築き上げた文明を容赦なくなぎ倒していった。
与えたものを一気に回収するかのように、今まさに地球を飲み込もうとその勢いは最大になった。
その時、黒雲渦巻く空に現れた巨大な手。
その手には注射器が握られていた。
注射器は地球に刺さり、淡い桃色の液体が注入されていった。

 地震も嵐も止み、空は澄み渡り、津波や洪水も引いていった。
地球上は静寂の世界になった。
ビルが倒壊し廃墟となった街のいたるところから生き残った人間達が這い出してきた。
すべてが止まったかのように何も聞こえない。
次の瞬間、地球上から無数の白い光の糸が北の空に向かって伸びていった。
無数の光が一点にまとまると大気圏を通り抜け、宇宙空間に出た。
地球のすぐ外の宇宙には、地球を抱えられるほどに大きな微笑みの女の子がいた。
光は、微笑みの女の子の手のひらに乗るほどのアザラシまんじゅうになった。
「クークー」
とアザラシまんじゅうは、微笑みの女の子の手のひらに乗って鳴いた。
優しい笑みを浮かべて、微笑みの女の子はパクリとアザラシまんじゅうを食べた。
そして微笑みの女の子は、一点の光となって消えた。

 地球からアザラシまんじゅうは除去され、人間達は救われた。
人間達は多くを失ったが、清浄化された地球が戻った。
この先の人間達は、アザラシまんじゅうが残した地球を保つことができるだろうか。

 アザラシまんじゅうの星では、今日も微笑みの女の子とアザラシまんじゅう達の穏やかな、究極の愛に満ちた日々が続いている。



アザラシまんじゅう 8話/空想遊び🙃

2023-07-08 07:39:06 | 空想遊び

◇8話 歪むアザラシまんじゅう

 アザラシまんじゅうを最初に食べた日本の女の子が学校から戻ってきた。
「お腹すいた〜!ママ、おやつは?!」
「ずっとこないだからアザラシまんじゅうが鳴いてるわよ。食べてよ。」
と母親が言った。
「え〜、違うおやつがいい。」
母親は、お皿に乗せたアザラシまんじゅうを女の子に持ってきた。
「はい、食べて。」
「だって、飽きちゃったんだもん。違うの出して!」
と女の子は言うとアザラシまんじゅうを突っぱねた。
その勢いで、お皿のアザラシまんじゅうが床に転がってしまった。
ころころ転がるアザラシまんじゅうを母親と女の子は見ていた。
アザラシまんじゅうが後ろ向きに止まった。
そして、震えたように思えた。
2人は息を飲んだ。
後ろ向きだったアザラシまんじゅうは、ゆっくりと振り向いた。
落ちた衝撃からか、可愛いアザラシまんじゅうの顔はやや歪んでいた。
その歪んだ顔は、ゆっくり変化していった。
可愛かったその顔は、悲しみに満ちた表情になった。
女の子が近づこうとすると母親が怪訝な面持ちで止めた。
するとアザラシまんじゅうの顔は、目と口がつり上がり眉間にシワが深く刻み込まれ、一気に怒りの顔に変化した。
「きゃー!!」
女の子と母親は、その恐ろしい顔に悲鳴を上げて部屋を飛び出した。
世界中のアザラシまんじゅうの形相が一変した瞬間だった。

 このアザラシまんじゅうの変化を合図にしたように、最終ゴミ埋立地の上空に雲が集まってきた。
雲は渦を巻き、強い風が吹き始めた。
風に巻かれて大量の灰が舞い上がっていく。
灰色の大気が辺り一帯を埋め尽くしていった。
雲は静電気を帯び始め、雷鳴が轟いた。
灰色の大気は巨大な壁のように街に襲いかかった。
逃げ惑う人間達を灰は飲み込んでいった。
この灰は世界のいたるところで現れ、同じように街を襲った。

 全世界で海面が低下し始め、猛スピードで海水が蒸気に変わっていった。
蒸気は巨大な雲となって、地球上を覆った。
嵐が吹き荒れ、人間達は何が起こったのか分からず、逃げ場もなく右往左往するだけだった。


アザラシまんじゅう 7話/空想遊び🙃

2023-07-07 07:30:41 | 空想遊び

◇7話 愛と悲しみ

 アザラシまんじゅうの鳴き声は食品ロスを大いに削減した。
人間たちもその鳴き声が可愛かったし、便利に思っていた。

 人の心は移ろいやすいもの、流行りなど継続しない、永遠に変わらないものなんて地球上には存在しない。
アザラシまんじゅうは、そのことを知らなかった。
そしてアザラシまんじゅうの人気もかげり始めていた。

 ここは一人暮らしの男性のアパート。
冷蔵庫の中から「クークークー」と鳴き声が聞こえる。
扉を開けた男性が、消費期限を迎えようとするアザラシまんじゅうを見つけた。
冷蔵庫には5個入りのケースに入ったアザラシまんじゅうがあった。
「ああ、忘れてた。。。もらったんだった。俺、甘いの苦手なんだよね〜」
と言いながら、アザラシまんじゅうを手に取ってみたけれど冷蔵庫に戻してしまった。
明くる日も明くる日もアザラシまんじゅうは冷蔵庫で鳴き続けた。
とうに消費期限は過ぎてしまった。
そして男性はごみ捨て日の朝、鳴き続けるアザラシまんじゅうを他のゴミと一緒に、ゴミ袋に入れて捨ててしまったのだった。
ゴミを回収したゴミ収集車の中では、アザラシまんじゅうの鳴き声が聞こえていた。
それは男性が捨てたアザラシまんじゅうの鳴き声だけではなかった。
消費期限を迎え、捨てられた他の加工食品からも聞こえていたのだ。

 だんだん人間達にとって、消費期限を教える鳴き声は面倒に思えるようになってきたのだった。
鳴き声を無視して、次第に罪悪感も薄れていき、食品ロスは以前の水準に戻りつつあった。
大量に製造されたアザラシまんじゅうは在庫を余らせていった。
消費期限間近になったアザラシまんじゅうも店舗で廃棄されるようになっていった。
ゴミ焼却炉の中で、アザラシまんじゅうの鳴き声が聞こえる。
鳴き声はやがて燃え盛る炎にかき消され、聞こえなくなった。
燃え尽きて灰になったアザラシまんじゅうは、最終埋め立て地に運び込まれた。
食べられず、忘れ去られ、捨てられ、燃やされ、灰になって、埋められる。

 どんなに無念だろう、食べられることで与えるだけの愛を喜びにしていただけなのに。
その灰は、風に揺れているのか、それとも意識的に揺れているのか、虚しさが感じられるのだった。


アザラシまんじゅう 6話/空想遊び

2023-07-06 06:59:00 | 空想遊び

◇6話 アザラシまんじゅうの鳴き声が聞こえる

 世界中でアザラシまんじゅうは食べられ、世界中の人が排泄したものが、世界中の水や土に溶け込んでいった。
その大地や水で育った小麦やサトウキビなどが、アザラシまんじゅうの材料となっていく。
量産されたアザラシまんじゅう内のアザラシまんじゅう濃度が徐々に高くなっていった。
そんなことを人間達は知るよしもなかった。

 ここはある住宅の台所の棚の中。
忘れ去られたアザラシまんじゅうが、消費期限を迎えようとしていた。
アザラシまんじゅうは小刻みに振動し始めた。
「クー、クー。。。」
アザラシまんじゅうが鳴いたのだった。
「クークー、クークー」
何度も鳴いた。
住人の女性が鳴き声に気がついた。
台所に行き、棚の中から聞こえてくることを突き止めた。
恐る恐る棚の扉を開けると鳴き声は止まった。
女性はアザラシまんじゅうを見つけた。
「忘れてたわ。あら?今日が消費期限だわ。」
と言うと、アザラシまんじゅうを食べた。
この現象は世界のあちこちで、ほぼ同時期に始まっていた。
最初は都市伝説のように語られていたが、だんだんそれが日常的になっていき、アザラシまんじゅうは消費期限を教えてくれる食べ物となっていったのだった。
さらにしばらくすると消費期限を教えてくれる食べ物が、アザラシまんじゅう以外にも出始めたのだった。
これは、水や土に含まれるアザラシまんじゅうの濃度が増していき、地球で育った植物に影響を与えたからだ。
植物由来のパンやジュース、お菓子などの加工食品が食べることを忘れられていると「クークー。。」と鳴いて教えるようになった。
人間に忘れ去られようとする食品をアザラシまんじゅうの鳴き声が思い出させてくれた。
世界中の人々が食品ロスを意識できるようになって、捨てられる食品がなくなっていった。

海洋学者や地質学者達は海水や土の微粒子の中を飛び回る微細なアザラシまんじゅうを見つけていた。
世界中でニュースにもなったが、悪影響を与えていないことから騒がれることはなかった。
地球に浸透したアザラシまんじゅうが影響を与えたものは、植物だけではなかった。
この頃から、地球環境が徐々にアザラシまんじゅうによって改善されていたのだった。
水や土、大気の汚染が除去され、海洋プラスチックまでも分解され、気温が安定して異常気象がなくなった。干ばつや水不足もなくなり、作物は大地で豊かに育った。疫病の発生も激減した。
しかし、これがアザラシまんじゅうのお陰だとは誰も気づかなかった。
人間達は自分たちの改善努力が実を結んだとしか考えていなかった。


アザラシまんじゅう 5話/空想遊び

2023-07-05 21:01:00 | 空想遊び

◇5話 アザラシまんじゅう量産開始

 男性社員の新商品アザラシまんじゅうは、みごと企画会議を通過した。
アザラシまんじゅうの小豆餡はアメリカの小豆を使うことになった。
そう、アザラシまんじゅうの1つが墜落した、あの畑で作られた小豆が使用されることになったのだ。
試作品のアザラシまんじゅうが出来上がると男性社員は家に持ち帰った。
娘に食べさせると
「美味しい!やっぱりお父さんの会社のおまんじゅうだったんだね!」
と嬉しそうに食べた。

 売り出されたアザラシまんじゅうは、あっという間に話題になり人気商品となった。
中国や韓国にも輸出されるようになった。
さらに見た目の可愛さやクリーミーな味わいが欧米にも受け入れられ、日本を代表するお菓子の地位を得た。
日本のアザラシまんじゅう工場は生産も輸送も追いつかず、国外にも工場を建設することになった。
世界でアザラシまんじゅうを知らない人はいないくらいに人気は広がっていった。