短編⑮
緑豊かな静岡の山間に佇む小さな村。その村で生まれ育った長岡幸太は、幼い頃から母親と二人暮らしをしていた。幸太にとって、母親は太陽のような存在だった。いつも優しく、愛情を注いでくれた母親は、幸太にとってかけがえのない宝物だった。
しかし、ある日、母親は突然病に倒れ、この世を去ってしまう。幸太は深い悲しみに包まれ、生きる希望を失いかけた。そんな幸太を支えてくれたのは、母親の形見であるオルゴールだった。
そのオルゴールは、母親がいつも幸太に聞かせてくれた子守唄を奏でるものだった。オルゴールの音色を聴くたびに、幸太は母親の温もりを感じ、心が癒された。
幸太は、オルゴールを肌身離さず持ち歩き、辛い時も前を向く力を得た。そして、いつか必ず母親の思い出の地を訪れ、そこでこのオルゴールを奏でようと決意する。
数年後、幸太は夢だった旅に出る。母親が大好きだったという、静岡の海辺の町を訪れたのだ。幸太は、母親との思い出を辿りながら、美しい景色を満喫した。
そして、ついに母親がよく訪れていたというカフェにたどり着く。そのカフェには、なんとあのオルゴールが飾られていたのだ。幸太は驚きと喜びで胸がいっぱいになった。
幸太は、オルゴールを手に取り、そっと蓋を開ける。すると、オルゴールからは美しいメロディーが流れ出し、幸太の心を溫かい光で包み込んだ。そのメロディーは、母親がいつも歌っていた子守唄そのものだった。
幸太は、涙を流しながらオルゴールをしっかりと抱きしめた。母親はもういないけれど、このオルゴールを通して、母親の温もりを感じることができたのだ。
幸太は、オルゴールを手に、母親との思い出の地をゆっくりと散策した。そして、海辺の丘の上で、母親に語りかけるようにオルゴールを奏でた。
オルゴールの音色は、風にのり、遠く海へと響き渡った。幸太は、母親との絆を胸に、これからも力強く生きていくことを誓った。