長倉幸男の短編書庫

オリジナル短編を気ままに掲載してます。

短編⑮

2024-08-08 | 日記

緑豊かな静岡の山間に佇む小さな村。その村で生まれ育った長岡幸太は、幼い頃から母親と二人暮らしをしていた。幸太にとって、母親は太陽のような存在だった。いつも優しく、愛情を注いでくれた母親は、幸太にとってかけがえのない宝物だった。

しかし、ある日、母親は突然病に倒れ、この世を去ってしまう。幸太は深い悲しみに包まれ、生きる希望を失いかけた。そんな幸太を支えてくれたのは、母親の形見であるオルゴールだった。

そのオルゴールは、母親がいつも幸太に聞かせてくれた子守唄を奏でるものだった。オルゴールの音色を聴くたびに、幸太は母親の温もりを感じ、心が癒された。

幸太は、オルゴールを肌身離さず持ち歩き、辛い時も前を向く力を得た。そして、いつか必ず母親の思い出の地を訪れ、そこでこのオルゴールを奏でようと決意する。

数年後、幸太は夢だった旅に出る。母親が大好きだったという、静岡の海辺の町を訪れたのだ。幸太は、母親との思い出を辿りながら、美しい景色を満喫した。

そして、ついに母親がよく訪れていたというカフェにたどり着く。そのカフェには、なんとあのオルゴールが飾られていたのだ。幸太は驚きと喜びで胸がいっぱいになった。

幸太は、オルゴールを手に取り、そっと蓋を開ける。すると、オルゴールからは美しいメロディーが流れ出し、幸太の心を溫かい光で包み込んだ。そのメロディーは、母親がいつも歌っていた子守唄そのものだった。

幸太は、涙を流しながらオルゴールをしっかりと抱きしめた。母親はもういないけれど、このオルゴールを通して、母親の温もりを感じることができたのだ。

幸太は、オルゴールを手に、母親との思い出の地をゆっくりと散策した。そして、海辺の丘の上で、母親に語りかけるようにオルゴールを奏でた。

オルゴールの音色は、風にのり、遠く海へと響き渡った。幸太は、母親との絆を胸に、これからも力強く生きていくことを誓った。


短編⑭

2024-08-02 | 日記

薄暗い室内に、雨音が静かに響き渡る。窓辺に置かれた古いオルゴールは、かすかにメロディーを奏でている。その音色に誘われるように、少女はオルゴールの前に座り込んだ。

少女の名前はサキ。幼い頃から病弱で、外の世界を知ることはほとんどなかった。唯一の友人は、このオルゴールと、窓から見える景色だった。

ある雨の日、サキはオルゴールの音色に混じって、別の旋律を聴いたような気がした。それは、これまで聴いたことのない、美しいメロディーだった。

音色に導かれて、サキは窓辺へと向かう。雨に濡れたガラス越しに、一人の少年が立っているのが見えた。少年はサキと同じように、雨の中をじっと見つめている。

二人は言葉も交わさず、ただ互いを眺めていた。しかし、その視線には、言葉よりも深い理解と共感があった。

雨音が止み、空に虹がかかると、少年はそっと微笑み、サキに手を差し伸べた。サキは勇気を出して手を握りしめ、二人は初めて言葉を交わした。

その日から、サキと少年は親友となった。二人は雨の日になると必ず会って、オルゴールの音色を聴きながら、色々な話をした。

少年はサキに、外の世界の様々なことを教えてくれた。木々の香り、風の感触、太陽の光。サキは、これまで想像もできなかった世界に心を奪われた。

しかし、そんな幸せな日々は長くは続かなかった。少年は病に倒れ、遠くに旅立ってしまった。

サキは悲しみに暮れたが、少年との思い出を胸に、強く生きようと決意した。そして、少年が教えてくれたことを胸に、外の世界へと踏み出すことを決意した。

窓辺のオルゴールは、今でも静かにメロディーを奏でている。その音色は、サキにとって、永遠に大切な友人の存在を思い出させてくれる。

雨の日になると、サキはいつも窓辺に立ち、空を見上げる。虹がかかっていることを願って。そして、少年との約束を思い出す。

いつか、また会える日まで。