もうひとつの場所／野又穫

先週、新聞を読んでいて
「“空想の建築”精密な描写」という見出しと
塔のような、灯台のような不思議な建物の絵を見ました。

「画家・野又穫さんが大規模個展」というニュースでしたが
その絵が気になって、滅多にないことですが
すぐにネットで調べて、5分以内に画集を2冊ネット注文してしまいました。
（先日の話のとおり、ちょっと目を離すと思い出すことができませんから（汗））

私は、特別絵画好きというわけではなく、
野又さんという画家のことは知りませんでした。

ただし建築を見るのは好きです。そして、もともとサルバドール・ダリのような
シュールな絵が好きだったこともあり
なんか、とても魅かれる絵でした。

2冊の画集には、モニュメント（記念碑）のような、塔のような
温室のような、大都市のような、不思議な建造物が100以上掲載されています。
なお、人間は一切出てきません。

私はよく旅の夢や、大きな建造物の中に迷い込むような夢を見ますが
夢に見そうな建物ばかりです。

今回、「オトナの絵本」のカテゴリーに入れましたが
絵画集でありながら、物語が見つかりそうな
何か絵本を見ているような本だと思ったので、入れました。

ALTERNATIVE SIGHTS―もうひとつの場所　野又穫作品集
出版社：青幻舎（2010年8月1日発行）

Points of View - 視線の変遷 - 野又穫作品集
出版社：東京書籍（2004年2月発行）

なお、個展は群馬県立近代美術館にて29日（日）まで
「もうひとつの場所ー野又　穫のランドスケープ」
ぜひ、実物の絵を見て見たいですが、今回はちょっと無理です。
東京での新たな個展開催を待とうと思います。

画集が届き、眺めているうちに
絵画というよりイラストレーション的だとも思いました。

「絵画とイラストレーション」
「画家とイラストレーター」の違いについてよく疑問が聞かれます。

絵画は自己表現。イラストは目的性のある表現などと言われますが
私はその境界線は曖昧だと思います。

たしかに、広告などで使われるイラストレーションは
クライアントからの依頼に応えたもので
場合によっては修正に応じなくてはなりません。
しかし、イラストレーターがオリジナル作品で個展を開くのは普通のことです。

画家も自己表現とはいえ
パトロンの求めに応じた内容の絵画や壁画を描くことはあります。

イラストレーターから画家に転向した著名人に横尾忠則さんがいますが
「画家宣言」の前と後の作品自体にはあまり違いは無いと思います。
商業からの決別という本人の意識の違いでしょう。

横尾忠則さんのイラストレーター時代の代表作のひとつ
サンタナ「アミーゴ」のレコードジャケット

また、日本画家の加山又造さんという画家は
航空会社や、自動車メーカーからの求めに応じて
飛行機やクルマのデザインを発表しています。

British Airways旅客機の尾翼デザイン

加山又造デザインのBMW

今回の野又さんの絵画は、キャンバスに描かれ
高さ2メートル近い大作もありますが、油彩ではなく、
ほとんどがアクリル絵の具で描かれているようです。
いまは知りませんが、私が若いころ人気イラストレーターは
こぞってアクリル絵の具でイラストを描きました。
油絵の具より乾きが早く、油絵風にも水彩画風にも描ける絵の具です。

また、野又さんは芸大のデザイン科を出て、外資系の広告代理店で
数年アートディレクターとして勤務しています。
そんなバックグラウンドが、普通の画家の絵画と違う印象を
与えるのかもしれません。

もちろん、イラストレーションの印象を受けたとしても
軽いとか、商業的なんて言うつもりはありません。
むしろ、野又さんの作品こそが、現代一流の芸術なのでしょう。