いつまで経っても解決せず、どうもしっくり来ない日々が続いた。「いくら何でも時間がかかり過ぎる。電話に出ないならHの自宅に行くなりして、さっさと交渉してこんな問題は終わらせてくれ」と強く言うと、古坂は私に裁判をしたらどうかと勧めた。しかし、裁判をすると言っても、確実に勝てるという保証はない。当然、Hは嘘をついて自分に有利に主張するだろう。10:0であると証明できるのは、物的証拠があってこそである。物的証拠と言えば、車のキズしかない。双方の車のキズの写真があって、初めて向こうがぶつかって来た事故だと証明できる。だが保険会社が動いてくれないので、証拠が得られず、相手の嘘を暴くことができない。なのに、古坂はただ「大丈夫だ」と言うだけで、私を説得しようとする。事故係を動かしてきちんと証拠を押さえてくれるわけでなく、要は保険会社の協力なしに勝手に一人で訴訟を起こせと言ってるに過ぎない。証拠がなければうまく行く筈がない。何を根拠にしての大丈夫なのか分からず、随分と無責任なことを言うなと思い、「裁判での証拠を用意するためにも、現場検証をして欲しい」と訴えたが、相変わらず「Hに電話しても、相手は出ない」と言い続けるだけで、事故係さえ動かしてくれなかった。
そんな状態がダラダラと続き、何週間も時間ばかりが過ぎて、何の進展も見られなかった。速やかに報告したのに事故係は動かず、相手が電話に出ないことを理由に何もしてくれない。どうしても、この事故は保険会社とは関係のない10:0の事故である、という形にしたがり、曖昧なままにして終わらせようとする。「事故の相手が反論できぬよう、きちんと事故係を動かして証拠を押さえてくれ」と頼んでも、「10:0の事故だから、こちらから積極的に電話して、修理代を取り立てるようなことはしない」というのが、保険会社側の基本的スタンスだった。その理屈からすると、古坂は本来やらなくてもいいことをやってあげてるということになるので、真剣に私の相手をしてくれる筈もなかった。そして、事故の相手が電話に出ないことが、この事故を10:0と見なし、それらの理屈を正当化する決定的根拠となっていた。しかし、このまま物的証拠を押さえずにいては、自分に過失がないことを証明する手立てがなくなる。それを考えると、私は怖くなった。
古坂の態度に疑問を抱いた私は、あいおい損保の本社に電話して、事故の担当者を替えるように頼んだ。だが、本社には事故の報告さえなされていなかった。事故があったという扱いさえされてなかったのだ。電話に出た人は、「この件に関しては、代理店の責任者である、松戸第一支社の田中克橘課長に電話させます」と言った。代理店のことは全て田中が取り仕切っていて、田中の指示で動いているので、代理店の苦情は田中と話すのが一番手っ取り早いということだった。
その後、すぐに古坂からあやまりの電話がかかって来た。「必ずHから修理代をとってあげますから、冷たいこと言わないで下さい。長い付き合いじゃないですか」と言って来た。私は古坂だけでもうまく使って自分で証拠を押さえようと考え、「何とかしてHと連絡をとり、現場検証をやってくれるように」と頼んだ。目的は、Hの車のキズを写真に撮り、Hの矛盾した説明を録音するためである。裁判の結果を確実なものにするためには、証拠としてどうしてもそれらを提出したかった。双方の車のキズの写真があれば、どちらが止まっていてどちらが動いていたかを証明できるし、Hの言ってることには嘘があるので、現場検証をすれば必ず話に矛盾が出るであろう確信があった。
その夜、松戸第一支社の田中から電話がかかって来た。田中は、「この事故は相手がぶつかって来たものだから10:0であり、全面的に相手に過失があるので、保険会社のタッチする事故ではない」と言って来た。「しかし、10:0というのはこっちで勝手に言ってるだけで、事故係を動かして客観的にきちんと調べたわけではないし、相手と何の交渉もしないうちに手を引かれては困る」と訴えると、「うちはお客様の言った事故の説明を第一に信用することにしている。あなたの話では10:0ということになるので、この件に関してはうちは関与しない」と言い、「ましてや電話をしても相手が出ないのでは、相手は逃げているのであり、この問題はもう終わったこととみなしている」と言う。そこで私は、「勝手に終わったことにされては困る。じゃあ、このまま中途半端に終わらせて、私が車を持たなくなり、あいおい損保とも契約がなくなった頃、こんな問題なんか忘れた頃になって、事故の相手が金を払えと脅して来た時、何とかしてくれるのか?」と訊くと、「その時はあなた自身で何とかして下さい。うちは一切関係ありません」と言う。「事故係も動かさず、証拠も掴んでないのに、何で10:0と言えるのか?裁判になった時、裁判所に来てこの事故は10:0であると証明してくれるのか?」と訊くと、「そんなことはできない」と言う。「じゃあ事故係を動かして、きちんと裁判で証明できる証拠を押さえてくれ」と頼むと、「この事故は10:0なのでできない」と言う。「じゃあ、何を以ってあんたは10:0と断定してるのか?」と訊くと、「それはもう、お客様の話を信じるしかない」と言い、どこまでも逃げ続け、とことん何もしようとしない。田中という男は、正論なんてものは最初から踏み倒していた。「そんな酷い話があるか!」と言うと、「他の会社はもっと冷たいですよ」とヌケヌケと言う。
そんな状態がダラダラと続き、何週間も時間ばかりが過ぎて、何の進展も見られなかった。速やかに報告したのに事故係は動かず、相手が電話に出ないことを理由に何もしてくれない。どうしても、この事故は保険会社とは関係のない10:0の事故である、という形にしたがり、曖昧なままにして終わらせようとする。「事故の相手が反論できぬよう、きちんと事故係を動かして証拠を押さえてくれ」と頼んでも、「10:0の事故だから、こちらから積極的に電話して、修理代を取り立てるようなことはしない」というのが、保険会社側の基本的スタンスだった。その理屈からすると、古坂は本来やらなくてもいいことをやってあげてるということになるので、真剣に私の相手をしてくれる筈もなかった。そして、事故の相手が電話に出ないことが、この事故を10:0と見なし、それらの理屈を正当化する決定的根拠となっていた。しかし、このまま物的証拠を押さえずにいては、自分に過失がないことを証明する手立てがなくなる。それを考えると、私は怖くなった。
古坂の態度に疑問を抱いた私は、あいおい損保の本社に電話して、事故の担当者を替えるように頼んだ。だが、本社には事故の報告さえなされていなかった。事故があったという扱いさえされてなかったのだ。電話に出た人は、「この件に関しては、代理店の責任者である、松戸第一支社の田中克橘課長に電話させます」と言った。代理店のことは全て田中が取り仕切っていて、田中の指示で動いているので、代理店の苦情は田中と話すのが一番手っ取り早いということだった。
その後、すぐに古坂からあやまりの電話がかかって来た。「必ずHから修理代をとってあげますから、冷たいこと言わないで下さい。長い付き合いじゃないですか」と言って来た。私は古坂だけでもうまく使って自分で証拠を押さえようと考え、「何とかしてHと連絡をとり、現場検証をやってくれるように」と頼んだ。目的は、Hの車のキズを写真に撮り、Hの矛盾した説明を録音するためである。裁判の結果を確実なものにするためには、証拠としてどうしてもそれらを提出したかった。双方の車のキズの写真があれば、どちらが止まっていてどちらが動いていたかを証明できるし、Hの言ってることには嘘があるので、現場検証をすれば必ず話に矛盾が出るであろう確信があった。
その夜、松戸第一支社の田中から電話がかかって来た。田中は、「この事故は相手がぶつかって来たものだから10:0であり、全面的に相手に過失があるので、保険会社のタッチする事故ではない」と言って来た。「しかし、10:0というのはこっちで勝手に言ってるだけで、事故係を動かして客観的にきちんと調べたわけではないし、相手と何の交渉もしないうちに手を引かれては困る」と訴えると、「うちはお客様の言った事故の説明を第一に信用することにしている。あなたの話では10:0ということになるので、この件に関してはうちは関与しない」と言い、「ましてや電話をしても相手が出ないのでは、相手は逃げているのであり、この問題はもう終わったこととみなしている」と言う。そこで私は、「勝手に終わったことにされては困る。じゃあ、このまま中途半端に終わらせて、私が車を持たなくなり、あいおい損保とも契約がなくなった頃、こんな問題なんか忘れた頃になって、事故の相手が金を払えと脅して来た時、何とかしてくれるのか?」と訊くと、「その時はあなた自身で何とかして下さい。うちは一切関係ありません」と言う。「事故係も動かさず、証拠も掴んでないのに、何で10:0と言えるのか?裁判になった時、裁判所に来てこの事故は10:0であると証明してくれるのか?」と訊くと、「そんなことはできない」と言う。「じゃあ事故係を動かして、きちんと裁判で証明できる証拠を押さえてくれ」と頼むと、「この事故は10:0なのでできない」と言う。「じゃあ、何を以ってあんたは10:0と断定してるのか?」と訊くと、「それはもう、お客様の話を信じるしかない」と言い、どこまでも逃げ続け、とことん何もしようとしない。田中という男は、正論なんてものは最初から踏み倒していた。「そんな酷い話があるか!」と言うと、「他の会社はもっと冷たいですよ」とヌケヌケと言う。