枯野

写真の楽しみ

ソニーの新人事

2005-03-21 | 雑文


 ソニーの会長兼最高経営責任者(CEO)に外国人のハワード・ストリンガー氏が、指名委員会で指名されたことは、衝撃的なニュースであった。新聞の報道によると、最終的にそこに落ち着くまでには、「出井CEO・久多良木社長」、「出井・ストリンガー共同CEO」案も一時は浮上していたが、指名委員会における社外取締役が難色を示したため受け入れられなかったということである(3月19日朝日新聞)。
 ソニーのように委員会等設置会社を選択した会社では、株主総会に提出する取締役の選任及び解任に関する議案の内容は、指名委員会が決定する権限を有し、この指名委員会の委員の過半数は、社外取締役であってその委員会等設置会社の執行役でない者でなければならないことになっているから、事実上、取締役の選任解任については、指名委員会における社外取締役の意向が決定的な役割を果たすことになるわけである。普通の会社では、株主総会に提出して選任を求める取締役の候補者の決定は、取締役会の決議で定めればよく、取締役会の構成員である取締役は、全員、社長の部下で社長にはまったく頭が上がらない立場の者、いってみれば「社内取締役」ばかりであるから、実際上すべて社長の意のままに決定することができ、完全な社長独裁となっていることは、いまさら指摘するまでもないところである。こうした取締役会の形骸化は、株主総会の形骸化と相俟って、会社の全株式の過半数以上を自ら保有しているわけでもないのに、社長のようなトップ経営者が一人で長年にわたり絶大な権力を掌握し、会社を私物化しているため、勿論すべてがこうしたワンマン社長のせいとはいえないまでも、ともすると不正の固まりのような集団が形成されることになることは、日々、こうしたトップ経営者の下でなされる、さまざまな不正・法令不遵守(巨額脱税・粉飾決算、虚偽報告・談合・価格協定その他各種の経済犯罪など)、公私混同、放漫経営の崩壊等々のニュースで溢れる新聞記事でも明らかなとろである。
 株式が公開され、一般の資本が導入されている上場大会社の場合は、いわゆるコーポレート・ガバナンス(会社統治)の見地から、こうした弊害に対処すべく、アメリカで発達してきた委員会等設置会社の制度が、遅ればせながらも最近我が国でも導入され、いち早くソニーなどが採用に踏み切ったのであったが、今回のソニーの新人事において、はからずもその成果の一部がみられたともいえそうである。しかし、まだ始めたはかりの新制度であり、採用会社数も少ないことでもあり、この制度が実際に所期した効果を十分に発揮するか否か、今後の推移を見守るほかない。
 委員会等設置会社を選択すると、設置が義務づけられる三つの委員会(指名委員会・監査委員会・報酬委員会)の委員の過半数は、社外取締役でなければならないことになっているから、趣旨にかなった現経営陣から一定の距離を置いた中立・公平な真に社外取締役の名に値する者達が選定された場合には、これらの事実上キャスティング・ボートを握る社外取締役によって、社長独裁、社長による会社の私物化などが牽制されることになるわけであるが、だだ、我が国のこの「社外取締役」の法律上の定義は、「其ノ会社ノ業務ヲ執行セザル取締役ニシテ過去ニ其ノ会社又ハ子会社ノ業務ヲ執行スル取締役、執行役又ハ支配人其ノ他ノ使用人トナリタルコトナク且現ニ子会社ノ業務ヲ執行スル取締役若ハ執行役又ハ其ノ会社若ハ子会社ノ支配人其ノ他ノ使用人ニ非ザルモノ」(商法188条2項7号の2)と規定されており、「社外」という言葉にこだわりすぎたため、たとえば、社長の息子や娘その他の親族、昔の部下の戦友その他の無二の親友、学校の後輩・教え子、あるいは何か目をかけてやって恩義を感じている者など自分に頭の上がらない者ばかりで固めても、これらの者が過去にその会社に関係したことがなかったのでありさえすれば、すべて立派な「社外取締役」を選定していることになつてしまう。
 すべからくアメリカの場合のように「社外取締役」というのは、息子や娘のような近親者でないことはもとより、およそ現在のトップ経営陣から一定の距離を置いた利害関係のない取締役(disinterrested director)でなければならないと規定すべきである。


             
                                                           (ルオー)