ADONISの手記

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疎開(八月二十八日)

2011年08月31日 20時16分40秒 | 小説

 この日、令子は学園都市から離れて、監察軍本部にいた。

 特に用事があったワケではなく、単に『御使堕し(エンゼルフォール)』で発生するであろう騒動に巻き込まれるのを避けるためだ。そういった意味では避難ということになるだろう。
 
 魂に干渉されないトリッパーなので私自身は入れ替えなど起きないが、周囲はそうではない。中年男性がセーラー服を着ていたり、中年女性がランドセルを背負っていたりしているのを見たら精神的に来るものがある。

 つまり私の精神安定の為の避難である。
 
「佐天、久しぶりだね」

 そんな佐天に監察軍総司令官シリウスが話しかけてきた。シリウスは『ヴァンパイア十字界』のヴァンパイアに憑依したトリッパーだ。
 
「ええ、お久しぶりです」
「そっちは順調にやっているかい?」
「まあ、今のところ問題ないですよ。道使い(タオつかい)達のデータも順調に増えていますし」
 
 令子は学園都市のスキルアウトを利用して道使い(タオつかい)を揃えていた。

 ちなみにブリタニア帝国では、超能力(とある魔術の禁書目録)や、道(BLACK CAT)の開発などは行われていない。これは少し考えれば分かることであるが、下手に民衆に力を与えると悪用されて治安が悪化するからだ。

 民衆が力を持ったからといって経済的に何か利点があるのか? 軍事的に利点はあるのか? などというメリットはなく、治安維持が面倒になるというデメリットしか思いつかない。ハッキリ言って帝国上層部からみれば民衆に余計な力を与えても有害でしかないと判断している。だからこそ、この手のことは本国では大々的にやらない。
 
 そのかわりに余所の世界でやるわけだ。余所の世界ならば力を得た者達が何をしても、それによって現地の治安維持に悪影響が出ても関係ない。

 つまり私が転生した『とある魔術の禁書目録』の並行世界で行われたスキルアウト達を利用したデータ蒐集は、監察軍やブリタニア帝国の意向も多少なりとも反映していた。

 まあ、そうでなければ道(タオ)を余所の下位世界に広めるなどという行動が許可されるわけがない。
 
 ちなみにこの手の特殊な力を得る方法は、神氣湯(しんきとう)だけでなくR2ウイルス(レベリオン)もあったが、R2ウイルスは資質がある者以外が感染するとマズイ上に、本人だけでなく他人にも感染してしまうという致命的な欠点があったので、安全性の問題から実験には採用されなかったのだ。
 
 その点、神氣湯(しんきとう)は才能のない者が飲むと死ぬというリスクがあったが、アカシックレコードにアクセル出来る私から見れば、あらかじめ適正のあるものをリストに出しておけば、それですむことであった。

 総合的に一番手っ取り早く安全なのだ。
 
 ちなみに力を渇望している妹『佐天涙子』は、道(タオ)の才能があったが、意図的に省いている。それというのもあの世界で道(タオ)の力を得る事は危険が大きすぎるからだ。

 思い出してみると分かるだろうが、学園都市はかなり黒い。そんな連中が道使い達を見るとどう考えるか? 実験材料として興味を持つのではないか?
 
 そして、問題は学園都市だけではない。外でも超能力開発技術を求めて原石たちを誘拐する事件がが起きているのだ。道使いとなったスキルアウトたちは卒業して学園都市を出ていくと同時に研究所に拉致されるというのも十分ありうる。ハッキリ言って、あいつらの将来はお先真っ暗だろう。

 まあ、あいつらバカだし。そのあたりの事はいってないから、その程度の予想すらしていない。アレイスターにも、あいつらは捨てゴマのモルモットであると伝えており、問題があれば『星の使徒』を潰しても構わないと伝えているし。(邪)
 
「まっ、私もぼちぼち人生楽しんでいるわ」

 人生を楽しむ。それは私達トリッパーにとっては意味深な言葉だろう。何しろ二度目の人生だ。前回できなかったこと、やりたかったことをやってみたいと思う者は多い。実際、私は好きにやっているし。
 
「そうか、それはよかった」

 シリウスは笑う。うん、いい人だ。

 それにしても、この人元々いい人なのか、それともヴァンパイアに憑依した時にいい人になったのかは知らないけど、私達同胞に本当に良くしてくれる。他のトリッパー達からも評判がいいし。

 今後、日頃の御礼に何か贈り物でもしようかな?
 
 私は、シリウスと楽しく時間を過ごした。そして、それが私とシリウスの最後の会話だった……。