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日本のエネルギーは心配ない

2012-10-11 16:01:01 | 騙マスメディア

日本のエネルギーは心配ない

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できるか、日本近海のメタハイ資源開発

日本は「減圧法」で世界最先端を走っている

2012年10月11日(木) 山岡 淳一郎

 尖閣諸島の領有権問題は地下資源と結びついているが、他国の干渉を受けない日本近海、太平洋側にも莫大なエネルギー資源は眠っている。「燃える氷」と呼ばれるメタンハイドレートである。氷状の物質で、水分子がつくる「かご」のなかに天然ガスの主成分のメタン分子が入っている。分解すると体積の160~170倍のメタンガスが発生し、火を近づけたら燃える。燃えたあとは水しか残らない。

 推定埋蔵量は、日本の天然ガス消費量の数十年分ともいわれる。なかでも静岡県から和歌山県にかけての「東部南海トラフ」には約11年分の集積が報告されており、ポスト原子力の新たなエネルギー源として熱い視線を浴びている(日本海側にも塊が露出した部分があるが、濃集度の低さなどから現在は本格的な研究開発の対象になっていない)。

出所:メタンハイドレート資源開発研究コンソーシアム「MH21パンフレット」、以下同

 とかく学説、俗説とり交ぜて語られがちなメタンハイトレードだが、資源エネルギー庁から業務を受託した石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)や産業技術総合研究所(AIST) などが組むコンソーシアムは、国際的な研究開発の最先端を突っ走っている。

 日本はメタハイ開発では世界のフロントランナーだ。エネルギー問題への意識が高まっている中、この事実は、もっと多くの日本人に共有されてもいいのではないだろうか。生産手法の開発を担う産総研メタンハイドレート研究センターに成田英夫センター長を訪ねた。

成田英夫センター長

 成田氏は北海道大学大学院を卒業後、アルバータ州立研究所などで石炭液化の研究をした後、20年前からメタンハイドレートの生産研究に取り組む。「ミスター・メタハイ」と呼べる存在である。成田氏らが磨き上げた「減圧法」と呼ばれる生産方法は、実用化の可能性が高く、各国の研究者の垂涎の的となっている。

 札幌市豊平区月寒、産総研北海道センターの広大な敷地のなかに「燃える氷」の商業化を目ざすメタンハイドレート研究センターの施設が点在する。同センターの常勤職員は13名、契約及び派遣社員が35名。今年度のメタンハイドレート資源開発予算は、8億5300万円。世界のフロントランナーとしては、いささか「小ぶり」な感じもする。

自噴しないメタハイを取り出す「減圧法」

 

 メタンハイドレートは、その存在状態が開発の壁になってきた。

 メタンを大量に含むメタンハイドレートは、シベリアやアラスカの陸地の永久凍土層や、水深500メートル以上の海底の、そのまた下の地層の「低温・高圧」環境に存在する。日本近海では太平洋側の東部南海トラフ、水深1000メートル程度の海底面からさらに200~300メートル下の砂層のなかに「濃集帯」が形づくられている。

 この砂とメタンハイドレートが混じり合った濃集帯に、洋上の船(浮体式ガス生産貯蔵積出設備など)から井戸を掘り、メタンガスだけを生産する。そして洋上から本土へパイプラインで送る--という想定のもとに資源エネルギー庁は2001年から18年まで477億円の予算を組んで開発を進めている。

 深海の海底下の地層に「固体」で分布しているので、上から井戸を掘っても「自噴」しない。そこが海底の深部に気体で溜まっている天然ガスとの大きな違いだ。単純化していえば、メキシコ湾の天然ガス田などのように井戸を掘削しさえすれば、ガスが噴きでてくる。これなら技術的にも、コスト的にも開発しやすい。では、自噴しないメタンガスをどう生産するか。

 

 苦労の末に成田氏たちが行きついたのが「減圧法」だ。洋上の浮体式設備から海底下に井戸を掘っていくと井戸には水が溜まる。その水をポンプでくみ上げて濃集帯の地層圧を下げ、メタンハイドレードをガスと水に分解して洋上に取り出す方法である。「温熱水循環法」という加熱法も模索されたが、こちらは非効率的で有力な手段になり得なかった。

 成田氏らは陸地での産出試験を通して、減圧法の優位性を証明している。ターゲットとして選んだのはカナダ北部、北極圏内の永久凍土層だ。2008年の冬、産総研の研究者たちはマッケンジー湾に面する湿地帯の深度約1100メートルの永久凍土層から、世界で初めて減圧法で連続的にメタンガスを産出させることに成功した。成田氏がふり返る。

「井戸を掘って、ポンプで水を汲み上げようとすれば、砂やガスも混じってきます。実は07年に初めてカナダで陸上産出試験をしたのですが、サンドコントロールは特に行わず、比重差で自然に水、砂、ガスが分離するよう設備を設計して、約60時間ポンプを動かしました。試験井の坑内に830立方メートルのガスの流入を確認しました。

ところが、予想を超える量の砂が出て、試験の中断を余儀なくされたのです。それで、翌年、二度目の陸上試験では仕上げ区間にサンドスクリーンを設置して、出砂を食い止めました。電動水中ポンプで地表面まで生産水をくみ上げ、水とガスの分離には遠心式のガスセパレーターを使いました。その結果、約6日間にわたってポンプを稼動して坑内と地層内の減圧を維持し、1万3000立方メートルのガスを連続的に生産することに成功したのです」

来春の海洋産出試験が商業化への天王山

 

 メタンハイドレートの開発を批判する人は、そのエネルギー収支の悪さをしばしば指摘する。資源が資源足りうるには、それを産出するために投じたエネルギーよりも取り出された資源が出すエネルギーが大きくなくなはならない。労多くして益少なしでは資源にならないのだ。

 エネルギー産出比が「1.0」以下では開発は難しい。確かにメタンハイドレートは自噴せず、ポンプで水を汲み上げたり、いろいろエネルギーを投入する必要がある。エネルギー収支の悪さは、もっともな話に聞こえるが……。

「エネルギー産出比自体は、現状の減圧法を東部南海トラフの愛知県・渥美半島沖70キロ海域のメタンハイドレート層に適用すれば、数十倍になります。効率はいい。かつて加熱法では1.0を切って、話にならなかった。でも、数十倍なら十分かなと思います」

 それよりも、商業化の鍵を握るのは「生産量だ」と成田氏は言う。

「メタンハイドレートから天然ガスを産出させるには、濃集帯にたくさんの井戸を掘らねばなりません。1本の井戸でどれだけの量を産出できるか、です。勇払(苫小牧市)の天然ガス田のチャンピオンデータでは、1日に50万立方メートル程度。ある時期の瞬間的データです。まぁ、1日1井戸当たり10万立方メートル産出できれば十分でしょう。

しかし、それがなかなか難しい。アメリカの非在来型天然ガス(シェールガス、タイトサンドガス、炭層メタンなど)で1日1万~2万立方メートル。渥美半島沖で、1井戸8年使う前提で49本掘って、15年間天然ガスを生産した場合の平均的な試算値が、やはり1万数千立方メートルです。せめて1日数万立方メートルの生産レートが確保できれば、商業化は何とかなります」

 現時点の経済性シミュレーションで、メタンハイドレートの天然ガス価格はいくらだろう。電力各社は天然ガス輸入の増加で軒並み赤字を計上している。それは電力料金にもはね返る。メタンハイドレートは日本のエネルギー危機を救えるのか。

 

「渥美半島沖で、井戸を49本掘って、天然ガスをパイプラインで陸におくる。水処理のコストなどを含めて、15年間平均で、ガス1立方メートルの生産原価は46円です」

 現在の天然ガスの生産原価は50~60円といわれているから、競争力はありそうだ。

「ただし、生産障害が発生しないことを前提にしています。もしも生産性が四分の一程度に落ちたら、1立方メートルの値段が170円以上にはね上がる。実際にどのように生産できるか、具体的に詰めていかなくてはなりません。そのためにも、来年の1~3月にJOGMECさんと共同で実施する海洋産出試験が重要なんです」

 「海洋産出試験」はメタンハイドレート開発を左右する天王山になりそうだ。

「減圧法の生産に関する基盤機器をそろえているのは日本だけ」

 

 JOGMECは、すでに今年2~3月、地球深部探査船「ちきゅう」を渥美半島沖の海域に送り、海洋産出試験用の生産井とモニタリング井を掘っている。7月には、その近くのメタンハイドレート層から「コアサンプル」を取得。解析、評価が産総研で進行中だ。産総研の成田氏らは、コアの試験体を使って、生産シミュレーターによる生産性や生産挙動の予測、海底地盤沈下の解析、杭井の健全性評価などを急ピッチで進めている。

 その結果を受けて、2013年1~3月、JOGMECと産総研は共同で減圧法による海洋産出試験に挑む。今後、資源エネルギー庁は、周辺環境への影響なとも評価して15年までに研究実証の評価を下す。そして16~18年にかけて「商業化の実現に向けた技術の整備」を行う、と計画している。

 メタンハイドレートの開発計画は「3.11」のはるか以前に立案されたものだ。現今の電力エネルギー事情を考えれば、もっと加速を、とあちこちから注文がつく。民間からは、エネルギー、造船、ゼネコン、金融などの業界が「投資事業組合」を立ち上げ、それをJOGMECや産総研が支えるオールジャパン体制で開発してはどうか、との声も上がる。

 当事者の成田氏は、そうしたプレッシャーをどう受けとめているのだろう。

「ありがたいお話ですが、まず、人です。とにかく人材。いまから将来に向けて、人材の育成が最重要課題です。予算は現体制では間にあっていますが、開発を加速化するなら枠組みの議論が必要ですね。私はファンドの仕組みなどには詳しくありませんが、研究分野の人材育成でいえば、法律が改正されて『技術研究組合』が非常にやりやすくなった。産官学、いろんな立場の人が組合員になって、共同研究に参加できます。

メタンハイドレート開発を国策で、というご意見も耳にしますが、私の立場では、海洋産出試験の結果を見ずにイケイケの旗は振れない。目下、海洋産出試験に全力投球ですよ」

 成田氏は研究成果の蓄積に懸命だ。この実直なフロントランナーを、世界は猛然と追い上げてきている。

「世界中で、減圧法の生産に関する基盤機器をそろえているのは日本だけです。単発的に持っている国もありますが、日本が一番進んでいます。陸上の砂層相手の産出では、米国が追従して研究成果を発表しています。近隣では中国、韓国がキャッチアップしてきている。国際的な研究会議では、両国の研究者が貪欲に学ぼうしています。心配なのは、やはりメジャーの出方です。資金と人材が豊富なメジャーがまともに乗りだしてきたら……」

 日本人は、東日本大震災で海の恐ろしさを嫌というほど味わった。だが、四方を海で囲まれたこの国は、海と共存しなくては生きていけない。むしろ海を未来の懐へ。

 「海からよみがえる日本」に向けて、メタンハイドレート開発が進んでいる。

■変更履歴
記事掲載当初、本文中で「『東部南海トラフ』には約11年分の集積が見込まれており」としていましたが、こちらを「報告されており」に、続く文で「日本海側にも塊があるが」としている部分を「日本海側にも塊が露出した部分があるが」に、それぞれお詫びして訂正いたします。本文は修正済みです [2012/10/11 09:30]
著者プロフィール

山岡 淳一郎
(やまおか・じゅんいちろう)

山岡 淳一郎1959年愛媛県生まれ。ノンフィクション作家。「人と時代」「21世紀の公と私」を共通テーマとして、政治、経済、近現代史、医療、建築など幅広く執筆。福島県を中心に被災地と永田町、霞ヶ関を対比的に取材。4月初旬、『放射能を背負って ~南相馬市長桜井勝延と市民の選択』(朝日新聞出版)を刊行。『後藤新平 日本の羅針盤となった男』『田中角栄 封じられた資源戦略』『国民皆保険が危ない』『原発と権力 戦後から辿る支配者の系譜』ほか著書多数。ブログはこちら。(写真:GOH FUJIMAKI)



このコラムについて

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