寺崎廣業 《不如帰・挿絵》
『アンインストール』
・・・・アンインストールは、プログラムやアプリケーションをシステムから削除し、導入前の状態に戻すことである。dyウィキペディア
《アンインストール》
『あの時 最高のリアルが向こうから会いに来たのは
僕らの存在はこんなにも単純だと笑いに来たんだ
耳を塞いでも両手をすり抜ける真実に惑うよ
細い体のどこに力を入れて立てばいい?
アンインストール アンインストール
この星の無数の塵のひとつだと
今の僕には理解出来ない
アンインストール アンインストール
恐れを知らない戦士のように
振る舞うしかない アンインストール
僕らの無意識は勝手に研ぎ澄まされていくようだ
ベッドの下の輪郭のない気配に
この瞳が開く心など無くて
何もかも壊してしまう激しさだけ
静かに消えて行く季節も選べないというのなら
アンインストール アンインストール
僕の代わりがいないなら
普通に流れていたあの日常を
アンインストール アンインストール
この手で終わらせたくなる
何も悪いことじゃない アンインストール
アンインストール アンインストール
この星の無数の塵のひとつだと
今の僕は理解できない
アンインストール アンインストール
恐れを知らない戦士のように
振る舞うしかない アンインストール』
上村松園 《天明頃の娘》
赤坂の御用地に新たに建築された皇嗣邸は世の人達によれば、建築費用は44億円と言われておりましたが、否、50億、否、100億円だとか面白おかしく興味本意で言う人達がおりました。
岸田劉生 《麗子像》
何でも妃殿下の強いご希望とかで、邸内の内部は黄金に彩られた宮殿のようだと週刊紙等に書かれてしまいました。それに便乗してネットを中心に何かと非難の的となっておりました。
高畠華宵 挿絵
それらには必ず、妃殿下のお名が出て来るのです。まるで妃殿下が全てを指揮しているが如く。
世の常として、自分達の住まいにあれこれ要求したり熱心に設計に携わるのは良くある事ですのに、妃殿下だけが特に非難されるいわれはありません。
それは余りに常軌を逸しています。皇嗣妃殿下のお心は相当傷付いておられました。
それにしても黄金に彩られた宮殿とは・・・・こんな感じで?
上村松園 《多から船》
ルートヴィヒ2世がベルサイユ宮殿を、“19世紀”に模して建造した“ヘレンキームゼー城”
鏡の間
又某学者は、わざわざそんな巨額の邸宅を建設する必要はなかったのではないかと言う意見を、雑誌に書いたりしておりました。何と言う事でしょう、
人様の住まいにケチを付ける何て、失礼です。
勿論、“表現の自由”は守らなければなりません。例えば
~呪術廻戦★霞ヶ関~
・・・・表現の自由。それは大事。
その新しい邸宅は畏れ多い事に、お上の皇嗣と成られた、佐義宮殿下と将来確実に雲の上にお上がり遊ばす、若竹の親王殿下がお住まいに成られるのです。
香淳皇后御絵 《若竹》
その方々が“宮殿”に住まわれて、一体何の不都合があると言うのでしょうか。心ある人達は、声を出していましたが、なかなか、伝わりません。ただただ妬みに怨嗟の声の方が大きいのでした。何とも悲しい事です。
鏑木清方 《秋の夜》
両殿下方のお耳にも当然それらの批判は入っておりました。それ故に、
長年、皇嗣両殿下の身近に仕えている奥の職員や厳しく、“ご指導”されていると伝えられている表の職員の宮務官達も事実が伝えられず、うわべだけが、おかしく世間に流れるのは、それぞれ立場を超えて、忸怩たる思いでいるのでした。
上村松園 《しぐれ》
そんな秋でも、御用地の木々の葉は唐紅、茜、蘇芳・黄、濃朽葉、薄朽葉などの色を変え美しい盛りです。
真道黎明 《柏》
そんな時、撫子の姫宮と老女の花吹雪の主従は母宮のいらっしゃる東屋へ向かっておりました。
上村松園 《紅葉可理》
「何とかならないでしょうか、本当に余りにも酷すぎます」
「全く頭にきますわ」
ぷんすかと腹を立てながら、麻の葉文様の大島紬に中紫と薄紫の濃淡織りの縞帯をお太鼓に結んだ、老女の花吹雪が、前を歩く撫子の姫宮に、どうにも腹の虫が収まらぬという風に、文句を言っておりました。
撫子の姫宮は秋の彩りに相応しい、蘇芳地に黄と青
緑、黒を組み合わせた矢羽根文様の銘仙をお召しになっていましたが、それのお姿は秋の女神かくやと言うべきめでたきお美しさです。
上村松園 《賞秋》
紅葉彩るお庭を歩かれていましたが、花吹雪の声に対して、
「もうこうなったら、内部を公開するしかないわね、でも、余りに黄金の光が強すぎて、見た人達は皆、目が眩むわね。アハハハ・・・・」
最初、真面目に聞いていた花吹雪は
「まぁそのようにお笑いになられて」
と・・・・やや呆れ声で言いました。
面白がって明るく笑い声をお立てになった姫宮ですが、少し落ち着いたお声で、
「でもね、花吹雪さん、一番分かって欲しい人達がちゃんと理解しているのだから、嬉しい。でも珍しいわよね、表も奥も同じく意見が一致するなんてね、こちらの方が、驚きよ」
「まぁそのように仰いますが、今に出ますわよ、職員達も新しいご邸宅にあれこれ不満を持っているとか、そういうのが・・・・・」
「それは大変だ」
上村松園 《深き秋》
花吹雪にそう言いますと、撫子の姫宮はハラハラと舞い落ちる、秋の色に染まった様々な紅葉(こうよう)の木々を見られて、毎年見る光景でも風の吹き方によって、地へと舞う紅葉の葉もそれぞれ違うものだなと思いご覧になっていました。
(幾年も同じ場所で立ち続けている、木々の葉も、最後は、風によって落ちる所は違うものなのね)
高取惟成 《赤坂離宮御苑(秋)》
(人の運命も、この落ちて行く葉と同じね、落ち行く所は皆違う)
姫宮は、そんな事を思いながら、花吹雪と共に秋の色に染まった小道をあれこれ話ながら進みました。
上村松園 《しぐれ》
「おたた様、ご機嫌よう」
薄(すすき)が垂れ下がる背にして、清香皇嗣妃殿下は古代紫の無地お召姿でいらっしゃいました。
朽葉色地に檜垣文と菊を織り出した有職帯をお太鼓にして締めておられました。
そのお姿はまるで美人画から抜け出たようで是非そのお姿を描き留めておきたいと思う風情なのです。
鏑木清方 《萩すすき》
「ご機嫌よう」
妃殿下はそう仰いますと、二人を東屋へ誘われました。中には皇嗣職大夫と、佐義宮家に長年仕えている表の宮務官がおりました。二人は、妃殿下と姫宮の姿を見ると、一礼しました。五人が揃いますと、妃殿下は、
「忙しいのにこちらまで来てもらって、申し訳ありませんね」
池田輝方 《春愁》
と仰いました。直ぐに、大夫が
「今夜、お戻りになられるのですか」
単刀直入に妃殿下に、尋ねました。
「ええ、今夜。もう飛行機の中よ」
鏑木清方 《空中飛行器》
大夫の問いに妃殿下は静かな口調で、答えられました。もう腹を括るしかないのです。
「・・・・お体の具合が宜しくないと伺っておりましたが、全く急で御座いますね」
撫子の姫宮は
「お姉様はね、帰りたいとは言ってらしたのよ、私にも、おたた様にも、でも・・・・」
鰭崎英朋 挿絵
「こればかりは、直ぐに、どうにも出来る訳じゃないし・・・・お姉様は皇籍を離れられたのだし、あれだけのご自分の意思で、『おいそれとは戻れるわけないでしょ』と伝えていたのよ」
高畠華宵 挿絵
「でも私達に黙って、こうゆう事に・・・・」
「恐れながら、このような事になりましたら、しばらくはホテルに滞在されては如何でしょうか」
長年仕えている宮務官は言いましたが、大夫は嘆息しながら、
「帰国されたら、遅かれ早かれ、マスコミにバレるでしょう。そうなった時に、白菊様はどうなるか、想像にかたくないですね」
「ええ、そうなるわね」
妃殿下も同じ事を、思っておりました。
「お姉様はいい“鴨”にされるでしょう」
妃殿下も姫宮も、“外”に白菊夫人を置く事は消極的でした。国民に対して、啖呵を切って、愛する人と、生活の基盤もないのに、移民の如く、出て行ったのです。
速水御舟 《菊(菊花図 一部》
それなのに、一年で戻って来るのですから、誰も黙っていないでしょう。
「あちらのお方は、どうお考えでしょうか」
大夫は白菊夫人の夫の根無氏をそういう表現で言いましたが、皇嗣家では、大方の職員はそんな呼び方をしているのです。
「お兄様はね、今、とってもお忙しくいらしてね、なかなか私生活迄、手が回らなくて、何とか、こちらの方で、世話をお願い出来ないかと、仰っていて、何より、お姉様が、重荷になりたくない、迷惑をかけられないと言われていて」
上村松園 《暮秋》
「心が弱られているせいか、お兄様に凄く気を遣われていて」
加藤まさを 《唐人お吉》
撫子の姫宮の言葉を聞かれて、清香妃殿下は
「あの方は、今はご自分の事が中心なのよ、前々からそうゆう方でいらしたから、こういう時は尚更そうなるのです」
横尾芳月
思えば、10年前、内親王である娘に対して、向こうから声を、掛けてきた時から始まりであり、あの騒動で如何に皇室の基盤は弱いものであると思い知らされたと、今更ながら思うのです。
上村松園 《菊寿》
恐らく今回も根無氏は皇室の弱さを見透かされているに違いないと、妃殿下は思われていました。
(白菊は自分が、根無さんを動かせると思っていただろうけど・・・・)
田中良 挿絵
(あちらの方が一枚も二枚たも上手だったとようやく分かったのでしょう)
昨年の事を思うと、真に今日(こんにち)は、ただ夢の如し・・・・。こうなる事は、必然であったのでしょうか。
蕗谷虹児 《花嫁御寮》
《花嫁人形》
『金襴緞子の 帯締めながら 花嫁御寮は なぜ泣くのだろう
文金高島田に 髪結いながら 花嫁御寮は なぜ泣くのだろう
姉さんごっこの 花嫁人形は 赤い鹿の子の 振袖着ている
泣けば鹿の子の 袂(たもと)が切れる 涙で鹿の子の 赤い紅にじむ
泣くに泣かれぬ 花嫁人形は 赤い鹿の子の 千代紙衣装』
上村松園 《花筐》