“BELOVE” 2022年9月号で「ちはやふる」が完結しました。
連載開始からもう15年も経っていたのですね。
当初は、競技かるたとはマイナーな題材を扱うなんてと思いましたが、キャラクターの設定と話のテンポの良さが絶妙で、すぐにストーリーに引き込まれました。
15年間飽きることなく読み続けられたのは、作者の末次由紀氏が相当にかるたを勉強され、ストーリーも練りに練って考えられていたからだと思っています。
小学6年だった綾瀬千早は、同級生・綿谷新の影響を受け、かるたを始めました。
容姿端麗・頭脳明晰・スポーツ万能の真島太一は、かるたに拘る新を軽んじるものの、2人の熱意に引き込まれ?かるたを始めることになります。
そして3人は、小学校卒業時にチーム「ちはやふる」を結成して団体戦に挑み、敗北したものの、かるたを通じて3人には強い絆が生じた、というのが序盤の展開でした。
千早は「将来はクイーン」を目指していたので、連載初期から千早がクイーンになったところで話は終わるのだろうな、と予想していました。
実際、高校3年生になった千早がクイーンになったところで連載が終了しました。
しかし、ただのサクセスストーリーではなく、最終話には珠玉の名言が散りばめられていたことに感動しました。
まずは、千早の高校のかるた部顧問で、「女帝」こと宮内先生の言葉。
当初、千早が進路志望調査で「クイーン」と書いてきたことに呆れたものの、やがて教員になり高校競技かるた部顧問を目指すと決めた千早を応援していた宮内先生。
そしてクイーンになった千早に対し、卒業式で放った一言。
> 「部活の顧問やりたいから」なんて気持ちで戻ってくるんじゃないですよ
> 教育現場の肝は学びを導く力よ
> 人を教える怖さと 人と向き合う楽しさに 取り憑かれたら戻ってきなさい
私は教員ではありませんが、広い意味での教育には関わっています。
深く考えたことはありませんでしたが、教育の現場ではまさに「人を教える怖さ」と「人と向き合う楽しさ」が同居していることに気付かされました。
私はまだ取り憑かれていないので教員レベルには達していませんが、このように言葉で示されると、末次由紀氏はどれだけの現場を観察してきたのだろうかと驚かされます。
次に、千早の姉で、売れっ子モデルの綾瀬千歳。
千歳は小さいときからモデルとして活躍しており、かるたを始める前の千早の夢は、大好きな姉の千歳が日本一のモデルになることでした。
千歳からは、取り柄のない妹と言われ、姉には少なからずコンプレックスを抱いていたと思われる描写がこれまで時折ありました。
そんな姉から、「千早すごい、すごいじゃん。私の妹、クイーンじゃん。がんばったじゃん、世界一」と感泣しながら抱き合う(であろう)シーンでのナレーション。
> この人に認めてもらえないと意味がない 核になる人がいる
SNSに投稿するのは承認欲求を満たしたいからだ、とよく言われますが、その核になる人に認められたら欲求は昇華される、ということを看破しています。
核がなければ欲求はどんどんエスカレートし、やがて犯罪的行為につながるのではないかと思います。
ここでも末次由紀氏の観察眼の鋭さを感じました。
そして、千早の高校の同級生で、かるた部員でもある駒野勉。
成績優秀な太一が東大を受けるものだと信じていた千早が、太一は東大を受けなかったことを知り、駒野に問いただした際に、
> 真島らしいってだけじゃん
> なんでもかんでも話さないし 志望校だって自分で決めるよ
> 綾瀬だってただの友達なんだから
と突き放す。
一緒にいた友達から「そんなにキツイこと言わなくても」と諭されても、「あれくらい言わないとわからないんだよ」と言う駒野。
> ただの友達じゃないから言うんだよ
「ただの友達」じゃないから、千早には「ただの友達」と言って太一を慮る。
そう言わないと暴走してしまう千早をも慮っている。
千早と太一に対する駒野の強い友情が感じられるシーンです。
ハイスペックなイケメン男子、太一のさりげない優しさも、随所に描写されています。
女子に取り巻かれていた太一は、卒業記念フォトフレームを渡そうとするかるた部の後輩、筑波と花野に気が付くと、取り巻きを掻き分けて、花野(女子)には卒業生のブーケを渡し、筑波(男子)には自分のネクタイを外して首にかけて、
> 部長とキャプテン かるた部をよろしくな
と一言。(2人感涙)
また、そのフォトフレームを太一が部室で独り見ているところに現れた千早が、「その写真でみな爆笑しているのは私のお腹が鳴ったからだよね」と言ったのに対し、太一は「本当は花野さんのお腹が鳴ったのにね」と気遣っていた2人。
この後、千早は太一に「好きだよ」と告白するのですが、千早は新のことが好きだとずっと思っていたので、この展開は意外でした。
しかし、太一が千早に寄せる想いを知っていた大江奏(かるた部員の同級生)は、偶然その場を見ており、陰でガッツポーズ。
最後は、大学生になってから(と思われる)開催される、かるたの全日本選手権の会場で、千早と太一が付き合っていることを知ってショックを受ける新。
新も千早を好いていましたが、3人の関係を壊したくなかった新と太一は、互いに千早をめぐって出し抜くようなことはしなかったのです。
この三角関係は、あだち充氏のマンガ「タッチ」の、和也が生きていた頃と似ている気がします。
しかし、すぐに気を取り直し、新は太一に向かって、
> まあ俺は18より 28でとなりにいるの目指すわ
> 東京にいるし ときどきしか会えんつらさを思い知りね
(太一は京都の大学へ進学していた)
と宣戦布告。
(この言葉の意味を、千早は理解していない)
ようやく千早をめぐる三角関係に動きが出てきたところで連載終了とは、読者に想像を掻き立ててますね。
さまざまな動きがあった最終話でしたが、このブログを読んでもよく分からないかと思いますので、「ちはやふる」をぜひ最初から読んでみてください。
私が感じた「ちはやふる」のテーマは、「友情」「絆」ですね。
千早、新、太一の3人だけが特別ではなくて、3人を取り巻く仲間たちとも強い「絆」、いろんなパターンの「絆」が描かれています。
軽薄で淡白な人間関係が多くなった現代に、心に響く言葉や描写が、「ちはやふる」には随所に、しかもさりげなく描かれています。
読んでいる内に、人間関係の機微が学べるマンガである、と言っては言い過ぎでしょうか。
なお、「ちはやふる」の最終話で素晴らしいと思ったことのもう一つは、福井、京都、長崎の方言がほぼ完璧に書かれていたことです。
私はこれらの土地に関わりがありますが、読んで全く違和感をおぼえませんでした。
スタッフに各地の出身者がいらっしゃったのでしょうか。
90ページ弱もボリュームのある最終話でしたが、とても丁寧に仕上げられた印象を受けました。
末次由紀氏の次作に期待しています。
連載開始からもう15年も経っていたのですね。
当初は、競技かるたとはマイナーな題材を扱うなんてと思いましたが、キャラクターの設定と話のテンポの良さが絶妙で、すぐにストーリーに引き込まれました。
15年間飽きることなく読み続けられたのは、作者の末次由紀氏が相当にかるたを勉強され、ストーリーも練りに練って考えられていたからだと思っています。
小学6年だった綾瀬千早は、同級生・綿谷新の影響を受け、かるたを始めました。
容姿端麗・頭脳明晰・スポーツ万能の真島太一は、かるたに拘る新を軽んじるものの、2人の熱意に引き込まれ?かるたを始めることになります。
そして3人は、小学校卒業時にチーム「ちはやふる」を結成して団体戦に挑み、敗北したものの、かるたを通じて3人には強い絆が生じた、というのが序盤の展開でした。
千早は「将来はクイーン」を目指していたので、連載初期から千早がクイーンになったところで話は終わるのだろうな、と予想していました。
実際、高校3年生になった千早がクイーンになったところで連載が終了しました。
しかし、ただのサクセスストーリーではなく、最終話には珠玉の名言が散りばめられていたことに感動しました。
まずは、千早の高校のかるた部顧問で、「女帝」こと宮内先生の言葉。
当初、千早が進路志望調査で「クイーン」と書いてきたことに呆れたものの、やがて教員になり高校競技かるた部顧問を目指すと決めた千早を応援していた宮内先生。
そしてクイーンになった千早に対し、卒業式で放った一言。
> 「部活の顧問やりたいから」なんて気持ちで戻ってくるんじゃないですよ
> 教育現場の肝は学びを導く力よ
> 人を教える怖さと 人と向き合う楽しさに 取り憑かれたら戻ってきなさい
私は教員ではありませんが、広い意味での教育には関わっています。
深く考えたことはありませんでしたが、教育の現場ではまさに「人を教える怖さ」と「人と向き合う楽しさ」が同居していることに気付かされました。
私はまだ取り憑かれていないので教員レベルには達していませんが、このように言葉で示されると、末次由紀氏はどれだけの現場を観察してきたのだろうかと驚かされます。
次に、千早の姉で、売れっ子モデルの綾瀬千歳。
千歳は小さいときからモデルとして活躍しており、かるたを始める前の千早の夢は、大好きな姉の千歳が日本一のモデルになることでした。
千歳からは、取り柄のない妹と言われ、姉には少なからずコンプレックスを抱いていたと思われる描写がこれまで時折ありました。
そんな姉から、「千早すごい、すごいじゃん。私の妹、クイーンじゃん。がんばったじゃん、世界一」と感泣しながら抱き合う(であろう)シーンでのナレーション。
> この人に認めてもらえないと意味がない 核になる人がいる
SNSに投稿するのは承認欲求を満たしたいからだ、とよく言われますが、その核になる人に認められたら欲求は昇華される、ということを看破しています。
核がなければ欲求はどんどんエスカレートし、やがて犯罪的行為につながるのではないかと思います。
ここでも末次由紀氏の観察眼の鋭さを感じました。
そして、千早の高校の同級生で、かるた部員でもある駒野勉。
成績優秀な太一が東大を受けるものだと信じていた千早が、太一は東大を受けなかったことを知り、駒野に問いただした際に、
> 真島らしいってだけじゃん
> なんでもかんでも話さないし 志望校だって自分で決めるよ
> 綾瀬だってただの友達なんだから
と突き放す。
一緒にいた友達から「そんなにキツイこと言わなくても」と諭されても、「あれくらい言わないとわからないんだよ」と言う駒野。
> ただの友達じゃないから言うんだよ
「ただの友達」じゃないから、千早には「ただの友達」と言って太一を慮る。
そう言わないと暴走してしまう千早をも慮っている。
千早と太一に対する駒野の強い友情が感じられるシーンです。
ハイスペックなイケメン男子、太一のさりげない優しさも、随所に描写されています。
女子に取り巻かれていた太一は、卒業記念フォトフレームを渡そうとするかるた部の後輩、筑波と花野に気が付くと、取り巻きを掻き分けて、花野(女子)には卒業生のブーケを渡し、筑波(男子)には自分のネクタイを外して首にかけて、
> 部長とキャプテン かるた部をよろしくな
と一言。(2人感涙)
また、そのフォトフレームを太一が部室で独り見ているところに現れた千早が、「その写真でみな爆笑しているのは私のお腹が鳴ったからだよね」と言ったのに対し、太一は「本当は花野さんのお腹が鳴ったのにね」と気遣っていた2人。
この後、千早は太一に「好きだよ」と告白するのですが、千早は新のことが好きだとずっと思っていたので、この展開は意外でした。
しかし、太一が千早に寄せる想いを知っていた大江奏(かるた部員の同級生)は、偶然その場を見ており、陰でガッツポーズ。
最後は、大学生になってから(と思われる)開催される、かるたの全日本選手権の会場で、千早と太一が付き合っていることを知ってショックを受ける新。
新も千早を好いていましたが、3人の関係を壊したくなかった新と太一は、互いに千早をめぐって出し抜くようなことはしなかったのです。
この三角関係は、あだち充氏のマンガ「タッチ」の、和也が生きていた頃と似ている気がします。
しかし、すぐに気を取り直し、新は太一に向かって、
> まあ俺は18より 28でとなりにいるの目指すわ
> 東京にいるし ときどきしか会えんつらさを思い知りね
(太一は京都の大学へ進学していた)
と宣戦布告。
(この言葉の意味を、千早は理解していない)
ようやく千早をめぐる三角関係に動きが出てきたところで連載終了とは、読者に想像を掻き立ててますね。
さまざまな動きがあった最終話でしたが、このブログを読んでもよく分からないかと思いますので、「ちはやふる」をぜひ最初から読んでみてください。
私が感じた「ちはやふる」のテーマは、「友情」「絆」ですね。
千早、新、太一の3人だけが特別ではなくて、3人を取り巻く仲間たちとも強い「絆」、いろんなパターンの「絆」が描かれています。
軽薄で淡白な人間関係が多くなった現代に、心に響く言葉や描写が、「ちはやふる」には随所に、しかもさりげなく描かれています。
読んでいる内に、人間関係の機微が学べるマンガである、と言っては言い過ぎでしょうか。
なお、「ちはやふる」の最終話で素晴らしいと思ったことのもう一つは、福井、京都、長崎の方言がほぼ完璧に書かれていたことです。
私はこれらの土地に関わりがありますが、読んで全く違和感をおぼえませんでした。
スタッフに各地の出身者がいらっしゃったのでしょうか。
90ページ弱もボリュームのある最終話でしたが、とても丁寧に仕上げられた印象を受けました。
末次由紀氏の次作に期待しています。