ロシアという国は今は北方領土問題、あるいは少し遡れば大戦末期のドサクサ日本侵略などいわば負のイメージも強いが、一方で帝政後期あるいは末期にかけては多彩な文化が花開いた印象が強くとても興味のある時代である。ドストエフスキーの”罪と罰””カエラマゾフの兄弟””白痴”など何か熱にうかされたような内容の思いがある。またトルストイも”戦争と平和””アンナ・カレーニナ”などいずれも心に残る名作である。
音楽では勿論チャイコフスキーを始めムソログスキーなど、枚挙にいとまない。しかし実際には皆が豊かな生活をする社会ではなくひと握りの帝政貴族社会と圧倒的な農奴に近い貧農で成り立っていた社会であることは想像に難くない。
レーピンもこんな時代に生きたひとりであり、現に晩年のトルストイとも深い親交を持っていた。”ヴォルガの舟歌”と日本でいわれる曲は何か優雅な舟遊びのように錯覚しそうな題名だが実際には大きな船を川上に引き上げる過酷な船曳人夫の歌である。このレーピンの”ヴォルガの船曳”の絵はその様子を克明に捉えている。私を含めロシアの船曳というとこの絵を思い浮かべる人も多いと思う。
レーピンは湖畔で優雅に遊ぶ貴族等を傍らにボロボロに擦り切れた服を着た船曳達が黙々と歩む様子を見ていたく思いを馳せ、足繁く人夫たちとも交流し一人ひとりを人間として掴んでゆく。今回は国立レチャコフ美術館所蔵品の展示ということでその習作版しかなかったが、その意欲は十分に伝わる。完成画はモスクワ美術館にあるとのこと。
レーピンはほかにも歴史画、肖像画など多岐に渡るが人の内面を深く観察した作品が多く、レンブラントを感じさせる作風もある。社会の矛盾をついたり、貧農の生活を描いたり極めて社会性も強く、当時の社会が臆することなく表現され興味は尽きない。
東京で始まったこの展示会、この浜松のあと姫路、神奈川と巡回する予定になっている。貴重で感動的な展覧会だった。
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