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合言葉はヒュッゲ

映画 東京物語

小津安二郎監督伝説の作品。昭和28年という戦後の復興が目まぐるしい東京の街、そこで暮らす子ども家族を訪ねる尾道の老夫婦の姿を通じて、親子とは、人生とは、老後とは様々な問いかけがこだまする珠玉の映画。

モノクロなのに古臭さをそれほど感じない。言葉遣いや言い回しも穏やかで端的。長いセリフはなく、過剰な演出や刺激的なシーンも山場もない。それでいて胸を打ち何度でも観たくなる。

時代は確実に流れているんだなあと感じた。でも基本的な生活や親子という人間関係は核たる部分で繋がっている。

成人し、自分達の家族ができれば自然両親の存在も遠くなる。遠方から訪ねてきた両親に対して、長男も長女も礼節は整えてもどこか素っ気ない。そのわびしさを夫妻は作り笑いでやり過ごす。

次男の嫁は戦争未亡人。これまた伝説の大女優、原節子さんが好演しているが、まあ、その美しい事。丁寧な言葉遣いや目線、立ち振る舞いに至るまで釘付けになるほどのオーラがある。

次男嫁は、小さなアパートで会社勤めをしながら一人暮らし。30代という設定だろうから随分若い内に未亡人となった戦争犠牲者。だのに義父母に対してはほんとの息子娘らよりうんと優しく温かい。
この時代って、こういう苦境に立たされた女性達が多かったと思う。私の親戚にも未亡人となった伯母がいた。遺族年金さえもらえれば寡婦は幸せだろうと世間からさげすんだ声も聞こえていた。狂った時代と風潮にどんなに苦しんだだろうと改めて感じる。

戦後7.8年の東京って大きなビルも少なかったんだね。長男は医者だけど、自宅兼診療所で、父が友人らと居酒屋で町医者止まりだ的な愚痴をこぼすところを見ると、昔の町医者はかなり地位が低かったんだと
驚いた。

長女は美容院経営で、住み込みで弟子を使って先生と呼ばれているやり手。杉村春子さんが演じているけど、これがまた口の悪いがさつなタイプ。でもすごく演技上手くてこの映画の中では唯一のスパイス的存在です。

老夫婦おじいさん役は名優、笠智衆さんで、49歳にしてたぶん70歳位の役を演じている。おばあさん役は東山千栄子さんで、この方がまた庶民的で、ふっくらした容貌に見合った優しい笑顔がたまらない。笠智さんと娘役杉村春子さんや息子役の山村聰さんとは実年齢2つくらいしか違わないらしく、学芸会か?とツッコミたくなりました。

東京から尾道に帰る道中で母が体調を壊し、大阪で駅員をしている次男の家で休んでから帰宅。その後まもなく倒れ.次女からの電報で子等は里帰り。すでに虫の息だった母の臨終に立ち会うのですが、葬儀を終えさっさと帰ってしまう。

こどもなんて冷たいもんだと親ならぼやきたくなるシーンですが、でも生きている人はもう自分の生活にシフトを変えていかなければならない。それが世の常だと次男嫁はにこやかに言う。ほんとにそうだと思う。この世は生きている人のためにあるのだから。

しかし、ほんとに素晴らしい作品で、録画を消せず何度も観ています。これはもう殿堂入り映画納得です。
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