そこからの積立は多少の差はあれど、三人はありったけのカネを惜しげもなく全て投げ込んだけれど……。
彼は纏わり付く様な小さな声で何故?『自分はそれだけしか出せないか、仕方ないのか』を延々と語った。
三人はアパートで合宿そのもの暮し。
食費さえ惜しんでカネを投げ込んだ。
実家暮らしで食事に何ら事欠くことのない彼だったが……スポーツ用品を実際買って試さなきゃならないとか?身なりを整えなきゃイケナイしテニスクラブにも毎月金が必要だとか……そんなエクスキューズを滔々と喋った。
僕とSはどうしてもスポーツ用品併設のカフェを実現する為にそれに目を瞑ったのだった。
彼は今で言うエナジーバンパイア?そのものの特性を備えていた。
当時は僕もSもYは寡黙で少々頑な性質がある?位にしか思わなかったけれど。
彼は全員で話す時、絶対に自分の意見を言わなかった。
何時如何なる場合も対面二人だけで話す時以外は寡黙を貫いた。
しかしその寡黙さの中に、不同意?なのか何かの不満?そんな賛成しかねる?陰湿なニュアンスを少量ずつ混入させていくのだった。
そのやり方こそが彼の戦略だった。
意見を述べている三人の人間は次第に『彼の不機嫌』は自分の何かに原因があるのかも知れない。そんな気分にさせられていくのだった。
飲食店の隆盛は当然彼の耳にも入った。
彼はわざわざ僕を他所の喫茶店に呼び出し……直ぐにも店を開きたいと言った。
あと一年待てと僕は言った。そうすればかなりの自己資金ができるからと……。
彼は一年とちょっとしかスポーツ用品に関わってはいなかった。
僕とSは三年を超える地獄の修行ってのをこなしていたけれど。
しかしYは自分だけが『辛い目を見てる』と言い、今年開店しないのなら自分は辞めたいと言った。
それは僕とSの強い希望を知った上での『脅迫』だった。
後に分かったのはYは詰まらない意地を張って店主と強い軋轢を抱えていたに過ぎなかった。
それ以降も深い理由なんて彼の主張に存在していた事は一度もなかったのである。
無理に無理を重ねて開店を目指した。当然カネはまだ貯まり始めたばかり。
水道とか電気などの基礎的設備以外は自分たちで作るしか無かった。
Sと二十万男はレストランに逃げ込んで知らん振りを決め込んだ。
僕とYとで作り始めたけれど……。
一か月も経たない内に彼はテニススクールが……とか?取引先に会わなきゃならない等と理由を付けて抜けるのだった。
そして……ゴニョゴニョとくぐもった声で何かの理由を付けて作業もしなくなった。
要するに僕は独りで大工仕事、左官仕事を押し付けられた格好だった。
実際店を開いてもYは思い付きで発案し三日位くらい熱に浮かされた様に動き回る。
当然そんなに物事は上手くは運ばない。
すると彼は何事もなかったように放置してしまう。
当然、彼の主張に要した経費は殆ど回収できずに放置するのである。
彼のアイデアを真に受ける度に数百万が必要だった。
『お前らには分からないと思うが……この業界は……』ソレが請求書を携えて資金繰りをねだる時の彼の枕詞だった……。