Yは浪人していたから年齢は一つ上。それが影響したのか彼の落ち度を指摘するのは妙に躊躇いを感じてしまう?そんな遠慮が働いた。
彼は間違いなくエナジーヴァンパイアだった。
それだけならまだ良かったけれど……コミュニティクラッシャーとしても恐ろしいほど優れていた。
彼は何一つ事業の柱を築けずに時間とカネを空費するばかりだった。流石に立場は悪いと察した彼は店に寄り付かなくなった。
営業車を持ち出して、昼間は所在がわからない。
皆が引き上げた後、深夜になって店に入り商品を持ち出す……そんなルーティンに逃げ込んでいた。
どうして……?
会社員時代にはそこまで見えてなかった彼の幼稚な精神構造は常識の範囲内を大きく逸脱していた。
取引の最初に滔々とキレイな約束をする。
何の目算も計算もなくである。
『その瞬間のイイ人』を条件反射的に演ずるのである。
支払い期日が来れば相手は不履行に対して怒る。突き付けられた請求書を手にYは精一杯の不機嫌を装って店に帰って来るのである。
最早、彼の不誠実な態度を責めるなんて余裕は無かった。
底なし沼の地獄へ道連れにされる。
僕はふと我に返った。一体彼の不誠実は幾らの負債を作ったのか?足を止めて考えようと思った。
くぐもった口調で何やら喋りながら様子を窺っている彼に取り合わず、『それは、これは』じゃなく、今迄の負債の全てをここで言え!……と僕は言った。
とんでもない金額の仕入れ高だが……主だった商品は店内には無い。それは売り掛けなのか?それなら回収を急げ……と。
彼は商品は家にある?……と言った。
家?何故家に……?
商品が売れてないのをお前等に指摘されたくなかった……と彼は言った。
商売以前、彼は大人にも社会人にもなっていなかった。
彼はその時、不始末のほんの一端しか喋ってはいなかった。
後に分かったのだが……彼は以前のスポーツ店の従業員と付き合っていた。そして妊娠させていた。
『責任を取らなきゃならない』と彼はイッパシのセリフを吐いた。
『税理士になる勉強をしている優れた女』だと見当違いの評価を述べた。
『もう奴は駄目だな?』……僕達三人はその夜今後に付いて話した。
その時、二十万円男が苦しそうな表情で『実は……』と切り出した。
僕とSは俯いて頭を烈しく振った。
まだあるのか?Sが呻くように呟いた……。