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戦後における慰安婦の位置づけ-その1

 戦後、慰安婦問題が登場したのは韓国人元慰安婦による提訴、吉見義明による史料の発掘、あるいは古くて千田夏光の著書あたりだと思われているが、実はそうではなく、慰安婦問題は戦後間もなくから色々なところで取り上げられているのである。
 
 
例えば、このブログではその一例として、「従軍女婦」
 
 
 
として取り上げたことがあった。このような文献や史料は他にもあるが、ここでは戦後の国会で取り上げられた慰安婦に関する審議を見てみたい。
1990年代以降、慰安婦問題が表面化する前に国会では慰安婦をどのように位置づけていたのか、ということを整理し、今後の慰安婦問題の糧としたい。
 
 
今回取り上げるのは、1948(昭和23)年11月27日の衆議院法務委員会である。この国会は、「国会」という場ではじめて「慰安婦」という言葉が登場したものである。
 
 
1948(昭和23)年に開催された第2回国会において、「売春等処罰法案」(後の「売春防止法」)が提出された。その事に対し、大阪府接待婦組合連合会会長松井リウの陳情書が紹介されたのがこの11月27日の衆議院法務委員会である。陳情書の要点は、戦後の混乱した社会の中では、女性が生きていくために売春をしなければならない場合がある。そのために「売春等処罰法案」の制定をしばらく見合わせてもらいたい、というものである。
 
 
詳しく見てみよう。
 
 
「私たち就業婦の中には、戰爭中白衣の天使として第一線に從軍し満洲、中支、南支、南方各地域において、また軍の慰安婦として働きおり引揚げたる者、その他夫が戰死し子を持つ者、元ダンサー、女給、看護婦、女店員、女工等と諸種の前職を持つておる者ばかりで、いずれの職域においても、現在の接待婦以上のことをいたさねば生活ができず、その上他の方面においては衞生設備は不十分なるため、健康上おもしろくなく、不幸にして病氣にかかりましたら、一般の開業医にかかりますと藥價、治療費が高くかかり、いくらくふうして働いても医者の奉公をしておるようなもので、治療はおろか生活もろくにできず、衣類等を賣り盡くして現在の職業に入つて來ている者が少くないのであります。」
 
 
「このごろの世相よりしまして、さきに申し上げました通り、職業婦人として働いている婦人の中には、皆さんがお考えになつておられるような、給料だけで生活しておられる方はほとんどないといつても過言でないと思います。」
 
 
「私たちにいたしましても、決してすきや好んでこうした職業に入つたのではなく、諸種の職域において職業外の收入の道をくふういたさなければ、子供を養うことも家族を助け、または兄弟のめんどうを見ることもできず、他の方面で苦労したあげく、健康上安心して働ける衞生設備の完備した、こうした職業を選んで働いているような次第でございます。」
 
 
「いずれの職域においても職業婦人は横暴なる男性のたにめ犠牲になり、苦労しているのが事実であります。」
 
 
以上のように、女性が生きていくために、特に戦争により夫が戦死し子どもを抱えている、兄弟の面倒を見なければならない、という場合に、「職業婦人」の「給料」だけでは生活が出来ず、そのためにやむを得ず売春をしているということである。
 
 
その前職・職種も慰安婦や売春婦のようなものだけではなく、「元ダンサー、女給、看護婦、女店員、女工等」など、一般の女性が含まれている点が特徴である。
 
 
しかし本人たちもそのような生活を決して望んではいない。
 
 
「戰いに負けたとはいいながら、民主平和國家を建設して一日も早く世界の仲間入りをするためには、今度のような法律ができることは、理想からいえば当然とは思いますが、」
 
 
「少くとも経済界が安定して生活苦が少くなり、一般職業婦人が給料にて生活ができ、その上服の一着もくつの一足も買うことができ得るようになり、他面青年男女が一定年令に達したなれば、結婚して主人の收入にて生活ができるよう、また全國民が衞生思想が発達し、性教育が今少し普及され、すべての点につき世界の水平線まで進み、自他ともに認められる時期まで、今度の法律が出ぬようにしていただきたいと思います。」
 
 
この陳情書に対し答弁したのが、当時法務政務次官だった田中角栄である。
 
 
「ただいまの陳情に対してお答えいたします。陳情の趣旨は十分了承しました。このような業務に從事する婦人の中には、種々事情のあることも十分承知いたしておりますが、しかし戰後著しく増加して参つたこの種行為は、健全な性道徳を破壞し、善良な風俗をみだし、のみならず恐るべき性病を蔓延せしめるもととなるものでありますから、政府としましてはかかる行為の絶滅をはかることを必要と考え、その一つの方策として、第二回國会にも賣春等処罰法案を提出したのであり、あれは審議未了に終りましたが、近く、さらに同様の法案を國会に提出する準備をいたしておるのであります。われわれとしましては種々研究の結果、現在の事態に対処するためには、このような法案がぜひ必要であるとの結論に到達いたしているのでありますが、國会提出の上は、國会において十分愼重な審議が加えられることを望んでいるものであります。」
 
 
しかし、この答弁からも分かるように、政府としては、なぜ売春をしなければならない女性がいるのか、それらの女性を救済するためにはどのような政策を執らなければならないのか、という視点や政策の方向性などが欠如していることが分かる。
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