コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

国民の団結を訴える

2010-11-08 | Weblog
「平和と未来へのコンサート」である。せっかくだから、たくさんの人々に聞きに来てほしい。そう思ったし、これだけ本格的な企画だから、私の外交活動にもおおいに活用してやろう、とも思った。だから、記者会見を打って宣伝し、その様子がテレビに出たのは、先にお話ししたとおり。さらに、スポット広告を作って、テレビ番組の合間に流してもらった。国営テレビ放送局は、それだけ宣伝してくれたのに加えて、演奏会の当日の昼のニュースに、生中継で出てほしいという話を持ってきた。もちろん、二つ返事で引き受けた。

放送は、演奏会当日(11月6日)昼の、1時のニュースであるという。これまでもテレビに出たことはあるけれど、それらは一旦収録したものを編集して、番組が作られていた。収録編集だと、撮影の時に何度も撮りなおしがきく。それに編集があれば、しどろもどろの部分などを切り取ればいいのである。ところが、今度はニュース番組中に出演して、生中継でしゃべるわけだ。言い間違いや失敗は許されない。これは大変だ。

番組開始の1時間前に、放送局に到着する。打ち合わせが大変だろう、と思っていた。何といっても、生中継である。私に何をどの順序でどのくらいの時間話させるのか、当然ながら先方としても、直前によく打ち合わせ臨まなければならないはずだ。そうしたら、さんざん待たされた挙句に、番組開始の15分くらい前になって、司会のアナウンサーがやってきた。こんにちは、始めまして。

「えーと、大使には私の質問に応じて、演奏会の話をしてください。時間は5分間です。では、よろしく。」
司会のアナウンサーは、それだけ言って立ち去ろうとする。ちょっと待ってください、あの、私はせっかくですから、演奏会の紹介だけでなく、はじめに投票日の感想を述べたいのですが。
「いいですよ、私から最初にその質問をしましょう。では、時間は5分間ですからね。」
それだけ言って、行ってしまった。

あまりにあっけない打ち合わせだ。これがコートジボワール流なのだろうか。それにしても、大使とはいえ何を言い出すか分らない相手を前に、そして決してテレビ慣れをしていない素人を相手に、番組をうまく進行させる自信があるのだろうか。でも、私が不安がってどうするのか。番組を作るのは、テレビ局側である。私は、5分の持ち時間の間に、何を語るかに神経を集中するしかない。

化粧だといわれて、何やら顔に粉をふられ、そのままスタジオに案内され、司会のアナウンサーの近くに座った。13時のニュース番組の導入が流れ、アナウンサーが最初のニュースを読み上げる。予め編集されているそのニュースの映像が流れる間、アナウンサーは次の原稿に目を通し、軽く練習をしている。しばらくニュースが続いた後、
「次は大使の番ですよ。」
そう言われて、私は襟とネクタイを正す。いよいよ本番、いやぶっつけ本番である。

「本日は、日本大使にスタジオにお越しいただき、お話をお聞きします。日本大使館は、平和と未来へのコンサートを企画しているということですが、コンサートのお話の前に、まず先日の選挙について、一言お伺いします。」
約束通り、選挙の話に振ってくれた。私は努めて落ち着いて、テレビカメラに語る。
「私が何より最初にお伝えしたいのは、お祝いの言葉です。投票に皆で参加し、暴力なしに選挙を行って、民主主義の成熟を示したコートジボワールの人々への、お祝いの言葉です。」
手元の原稿を見てはいけない、というのが以前の教訓である。なるべく、カメラに語りかけるように努める。しかし、実際にやってみるとたいへん難しい。

「そして、私自身にもお祝いなのです。なぜなら、私は当初から、コートジボワールの人々を信じるべきだ、と言い続けてきました。でも、国際社会には疑いばかりだったのですよ。コートジボワールは、危機にある国だ。そんな国で選挙といったら、たちまち暴力沙汰だ。人々は身分証にしか関心がない。身分証を貰ったら、後の選挙はどうでもいい。でも、違いましたね。私は当初から、コートジボワール人を信頼せよと言っていたのです。だから、この選挙で誰が勝ったかというと、それは私です。」

そう言っているうちに、言葉が熱くなる。
「今回の選挙で示されたのは、コートジボワールのしっかりした民主主義だけではない。私は、そこに国民の一体性、団結を感じます。北の人、南の人、東の人、西の人、誰もが大挙して投票箱に向かった。私の手で、私の大統領を選ぶ。全国民がそういう気持ちを一つにしたのです。地方の違い、部族の違い、宗教の違い、そういうものを乗り越えて、国民として一体になった。この国民の団結を、決して誰も裏切ってはなりません。」

そして、私は日本国民からのこのお祝いの気持ちを表すため、「平和と未来へのコンサート」を開催することにした、と説明する。国連と一緒に開催するのだ、と大きいところを打ち出した。日程や、日本の伝統音楽や民謡の簡単な解説をしたら、もう残り時間も少ない。私は、皆さんの参加を期待する、と述べた。
「先日の投票の時と同じく、大挙して聴きにきてください。」
そこまで言ったら、画面が切り替わった。4分46秒であった。

慌てながら、つかえながらも、何とか、言いたいことは全部言えたようである。実ははじめに話があった時から、この出演は私からのメッセージを、コートジボワールの人々に伝える、絶好の機会であると思っていた。日本のコンサートの宣伝よりも、もっと言いたいことがある。それは、次の決選投票で再び、ほんとうに素晴らしい選挙を見せてほしいということだ。

次の決選投票は、南のバグボ大統領と、北のウワタラ候補との間で競われる。ややもすると、南北間の対立、部族間の対立を、かきたてるかもしれない。2002年の内戦以来、南北に国が分裂したのを、ようやくここまで克服してきた。それが、選挙を通じてまた元の木阿弥にならないとも限らない。だから、私は民主主義の精神を再び発揮してほしいという願いとともに、国民の団結、つまり国民全体が一致して国の未来を選ぶという気持ちで臨むことが重要なのだ、と伝えたかったのである。

<テレビ・ニュース>

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