コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

みなさん働こう

2009-08-13 | Weblog
独立記念日の当日、8月7日は、もちろん国民の休日である。しかし、大使たちは背広を着て、大統領府に出かけなければならない。独立記念日の式典があるのだ。バグボ大統領は、式典で軍隊を閲兵する。功績のあった人々に勲章を授与する。政府高官たち、参謀本部の将校たち、各界のリーダーたちとともに、大使連中もこれらの行事に臨席する。

そして、ふたたびバグボ大統領は演説をする。バグボ大統領が立ち上がる。演説台は、外交団席のすぐ横である。大統領は、外交団席のほうを見て、会釈をする。あれ、私と目が合ってしまった。私も微笑みを返す。昨日のテレビ演説と違って、今日のバグボ大統領は原稿を持たない。自由に語る、いつもの演説である。

おきまりの挨拶をしたあと、お話に入る。
「われわれは、農業国だ。カカオの生産高は、世界一だ。コーヒーも作っている、そして。」
と言葉を区切ってから、
「沢山のお米を輸入している」
会場が沸く。私も、皆と一緒に喜んでいる。今日は期待通りにバグボ節が聞けそうだ。

「われわれは、カカオやコーヒーのつまった袋の上に座って嘆く。お腹がすいたなあ。」
爆笑が起こる。収まるまで待ってから、大統領は続ける。
「これじゃ、何にもならない。カカオやコーヒーを売って、お金が入っても、すぐに消えていく。お米を外国から買わなければならないからだ。フランスを見てみよう。あの国も農業が盛んだ。で、人々が作るのは小麦だ。パンを焼くために。人々が作るのは牛乳だ。チーズを作るために。自分たちの子供に食べさせるものを、作っているのだ。」

「それで、農園で今度は何を始めるって。ゴムだって。それからジャ・・何とかいったよなあ。」
「ジャトラファですよ」と、会場から声がかかる。
「そう、そのジャトラファだ。」
ジャトラファとは、バイオ燃料を作るための油を採る木である。たしかに、ゴムもジャトラファも商品作物であり、食料ではない。ゴム農園開発は、昨今のはやりである。従来のヤシ林やカカオ畑などを潰しては、ゴムを植林する農地経営者が、大変多い。植林後10年先からゴム樹液を採るための先行投資である。ところが、昨今の自動車不況でゴムの需要が急落し、見通しについて一部でおおいに懸念を呼んでいる。

「ゴムやジャトラファでは、お腹は太らない。お米だ。お米を作ろう。お米は(キャッサバ芋などに比べて)料理に手間がかからず、都市生活者には欠かせない。そして、都市人口は増大している。コートジボワールの人口の半分は、いまや都市に生活しているのだ。わが国でお米は出来る。作れば輸入をしなくて済む。そして、村でたくさん作って、町に持って行って売って、お金を稼げばいいのだ。」
コートジボワールの多雨の土地柄で、稲作の潜在性が高いことは、私も着任当初から注目している。稲作協力は、日本政府も国際協力機構も、力を入れているところである。私は、バグボ大統領から、大いに勇気づけられた気がしている。

「農業と言えば、ひとつ小話がある。私の故郷のママ村から、すぐ近くのベテ族の村を訪問したときのことである。畑に行くと、トマト、ピーマン、茄子もある。果物の木も植わっている。あー、素晴らしい。みんな、とても頭を使って、作物を育てている。私は大変満足し、訪問の終わりにこう言った。いや、皆さん本当に感心しました。とても頭を使って、やっておられる。」

「そうしたら、村の長老が出てきて、えー大統領、実はちょっと違いまして。何が違うんだ。えー、あれをやっておりますのは、ベベトという男でして。ベベトは、ベテ族の村に働きに来ている、ブルキナ人だった。私は、財布からお金を取り出して、ベベトへのご褒美にした。よくやった、ベベト。」
バグボ大統領は、自分の出身であるベテ族の村を引き合いに出して、ブルキナファソからの移民労働者の働きぶりを褒めた。

「土地と言うのは、ただそこにあるというだけじゃ、駄目だ。ベベトのように、働かなくては。ベベトと彼の妻がいてこそ、トマト、ピーマン、茄子なのだ。それで、彼らはそれを売りに出して稼ぐ。これだよ、これだけが大切だ。コートジボワール人の皆さんに言いたいのは、ベベトのように働こう、ということだ。」

「働かなきゃ、何も得られない。働けば、何かが得られる。簡単な話だ。みんな、フランスはいい、米国はいい、ドイツはいい、日本はいい、という。いいのは当たり前だ。フランス人も、米国人も、ドイツ人も、日本人も、よく働くからだ。それに比べて、コートジボワール人は、少ししか働かない。」
そして、大統領は間をおいてから。
「違う。全然働かない。」
爆笑。

そして、バグボ大統領は、また私の方を見る。
「日本を見てみよ。耕作する土地もろくにない、資源もろくにない。でも皆が一生懸命働くから、世界の経済大国だ。発展するのは、人々が働くからなのだ。コートジボワール人のみなさん、働こう。」

簡潔明瞭な内容、最後まで楽しませる話術、おまけに日本まで引き合いに出してくれた。私は大いに満たされた気分で、たくさん拍手をした。

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