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国連海洋法条約への加盟目指すオバマ政権の狙い

2012年06月15日 15時09分50秒 | 保管記事


 

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国連海洋法条約への加盟目指すオバマ政権の狙い

 日本は中国の「法律戦」に加担するな

    2012年06月15日(Fri)  小谷哲男 (日本国際問題研究所 主任研究員)

 以外と知られていないことだが、アメリカは国連海洋法条約に加盟していない。1982年に採択、94年に発効した国連海洋法条約は、各国の領海や経済資源の採掘に関わる排他的経済水域(EEZ)の範囲など、地表の71%を占める海における国家の権利と義務を定義し、「海の憲法」と呼ばれている。

 

オバマ政権内で相次ぐ批准を求める発言

  現在160カ国以上がこれに加盟しており、他に批准していないのは、アメリカがかつて「悪の枢軸」と名指した北朝鮮やイランなど素行に問題のある国がほとんどである。日本は同条約を96年に批准し、施行された7月20日は「海の日」という祝日に制定された(現在はハッピーマンデー制度により7月第3月曜日である)。

  このところ、オバマ政権の高官による同条約の批准を求める発言が相次いでいる。5月9日にはパネッタ国防長官とデンプシー統合参謀本部議長がそろって国連海洋法条約がアメリカの国益にかなうと発言し、23日には同じくパネッタ国防長官とクリントン米国務長官が上院外交委員会で行われた公聴会で証言し、条約の批准承認権を持つ議会上院に国連海洋法条約への早期批准を促した。

  実は、国連海洋法条約が発効した94年以降、歴代すべてのアメリカ大統領が批准を支持してきた。合衆国憲法の規定で、条約は上院の3分の2の議決による「助言と同意」を経て大統領が批准する。04年には上院外交委員会は同条約の批准を19対0で可決し、07年にも17対4で可決した。しかし、いずれも一部の共和党保守派の反対により、批准の手続きは成功してこなかった。

 


中国がしかける「法律戦」

  しかし、今回は上院が国連海洋法条約を批准する可能性が高いと多くの専門家がみている。なぜなら、大統領選挙の最中であるにもかかわらずオバマ政権がこの問題に本腰を入れているのは、中国がしかけている法律による戦争に対処するためだからである。法律戦とは、国際法の解釈を恣意的に変更することによって政治上の目的を達成することである。中国は国連海洋法条約を96年に批准したが、それを中国近海におけるアメリカ軍の活動を制限するために恣意的に解釈してきた。

  たとえば、一般的な海洋法の解釈とは異なり、中国は自らのEEZ及びその上空において外国の軍事活動を認めていない。このため、中国はアメリカの艦船や偵察機が黄海や南シナ海で行っている軍事情報の収集活動を妨害してきた。

  01年3月には、海南島近くの南シナ海上空で中国の戦闘機がアメリカの偵察機に衝突する事案があった。この衝突で中国側のパイロットは行方不明となり、アメリカの偵察機は海南島への不時着を余儀なくされた。不時着した兵士の返還をアメリカ政府が要求すると、中国政府はEEZの上空でアメリカが情報収集活動を行ったことを非難し、謝罪を求めた。アメリカは他国のEEZ及びその上空であっても、外国軍が情報収集をすることは自由であるというのが一般的な国連海洋法条約の解釈であると反論したが、中国はアメリカが批准もしていない条約に基づいて自らの立場を正当化していると批判した。

 

EEZにおける外国軍の活動を禁止する中国

  中国がミサイルや潜水艦を駆使してアメリカの接近を阻止しようとしていることは、日本のメディアでも広く伝えられるようになった。けれども、中国が法律の恣意的解釈を接近阻止戦略に取り入れていることはまだあまり知られていない。

  中国の法律戦の基本は、自らのEEZを広げる一方で他国のEEZを否定し、EEZにおける外国軍の活動を禁止することである。このため、中国はEEZの基点となる尖閣諸島や西沙・南沙諸島の領有権を主張し、EEZの拡大を目指している。一方、中国が日本最南端の沖ノ鳥島を島ではなく岩だと主張しているのは、島であればそれを基点にEEZを宣言できるが、岩であればEEZが認められないからである。

  アメリカでは中国が法律による戦争を仕掛けてきているという認識が広がり、オバマ政権がアジア重視姿勢を貫くためには、この法律戦に対抗しなければならないと考えられるようになった。そのためには、アメリカが国連海洋法条約に加盟し、その本来の解釈を守らなければならないのである。

 


アジアの多くの国が中国と近い解釈

  法律戦の難しいところは、アジアの多くの国が中国に近い海洋法の解釈をしていることである。中国の強硬な南シナ海への進出に対しては、ベトナムやフィリピンを始め東アジアの国々がアメリカの後ろ盾を期待している。これに対してアメリカは国際法に基づいた平和的な解決を当事者に求めている。

  しかし、沿岸国に有利な海洋法の解釈、とりわけEEZにおける外国軍の活動が規制されるべきだという立場は中国だけのものではなく、インド、マレーシア、ミャンマーなどアジアの多くの国によって共有されている。このような海洋の自由を脅かしかねない解釈が広がることを防ぐためにも、また自らの主張の正統性を高めるためにもオバマ政権は国連海洋法条約への加盟を求めているのである。

 


海洋法制定を主導した米ソ

  そもそも、国連海洋法条約の制定を主導したのはアメリカとソ連だった。第二次世界大戦後、漁業や海底探査の技術が向上し、様々な国が幅広い海域の管轄権を主張するようになった。

  58年と60年に国連の場で統一した海のルールを作ろうとしたもくろみは泡と消え、70年代初頭には海はまさに無秩序に近い状態となっていた。それは、世界規模で海軍を運用するアメリカとソ連にとっては、航行の自由を脅かしかねない状況だった。このため、米ソ冷戦の最中であるにもかかわらず、両国は統一した海のルールを確立して航行の自由を守るために国連海洋法条約の制定に向けて共同歩調を取ったのである。

  米ソが重視したのは、3~200海里までばらばらだった領海幅の統一と国際海峡の自由通航、そして沿岸国の漁業権であった。米ソは沿岸国が12海里(約22キロ)までの領海と、200海里(約370キロ)までのEEZを宣言できることを認める一方で、EEZや国際海峡の自由通航権を確保した。米ソは、沿岸国の経済的な管轄権に配慮しつつも、狭い領海と広い公海という海洋の自由の構図を維持し、新海洋秩序を成立させたのである。それは、海洋大国と沿岸国の利害を微妙な均衡の下で調整したものであり、両者の妥協の産物でもあった。

  アメリカは国連海洋法条約に加盟はしていないが、実際には、それを慣習国際法として受け入れ、これに基づく国内法を整えている。アメリカが問題としたのは、条約の深海底の開発に関する規定が自由競争を阻害し、途上国に有利過ぎる点である。批准に反対する上院議員も、主にこの深海底に関する規定を反対の論拠としてきた。しかし、94年にこの深海底に関する規定は先進国、とりわけアメリカにとって有利なものに事実上改正されている。日本やその他の先進国が国連海洋法条約を批准したのも、この改正がなされたからである。

 


多国間主義や国際機関に対する根深い不信

  では、なぜ一部のアメリカの保守派は海洋法条約(Law of the Sea)をLOST(=敗北)と呼び、依然として加盟に反対するのだろうか。それは、孤立主義、または単独行動主義を反映したものなのだろう。つまり、アメリカには独裁国家にも等しく発言権を与える多国間主義や腐敗の温床となる国際機関に対する根深い不信があり、アメリカの思い通りにならないような枠組みには入る必要がないと考える人たちがいるということである。かつて、アメリカはウィルソン大統領が主導した国際連盟に上院の反対で加盟しなかったが、それと同じ構図である。

  しかし、中国の法律戦はアメリカが主導して作り上げた海洋自由の原則を脅かしている。アメリカが海洋法条約の外側にいる間に、中国にとって有利な新しい海洋秩序を作り上げようとしているのである。アメリカ上院が国連海洋法条約を批准するかどうか採決するのは、大統領選挙の後になる見通しである。しかし、中国の法律戦に対抗するためにアメリカは海洋の自由を守るために真剣な議論を続けることだろう。

 


日本の立場の表明を

  日本もこれを機に海洋の自由について考え直すべきではないだろうか。日本政府は、EEZにおける外国軍の活動に関する解釈をこれまで明確にしてこなかった。その活動を規制すべきでないという意見と、何らかの規制を課すべきという意見が政府内で拮抗しているからである。さらに、日本の学者の中にはむしろ中国の法律戦を援護しようとするものが多い。

  日本のある研究機関は、05年に各国の専門家を招いて他国のEEZにおける軍事活動を大きく制限するガイドラインを作成した。その柱は、軍事活動を「平和目的」に限定するということである。沿岸国の安全を脅かし得る情報収集も認めていない。しかし、アメリカが平時から中国のEEZで軍事情報を収集しておかなければ、有事に日米同盟は機能しない。残念なことに、このガイドラインは国連に参考文書として提出され、アジア各国では日本が主導したガイドラインとして有名になってしまった。アメリカ海軍大学では、法律戦の例としてこのガイドラインが教材となっている。

  日本の国益を考えれば、EEZにおける外国軍の活動は規制すべきではない。もちろん、日本のEEZで中国軍が自由に活動することは気持ちのいいものではない。しかし、規制を認めてしまうとアメリカも日本も中国のEEZで軍事活動ができなくなってしまう。ダブルスタンダードは許されないのである。中国の法律戦に荷担しないためにも、日本政府は早急にその立場を明確にするべきであろう。
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/1989?page=1

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