税理士法人 税の西田 税金Q&A

日々の暮らしに役立つ税金の知識をQ&A形式で紹介します。

子や孫たちに遺すべき財産は何がいいのか

2018-08-31 10:09:13 | 相続税
Q.質問
 全人口に占める働く人の割合が60%を割ってしまった。これからの超高齢社会では医療や年金、税金を誰がどれだけ負担すべきなのかが明確になってきたようです。老若男女の誰もが社会の負担金を分かち合わなければならないとすれば、負担してくれる次の世代がいない我が子や孫の生活はどうなるんでしょうか。年寄りの蓄えを当てにしてきた子どもたちの生活設計はより一層親がかりになりそうです。そこで私たちの相続においては子や孫たちに何を伝え、何を遺すべきでしょうか。そのために今何をしておく必要がありますか。

A.回答
・我が家の生活設計を見直す
 働き方や生活の多様化が進むと、来年、5年後、10年後、20年後の家族の出来事を想定して必要な資金を準備する生活設計も毎年見直さなければなりません。とくに、いつ発生するか分らない相続への備えは猶予がありません。万一のとき家業をどうするのか、祭祀は誰が主宰するのか、配偶者の老後は万全かなど今から家族で話し合っておかなければ落ち着けない。

・相続財産の中身が変わる
 相続税の申告に長く携わっていると、遺産は被相続人の人生観とか家族観、相続観を反映したものになっていることがよく分ります。先祖伝来の土地と家をしっかり守り続けてきた家承継型。先々を憂い預貯金を蓄えてきた貯蓄優先型。家族のためにと生命共済に加入し、社会経済の動きを模索しながら財産を株式や債券、投資信託、金口座などへ遺産分けしやすく組み換えしてきた家族対策型。多額の債務をともない貸家経営に専念してきた相続税節税型など、いずれも謹厳実直そのものです。相続とは文字通り被相続人がやってきた仕事と生活を相い続けることなのですが、家を守るための相続から相続人の生活設計を優先した相続に変ろうとしています。つまり、次世代にとって親元に戻って家を守る必然性、家業を継ぐ経済性が希薄になってきたのです。当然、遺産は相続してもらうために組み替えておかなければなりません。とくに、次世代へ遺すべき事業用財産は子ども達の生活設計をとらえたものにならざるを得ないでしょう。

・子どもたちの本音
 親の遺産には家の安寧と子ども達の生生発展が込められているが、子どもたちは仕事と子育てに追われ、家業はおろか家を考えることさえ難しくなってきている。親元から離れて暮らす子どもたちにとって、実家の土地には興味がなく、祭祀などの煩わしさから逃れ、重い荷物は背負いたくないというのが本音のようです。とりあえず配偶者が遺産と家業を引き受けることで決着するも仮の姿である。それでいて子の生活設計は親の財産を当てにしたものが多く、当然のように金銭で法定相続分を主張されるので均分相続の定着とあいまって分割協議は一層むずかしいものになりそうです。

・子どもたちの自立は生前に見届ける
 自ら遣わず子供や孫のためにと親が貯めてきた預貯金も、貯蓄の目的が曖昧だと子供たちの蓄財のために安易に分割されてしまうのです。使い道(子どもの自立や子育て、教育などの必要資金)を指定して非課税の生前贈与を進めておくと、親は必要以上の財産を持たず相続税も余計に納めないで済むことになり意義があるかもしれません。

・相続されるべき生活用財産とは
 そうすると、配偶者の居住用財産としての100坪の土地と30坪の瀟洒な居宅、万一の時の遺族の立ち直り資金として各相続人が 500万円づつ受け取れる生命共済契約、配偶者の老後の生活資金として介護費用をも想定した2,000万円程度の金融資産。の備えで十分かもしれません。

・相続されるべき事業用財産とは
 土地は財産ですから、収益性があって換金性がなければなりません。とりあえず、土地の価額の6%以上の収入を見込める土地をめざします。調整区域の農地は農地として、市街化区域の農地は宅地として利用することが土地活用の原則であり、税負担の軽減にもなります。家を守るべき相続人の生活と祭祀費用を賄うための農業は後継者のために法人成りをして経営の安定と効率化をはかります。できれば農地は後継者に生前一括贈与をして贈与税の納税猶予の特例を受けておきます。不動産賃貸事業は、建物保有会社をつくり不動産の収益目標を確保します。

・相続に関する民法の改正
 親の財産は子の養育の過程を経て子に十分施されている。子の権利より配偶者の老後の生活を配慮した40年ぶりの改正がありました。均分相続における配偶者の財産権や生活権を明確にしたものです。現行では生活資金等を優先して取得すると居住用財産を確保できなくなる場合があるとして、新たに居住権の制度を設け終身利用できるようにしたのです。居住権を相続しない場合でも、分割協議が終わるまで又は6ケ月間の短期居住権も認められます。20年以上連れ添った配偶者からの居住用財産の非課税贈与で取得した土地建物については相続財産として持ち戻し計算を要しないことになったことから、その分他の財産を余計に貰えることになりました。
 なお、遺留分の減殺請求については金銭での引渡しを請求できるようになりました。不動産を中心に取得する相続人は遺留分相当額の金銭を用意しておかねばなりません。自筆証書遺言については、本文は自筆でなければなりませんが目録はタイプでも可能になりました。書き終わったあとは法務局へ保管を依頼できるなど高齢者への配慮がなされています。