税理士法人 税の西田 税金Q&A

日々の暮らしに役立つ税金の知識をQ&A形式で紹介します。

相続手続きは何から始めたらよいか

2020-04-20 13:41:20 | 相続税
Q.質問
 父の相続をどう進めていくべきかを知人に相談したところ、不動産を登記すれば預貯金の名義変更も簡単にできると教えられました。専門家の指示通り相続人の署名押印を受けて遺産分割協議書が完成しました。登記を終えたところで、相続税の申告のための財産目録を作成しているうちに、隣の町の農地や宅地、JA以外の預貯金と株式、共済契約などが発見されました。他の相続人へ改めて分割協議の申し入れをしましたが、やり方が悪いと同意を得られず困っています。裁判所での調停が想定される中、申告期限までに話し合いができない場合の相続税の申告はどうなりますか。全部の遺産について改めて分割協議をやり直すことができますか。遺産の分け方の基本は何でしょうか。

A.回答
・相続は財産目録の作成から
 相続手続きを始めるには、まず財産目録(財産と債務の内容を明らかにしたもの)を作って被相続人の遺産の全容を把握します。被相続人の財産に関する一切の権利義務は、相続人がいったんは承継しなければならないからです。財産より債務の方が大きい場合は、相続を放棄するかどうかの判断をしなければなりません。借地権や借家権、地上権・地役権、抵当権、仮登記など他人の権利がついている財産は、勝手に処分することはできません。借入金や未払金などの債務は約定に従って返済して、期限の利益を失わないようにしなければなりません。財産目録は被相続人が先代から承継し、生涯に積み上げた遺産そのものを表現しています。

・遺産分割とは
 被相続人の財産や債務は、相続人が一人であれば単独で相続しますが、相続人が数人の場合は相続人全員の共有物になります。共有は生活や仕事に支障をきたすだけでなく換金性や収益性も減殺され対外的な信用も失いかねないものです。そこで、共有財産の権利義務を各相続人に帰属させるための遺産分割(共有物分割)がどうしても必要なのです。

・遺産分割の基本
 遺産の分け方について、民法では「遺産の分割は、遺産の種類及び性質、相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする」として、安易な分割をいましめています。相続とは文字通り「相い続ける」ことですから、必要な人に必要な財産を相続させることが基本であり節税の原点でもあります。配偶者には生活を優先した財産を、家業に必要な事業用の資産は後継者に相続させるなど、各相続人への熟慮が必要です。確かに登記や名義書換が済むと相続は終わったかにみえますが、名義書換が目的になると「ちょっと待てよ!」ということになりかねない。被相続人の生活や家業を承継すべき者は、各相続人の権利と義務をふまえた我が家の相続計画を各相続人に丁寧に説明して納得を得ることが大切です。配偶者が全部相続すれば納税は不要になるから、とか次の相続がまた大変だから子が全てを相続する、などの発想は改めなければなりません。

・遺産分割で税負担も変わる
 被相続人と同居して生計を一にしてきた子が、その居宅や敷地を相続して引き続き住み続けると、居宅の敷地のうち330㎡までの部分(被相続人から家業を承継して引き続き事業を継続する相続人には事業用の建物の敷地のうち400㎡までの部分)は20%の評価額で相続税を計算することができます。また、夫の相続の際に配偶者が取得する財産が法定相続分(子と相続する場合は二分の一、夫の兄弟と相続する場合は四分の三、夫の親と相続する場合は三分の二)又は一億六千万円までは配偶者の税額軽減の特例によって相続税の納税額はありません。配偶者自身の相続(二次相続)では法定相続人が一人少なくなること、配偶者の固有の財産があることから夫の相続と妻の相続の税負担額が最も小さくなるように試算をして夫の相続での取得財産をきめることができます。また、借入金を相続する人は、承継する借入金以上の財産を相続しないと、財産から控除しきれない借入金は切り捨てになりますから留意して下さい。

・財産目録は専門家に頼む
 相続財産の大部分は不動産と預貯金ですから、固定資産税の名寄せ台帳と預貯金通帳を見れば誰でも目録を作成することができます。専門家はさらに故人の仕事や生活の経過をたどり、被相続人の生活を復元するかのように遺産をさがしていきます。例えば、固定資産税の納税の状況から、どこか(市町村)に土地建物があることを突き止め、賃貸料収入から他の金融機関の口座の存在を確認します。まとまった生前払い戻し金の使途をたどってみると一時払いの生命共済契約の掛金であったり、相続人への三年以内の贈与など、納税者から提示された資料から専門家として知り得べき財産はもれなく特定していきます。

・申告漏れは余計に税金を納めることに
 当初の遺産分割協議書をうのみにして相続税の申告書を提出した場合は、不足税額とこれをもとにした過少申告加算税と延滞税を納めなければなりません。場合によっては重加算税が課されることがありますから留意して下さい。

・遺産分割のやり直し
 遺産分割協議は相続人全員の合意によってやり直すことができます。申告期限内であれば修正申告や更正の請求の必要はありませんが、各相続人にいったん帰属した財産が自らの意志によって他の相続人へ再配分することですから、贈与税が課税されることがあります。さて、一部の財産が除外されていたからとして申告期限後に遺産分割をやり直した場合、贈与税を課されないかは疑問です。遺産分割に大きな瑕疵がないかぎり移動した財産は贈与によって取得したものとみなされるからです。なお、あとから発見された財産が申告期限までに分割されなかった場合は、各相続人が法定相続分によってこれを取得したものとして相続人全員が相続税を申告納税しなければなりません。後日、分割されたときは修正申告や更正の請求によってすでに納税した相続税額を精算することができます。この場合は加算税や延滞税はかかりません。

孫を養子にした場合の営農と相続の税はどう変わるのか

2020-02-19 09:40:44 | 相続税
Q.質問
 主穀と施設野菜農家として50年になります。長男は会社勤めのため孫夫婦が青色事業専従者として従事しています。近い将来、二人を私の養子にして農業経営を移譲するつもりです。養子縁組の有無によって農業経営に何か影響がありますか。贈与税や相続税の負担はどうなりますか。

A.回答
・経営移譲と税金
 祖父から孫へ作物の栽培技術を伝授し、経営を移譲するということは、家を守り家業を確かなものにするための必須要件です。経営権だけでなく農地や施設の権利の移転がともなうだけに、祖父と孫の間に贈与関係が生ずることがあります。もっとも使用貸借(ただで物を借りること)であれば祖父が支払う固定資産税・土地改良費・水利費などを負担するだけで済みますが、祖父の相続において農業用財産が孫のものになる保証はありません。

・祖父の相続で想定されること
 相続が始まると、祖父の財産は全て相続人の共有になりますから遺言があればその内容にしたがい、遺言がない場合には分割協議によって相続人のみが取得します。孫夫婦は当然には相続人になれないので、祖父の遺言か養子縁組によって相続人にならなければ、必要な財産を確保することができず農業を継続することは困難です。

・孫に遺言を書くと
 養子縁組をしないで「孫○○に農地と農業用の施設を遺贈する」と遺言した場合、相続人でない孫への農地の遺贈は特定遺贈とされ、この部分は無効になります。他の財産の遺贈を受けられたとしても、遺留分がないので相続人から侵害額の請求を受けて遺言の効果は半減してしまうのです。

・孫を養子にすると
 祖父と孫が養子縁組をすると、孫は祖父の嫡出子たる相続人になりますから農地の遺贈は有効です。縁組後は相続を待たずして農地の生前一括贈与を受け、贈与税の納税猶予の特例を受けることができます。現に耕作しているすべての農地の所有権や利用権、耕作権が孫のものになり、納付すべき贈与税は贈与者または受贈者が死亡するまで、猶予されるわけです。さらに、贈与を受けた年の1月1日における孫の年齢が20才以上、祖父が60才以上であれば、相続時精算課税制度(財産2500万円まで贈与税は無税で、これを超える部分に対して20%の贈与税が課税されるしくみ)によって農地や農業施設等の贈与を受けることができます。

・生前贈与した農地には相続税が
 贈与者が死亡した場合、生前一括贈与を受けた農地は贈与者の相続開始時の価額で、相続時精算課税制度によって贈与された農地は贈与時の価額を相続財産に加算して相続税を計算し、納付した贈与税額を精算(控除)します。農地の価額が贈与時より値上りが想定される場合は相続時精算課税制度が、値下りが見込まれる場合は生前一括贈与を選択した方が得策ということになります。なお、生前一括贈与を受け相続財産に加算された農地については、祖父の相続税の申告において、相続税の納税猶予の特例を受けることができます。

・養子縁組を解除した場合の贈与の特例
 贈与税の納税猶予の特例を受けた農地の受贈者が養子縁組の解除により贈与者の推定相続人にならなくなった場合は、贈与税の納税猶予の全部が打ち切られ、本来の贈与税額と利子税を合わせて納付することになります。なお、相続時精算課税の適用を受けた受贈者が養子縁組を解除して推定相続人でなくなった場合でも、祖父から贈与により取得した財産については、引き続き相続時精算課税を適用することになりますので留意して下さい。

・事業用資産の贈与税の納税猶予
 規模拡大に伴って、投資額が大きくなってきたので、使用貸借から固有財産へ経営基盤の拡充が求められることになりました。贈与税における農地の生前贈与とほぼ同じしくみで、農業用の宅地や建物、農業用機械を後継者へ生前贈与することが可能になりました。

・養子縁組とは
 養子は、養親と養子が縁組をする意思の合意によって成立します。普通養子は養親より年下であればよく、何人の養子になってもよく、養子の数にも制限はありません。養親は養子を相続し、養子は養親を相続することになります。15才未満の未成年を養子にする場合はその法定代理人の承諾が必要ですが、15才以上の未成年を養子にする場合は未成年の意思によります。

・養子縁組のメリット
 相続税の総額を計算する場合の、基礎控除額、法定相続分、死亡共済金・死亡退職金の非課税金額は養子が加わることによって増え相続税を軽減することできます。ただし、養子のお孫さんは2親等ですから本人の相続税額は2割加算になります。

生前の預貯金の払い戻しと名義預金の税

2019-12-20 09:33:32 | 相続税
Q.質問
 お医者さんから夫の病状を告げられたので、とりあえず夫の貯金口座から500万円を払戻しました。医療費などを支払い相続開始時の現金残高は300万円でした。その後、現金は全額葬式費用にあてました。金庫の中には普通貯金通帳のほか10年前に預け入れたと思われる子や孫たちの名義の定期貯金の証書と届出の印鑑がありました。普通貯金の口座から毎月30万円を払戻しているほか、3年前に600万円、8年前に700万円を払戻したこともわかりました。これらの取引の結果としての残高証明書をもとに相続税を計算して申告納税したいと考えています。相続税の申告前に見直すべきものがありますか。

A.回答
・相続預貯金の払戻し
 相続が始まると、各相続人は遺言書があるか遺産の分割協議が整うまでは単独で相続預貯金の払戻しができず不便でした。そこで相続法が改正され、遺産分割の調停や裁判が長引く場合、借入金の返済や税金の納付、生活費の必要があるときは、預入店舗ごとに相続人一人あたり最高150万円まで払戻しを請求することができるようになりました。

・預貯金が現金という相続財産に
 それでも、相続が近いことを知らされると、相続人らは被相続人の預貯金の払戻しを実行するものです。あとで預貯金を下ろせなくなるから、葬式費用を用意しておきたいから、預貯金の残高を小さくしておきたいから、などと動機はさまざまです。生前の払戻によって葬式費用を賄うことができるも、預貯金が減って現金が増えただけのことですから、急いで下ろす効果は少ないのです。

・生前払戻金は財産
 生前に払戻したまま相続を迎えた現金は、どこまでも相続財産ですから、お葬式費用や借入金等の支払にあてたとしても、これと相殺することはできません。相続財産から債務や葬式費用を二重に控除することになるからです。

・生活費としての預貯金の払戻し
 老夫婦世帯において月々払い戻す30万円は、生活費のための預貯金の取崩しですが、生計中心者でない被相続人の預貯金を払い戻して負担する必要以上の生活費は、生活扶養者等に対する贈与または貸付金とみなされ易いですから留意して下さい。定期的な払戻金がヘソクリとして家族名義の預貯金になっていないか、もう一度見直してみてください。

・数年前の払戻金の使途と税金
 生前における預貯金の払戻し金が相続財産を構成することがあります。被相続人が払戻した分だけ相続財産は少なくなっているわけですから、生活費として費消したものでも、払戻した資金の使途をよく確認して財産性を見極める必要があります。①金銭の生前贈与を受けた人は贈与税の申告納税のほか、3年以内の贈与に加算が必要になることがあります(相続時精算課税制度の適用を受けた場合は必ず加算します)ので留意して下さい。②家族の名義にした貯金は相続財産そのものです。③共済掛金の払込みに当てた場合は、解約返戻金相当額又は契約者への掛金相当額の貸付金が相続財産になり、契約者である被相続人の死亡に伴う共済金は非課税財産になります。④相続人の名義で農機具や自動車などを購入した場合は、購入額を相続人への貸付金とします。⑤被相続人の名義で購入した農機具や自動車はその未償却残高が相続財産になります。

・子や孫への名義預貯金
 10年前に子や孫たちの名義とした定期貯金は、被相続人が子や孫たちへ贈与しようとした財産と思われます。贈与の要件を満たすためには「あげます」「頂きます」の契約のもとに、受贈者が自ら管理し処分できるものでなければなりません。定期貯金の証書や届出の印鑑が金庫内に保管されているということは、まともに手渡すと使われてしまうのではと贈与者が管理してきた典型的な名義預貯金です。すでに6年の更正処分の期限を超えていますが、実在する預貯金ですから相続税の課税対象になります。

・大きな払戻しへの記録

 預貯金口座からの払戻しを請求すると、その事実が通帳に記載されますがそれだけでは後日の検証はできません。誰が請求したのか、使途は何か、誰に渡したのかなどを付記しておくことです。生前払戻しは、生前に相続人が目的もなく慌てて行う場合が多く、この期に多額の現金を抱え、争いの種になりかねない。被相続人が、かねてから「ああしたい」「こうしておきたい」などと考えてきたことを、意思能力があるうちに実現してあげるのも相続人の役割だと思います。

相続後の農地の管理と土地活用の税務について

2019-06-20 08:57:18 | 相続税
Q.質問
 夫婦で米と野菜を3.6ha耕してきましたが、1月に夫が急逝したので私が全財産を相続しました。とくに土地建物は先祖から引き継がれてきたものだけに、家産として守っていきたいと思っていますが、私一人では農作業を続けることはできません。そこで、調整区域内の農地は将来子どもが就農するまでの間、専業農家に借りていただき生産緑地は市長に買い取りを申し出て宅地として貸すことにしました。これからの土地活用で留意すべきこと、土地を他人に賃貸する場合に想定される権利義務や地代の決め方、耕作権、賃借権、借地権の税務において留意すべき点はどんなことでしょうか。

A.回答
・土地を財産として活用するには
 土地神話が崩れて30年経ち、地代や家賃は公共料金つまり「原価」であり「生活費」であること、土地に収益性と換金性、安定性が無ければ財産ではないことも分ってきました。この間、土地税制は取得・保有・譲渡の各段階で一貫して強化されてきたことから投資や投機の魅力を削がれ、土地は財産ではなく仕事や生活の手段にかわってきました。ちなみに、今の相続の世代間隔はおよそ27年(父が94才で、子が67才とする)、相続税の実効税率が20%であれば、現行の固定資産税・都市計画税のもとでは何も利用しないと、次の相続までにその土地は35%まで目減りする勘定になります。不動産は他人の物を借りる方が経済的だと云われる由縁です。

・土地を活用するということ
 同じ路線価でも形状や環境、用途が違うように全く同じ土地はありません。それぞれ土地には地の利があり、個性があるから機能性や使い勝手などの利用価値は千差万別。土地を貸すときは、住環境づくりをしつつ最も相応しい用途を見つけ、土地で貸すのか土地と建物で貸すのかを判断して最適な借り手をさがすことが大切です。

・真に借りたい人に借りていただく
 地主は、投資家に所有地を一定の賃料(保有コスト+利益)で貸す。投資家は、採算と利回りを試算して他人の土地上に建物を取得して運用する。テナントはその土地建物の機能を必要な期間だけ借りて商売をするといった取柄交換型が必要かもしれません。地主は建物への投資は不要で、管理費、解体費用などの支出が無いので安定収入が見込めるというものです。これからは、「この土地で商売をしたい」、「この土地に住みたい」という真の借り手に出会うことを心がけ、建ててから借り手を探す成り行き経営は避けたいものです。有利な運用が望めない場合は土地を譲渡するか優良物件へ買換えするのも選択肢のひとつです。

・土地の貸借と権利義務
 土地を他人に貸すということは、利用目的が何であるかを問わず、その土地の所有権の一部が使用収益権として借り手に移るのです。契約は使用貸借か賃貸借か、建物の所有を目的とした普通借地権か定期借地権か、資材置き場か駐車場としての賃借権かによって借り手に移る使用収益権の度合いが決まります。我が家の土地の保有コストを計算してから受け取るべき権利金等の額、地代の料率、これらを補う敷金や保証金の額を算定して交渉に臨みます。なお、無償で土地を貸借する使用貸借の場合は、借り手は地代を支払わない代わりに、固定資産税等その土地の維持費用を負担しますが、この権利を相続することはできません。

・農地を貸す場合の留意点
 農地に耕作権を設定したり農地を譲渡・贈与する場合は農地法にもとづく農業委員会の許可が必要です。農地を小作に出したい場合は、まず自ら借り手をさがして農地法3条による賃借権を設定するか、農地の集積事業としての利用権を設定します。借り手を特定できない農振農用地は、農地中間管理機構へ貸付希望の申出書を提出して、借り手をさがしてもらうことになります。農地法3条による賃借権を設定した場合、その農地の相続税の評価額は、通常の価額の70%(調整区域内の農地は50%)になります。つまり法定更新など借り手にも相応の権利が移ることから合意解約が義務付けられているわけです。なお、利用権を設定した農地の相続税評価額は、法定更新の適用が無いことからその農地の価額の95%相当額になりますが、借り手はこの賃借権の5%を相続財産に算入する必要はありません。

・農地中間管理機構による貸付
 農地中間管理機構による貸付は、借り手の希望が無ければ契約が成立しないだけに、借り手が現れるまでは自ら管理しなければなりません。この制度のもとでは、農地の固定資産税は所有者の負担、農業共済掛金や水利組合等の負担金は借り手の負担になります。貸し手に相続が発生した場合の農地の価額は、農地集積事業の利用権と同様です。なお、固定資産税の減免措置として、農地中間管理機構に15年以上の期間貸し付けた場合には5年間、10年以上15年未満の期間貸し付けた場合は3年間、それぞれ固定資産税が1/2に軽減されます。

・土地の貸付と権利金等の授受
 生産緑地を宅地に転用すると固定資産税は一気に宅地並み課税になりますが、宅地にするまで畑として利用しているうちは、負担軽減措置により5年目(1年目0.2、2年目0.4、3年目0.6、4年目0.8、5年目1.0)に宅地としての課税価格になりますから留意して下さい。
 建物若しくは構築物の所有を目的とする土地の賃貸借契約を結ぶときは、借地権相当の権利金か相当の地代(土地の価額の6%)を授受しなければなりません。ただし、法人との土地の賃貸借契約において、「契約が終了したときは土地を無償で返還する旨」の届出を税務署長へ提出しておくと、税務署長は授受された権利金等や地代の額に不足があっても認定課税をしないことになっています。これは、税務上の取扱であって法人にとってみると借地権ですから、これが一人歩きすることがありますので留意する必要があります。なお、定期借地権を設定した場合は法定更新がないので、安心して運用することができます。さて、土地の賃貸借契約において、土地の価額の10分の5を超える権利金等の授受があったときは、貸し手は土地を譲渡したものとみなされて譲渡税が課税されますから留意して下さい。
 3年以上の期間他人に土地を使用させることによって一時に受け取る権利金等の額(土地の価額の10分の5以下の場合)が、土地の使用料の年額の2倍以上であるときは、臨時所得として平均課税(五分五乗方式)による税額計算の特例を受けることができます。

相続が始まったら何をどうすべきか

2019-04-22 08:51:19 | 相続税
Q.質問
 先月末に父が高齢にて他界しました。相続のことは話として聞いていましたが、我が家で相続が発生すると何をどうしたらよいか全く見当がつきません。死亡届をはじめ、国民健康保険と国民年金の異動手続きを終えたところです。相続人(配偶者、長男、二男、長女の4人)としてこれから何をどうすべきでしょうか。なお、父は10年前に公正証書にて遺言書を作成していました。 それは、「全財産を長男に相続させる」としたものです。

A.回答
・相続は法律そのしくみと税
 相続法では、相続は人の死亡によって開始するとして失踪宣告や認定死亡とともに相続の原因を明かにしています。さらに、被相続人の財産に属した一切の権利義務は相続人がこれを承継するとして、相続人全員が一旦は財産と債務を承継することを義務付けているのです。つまり、無主物にならないためです。したがって、相続人になりたくない場合は相続が始まってから3ケ月以内に、家庭裁判所へ行って相続を放棄することができます。また、相続人が2人以上の場合は相続財産は共有になり、各相続人の持分は法定相続分ということになります。この共有を解くことを共有物分割ならぬ遺産分割というわけです。税法では遺産分割において、各相続人が法定相続分によらず余分に貰っても、何も取得しなくても各相続人に対して贈与税や譲渡税がかかることはなく、取得した財産に応じて相続税を課税することにしているのです。

・相続人の特定と財産目録の作成
 相続が始まったら、先ず戸籍を取って相続人を特定する必要があります。次に相続財産に関する資料を集めて財産目録を作成します。財産目録は相続開始時の財産と債務を記載したもので、各相続人の権利と義務を確定し、相続を放棄するか否かを判断するほか、相続税の総額を試算するための大切な資料です。被相続人は公正証書遺言を残していたようですから、遺言執行者は財産目録を作成して各相続人へ交付しなければなりません。

・遺言の執行か分割協議か
 遺言執行者が遺言を執行(遺言執行者が不動産や預貯金の名義書換えなどの手続を行うこと)すると、他の相続人から遺留分を請求される場合があります。受遺者は遺留分を何で返還するかの準備します。遺言が執行されるまでは、相続人の合意によって遺産分割の協議を進めることができます。遺言が執行されると相続人は遺贈によって相続財産を取得したことになりますから、相続税の特例を受けることができます。なお、自筆による遺言書は裁判所の検認を受けてから執行することになります。

・相続税は分割協議次第
 遺言書がない場合や遺産分割協議を優先する場合は、事業を承継すべき者と祭祀を主宰すべき者を決めて、各相続人にとって最もふさわしい財産を取得させるための原案を協議します。円満な話し合いが出来れば、相続税の負担が最も小さくなる節税への工夫も可能になります。ややもすると、相続は土地建物の登記や預貯金の名義書換が済めば終るものとして、いきなり遺言を執行したり、そのための協議書を作成して不動産の登記を優先しがちですが、名義を書き換えたり登記をしてからでは遺産分割の見直しも、有利不利を選択する余地もありません。不動産の相続登記は相続税の申告納税の見通しがついてから実行するようにして下さい。

・相続人を特定する
 90年余の被相続人の歴史を精算する相続ですから、必要な相続情報を集めることが大切です。まず、被相続人の出生から死亡するまでの戸籍を市町村役場へ請求して、相続人が誰と誰なのかを特定します。家族が認識していなかった相続人の存在が明かになることもありますが、法務局や金融機関などの第三者へ示すお墨付きでもあるのです。

・財産と債務を調べる
 つぎは、相続財産や債務を評価計算するための資料の収集です。被相続人が所有していた土地建物に係る固定資産税課税台帳の写しと評価証明書、土地建物の登記簿謄本、預貯金や有価証券の残高証明書、取引明細書、預貯金通帳、死亡共済金の支払明細書と共済契約に係る積立金の残高証明書。被相続人が財産を造成した経緯や借入金、貸付金の存在を知ることができる所得税の確定申告書、故人の手帳や日記帳、金銭出納帳、契約書類、減価償却費の計算明細書など。お葬式にかかった費用の請求明細書と領収書、支出メモ、香典帳などを用意して、財産と債務の残高を確定します。

・被相続人の所得税、相続税の申告納税
 各相続人は相続の開始を知った日の翌日から4ケ月以内に、被相続人の所得税(今年の1月1日から死亡した日までの分)の準確定申告をしなければなりません。相続人全員が連署した申告書の付表を添付して提出することができます。また、相続開始後から年末までの遺産に係る所得は受遺者や分割取得者のものですが、遺産が未分割の場合は各相続人が法定相続分で所得したものとして、その所得を申告することになりますから留意して下さい。相続税の申告が必要な場合(小規模宅地の評価の特例を適用する前の総財産から債務を控除した正味財産が相続税の基礎控除額を超える場合)は、相続の開始を知った日の翌日から10ケ月以内に相続税を申告して納税することになっていますから、早目の対応が必要です。

・専門家をさがす
 そうすると、相続人の調査、財産目録の作成、遺言か協議かの選択基準、準確定申告書の作成と申告納税、相続税の申告書の作成と納税計画等々、いずれの手続きも専門的な知識や技法が必要です。前述のように相続も税金も法律ですから、納税者が気付かないところに目が届く仕事を期待して専門家に依頼するのも得策かもしれません。相続の手順を心得て経営移譲や事業承継に詳しく、財産評価に長けた経験豊富な専門家の力を借りる必要があります。相続はパートナー次第と言われる由縁です。