税理士法人 税の西田 税金Q&A

日々の暮らしに役立つ税金の知識をQ&A形式で紹介します。

相続手続きは何から始めたらよいか

2020-04-20 13:41:20 | 相続税
Q.質問
 父の相続をどう進めていくべきかを知人に相談したところ、不動産を登記すれば預貯金の名義変更も簡単にできると教えられました。専門家の指示通り相続人の署名押印を受けて遺産分割協議書が完成しました。登記を終えたところで、相続税の申告のための財産目録を作成しているうちに、隣の町の農地や宅地、JA以外の預貯金と株式、共済契約などが発見されました。他の相続人へ改めて分割協議の申し入れをしましたが、やり方が悪いと同意を得られず困っています。裁判所での調停が想定される中、申告期限までに話し合いができない場合の相続税の申告はどうなりますか。全部の遺産について改めて分割協議をやり直すことができますか。遺産の分け方の基本は何でしょうか。

A.回答
・相続は財産目録の作成から
 相続手続きを始めるには、まず財産目録(財産と債務の内容を明らかにしたもの)を作って被相続人の遺産の全容を把握します。被相続人の財産に関する一切の権利義務は、相続人がいったんは承継しなければならないからです。財産より債務の方が大きい場合は、相続を放棄するかどうかの判断をしなければなりません。借地権や借家権、地上権・地役権、抵当権、仮登記など他人の権利がついている財産は、勝手に処分することはできません。借入金や未払金などの債務は約定に従って返済して、期限の利益を失わないようにしなければなりません。財産目録は被相続人が先代から承継し、生涯に積み上げた遺産そのものを表現しています。

・遺産分割とは
 被相続人の財産や債務は、相続人が一人であれば単独で相続しますが、相続人が数人の場合は相続人全員の共有物になります。共有は生活や仕事に支障をきたすだけでなく換金性や収益性も減殺され対外的な信用も失いかねないものです。そこで、共有財産の権利義務を各相続人に帰属させるための遺産分割(共有物分割)がどうしても必要なのです。

・遺産分割の基本
 遺産の分け方について、民法では「遺産の分割は、遺産の種類及び性質、相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする」として、安易な分割をいましめています。相続とは文字通り「相い続ける」ことですから、必要な人に必要な財産を相続させることが基本であり節税の原点でもあります。配偶者には生活を優先した財産を、家業に必要な事業用の資産は後継者に相続させるなど、各相続人への熟慮が必要です。確かに登記や名義書換が済むと相続は終わったかにみえますが、名義書換が目的になると「ちょっと待てよ!」ということになりかねない。被相続人の生活や家業を承継すべき者は、各相続人の権利と義務をふまえた我が家の相続計画を各相続人に丁寧に説明して納得を得ることが大切です。配偶者が全部相続すれば納税は不要になるから、とか次の相続がまた大変だから子が全てを相続する、などの発想は改めなければなりません。

・遺産分割で税負担も変わる
 被相続人と同居して生計を一にしてきた子が、その居宅や敷地を相続して引き続き住み続けると、居宅の敷地のうち330㎡までの部分(被相続人から家業を承継して引き続き事業を継続する相続人には事業用の建物の敷地のうち400㎡までの部分)は20%の評価額で相続税を計算することができます。また、夫の相続の際に配偶者が取得する財産が法定相続分(子と相続する場合は二分の一、夫の兄弟と相続する場合は四分の三、夫の親と相続する場合は三分の二)又は一億六千万円までは配偶者の税額軽減の特例によって相続税の納税額はありません。配偶者自身の相続(二次相続)では法定相続人が一人少なくなること、配偶者の固有の財産があることから夫の相続と妻の相続の税負担額が最も小さくなるように試算をして夫の相続での取得財産をきめることができます。また、借入金を相続する人は、承継する借入金以上の財産を相続しないと、財産から控除しきれない借入金は切り捨てになりますから留意して下さい。

・財産目録は専門家に頼む
 相続財産の大部分は不動産と預貯金ですから、固定資産税の名寄せ台帳と預貯金通帳を見れば誰でも目録を作成することができます。専門家はさらに故人の仕事や生活の経過をたどり、被相続人の生活を復元するかのように遺産をさがしていきます。例えば、固定資産税の納税の状況から、どこか(市町村)に土地建物があることを突き止め、賃貸料収入から他の金融機関の口座の存在を確認します。まとまった生前払い戻し金の使途をたどってみると一時払いの生命共済契約の掛金であったり、相続人への三年以内の贈与など、納税者から提示された資料から専門家として知り得べき財産はもれなく特定していきます。

・申告漏れは余計に税金を納めることに
 当初の遺産分割協議書をうのみにして相続税の申告書を提出した場合は、不足税額とこれをもとにした過少申告加算税と延滞税を納めなければなりません。場合によっては重加算税が課されることがありますから留意して下さい。

・遺産分割のやり直し
 遺産分割協議は相続人全員の合意によってやり直すことができます。申告期限内であれば修正申告や更正の請求の必要はありませんが、各相続人にいったん帰属した財産が自らの意志によって他の相続人へ再配分することですから、贈与税が課税されることがあります。さて、一部の財産が除外されていたからとして申告期限後に遺産分割をやり直した場合、贈与税を課されないかは疑問です。遺産分割に大きな瑕疵がないかぎり移動した財産は贈与によって取得したものとみなされるからです。なお、あとから発見された財産が申告期限までに分割されなかった場合は、各相続人が法定相続分によってこれを取得したものとして相続人全員が相続税を申告納税しなければなりません。後日、分割されたときは修正申告や更正の請求によってすでに納税した相続税額を精算することができます。この場合は加算税や延滞税はかかりません。

孫を養子にした場合の営農と相続の税はどう変わるのか

2020-02-19 09:40:44 | 相続税
Q.質問
 主穀と施設野菜農家として50年になります。長男は会社勤めのため孫夫婦が青色事業専従者として従事しています。近い将来、二人を私の養子にして農業経営を移譲するつもりです。養子縁組の有無によって農業経営に何か影響がありますか。贈与税や相続税の負担はどうなりますか。

A.回答
・経営移譲と税金
 祖父から孫へ作物の栽培技術を伝授し、経営を移譲するということは、家を守り家業を確かなものにするための必須要件です。経営権だけでなく農地や施設の権利の移転がともなうだけに、祖父と孫の間に贈与関係が生ずることがあります。もっとも使用貸借(ただで物を借りること)であれば祖父が支払う固定資産税・土地改良費・水利費などを負担するだけで済みますが、祖父の相続において農業用財産が孫のものになる保証はありません。

・祖父の相続で想定されること
 相続が始まると、祖父の財産は全て相続人の共有になりますから遺言があればその内容にしたがい、遺言がない場合には分割協議によって相続人のみが取得します。孫夫婦は当然には相続人になれないので、祖父の遺言か養子縁組によって相続人にならなければ、必要な財産を確保することができず農業を継続することは困難です。

・孫に遺言を書くと
 養子縁組をしないで「孫○○に農地と農業用の施設を遺贈する」と遺言した場合、相続人でない孫への農地の遺贈は特定遺贈とされ、この部分は無効になります。他の財産の遺贈を受けられたとしても、遺留分がないので相続人から侵害額の請求を受けて遺言の効果は半減してしまうのです。

・孫を養子にすると
 祖父と孫が養子縁組をすると、孫は祖父の嫡出子たる相続人になりますから農地の遺贈は有効です。縁組後は相続を待たずして農地の生前一括贈与を受け、贈与税の納税猶予の特例を受けることができます。現に耕作しているすべての農地の所有権や利用権、耕作権が孫のものになり、納付すべき贈与税は贈与者または受贈者が死亡するまで、猶予されるわけです。さらに、贈与を受けた年の1月1日における孫の年齢が20才以上、祖父が60才以上であれば、相続時精算課税制度(財産2500万円まで贈与税は無税で、これを超える部分に対して20%の贈与税が課税されるしくみ)によって農地や農業施設等の贈与を受けることができます。

・生前贈与した農地には相続税が
 贈与者が死亡した場合、生前一括贈与を受けた農地は贈与者の相続開始時の価額で、相続時精算課税制度によって贈与された農地は贈与時の価額を相続財産に加算して相続税を計算し、納付した贈与税額を精算(控除)します。農地の価額が贈与時より値上りが想定される場合は相続時精算課税制度が、値下りが見込まれる場合は生前一括贈与を選択した方が得策ということになります。なお、生前一括贈与を受け相続財産に加算された農地については、祖父の相続税の申告において、相続税の納税猶予の特例を受けることができます。

・養子縁組を解除した場合の贈与の特例
 贈与税の納税猶予の特例を受けた農地の受贈者が養子縁組の解除により贈与者の推定相続人にならなくなった場合は、贈与税の納税猶予の全部が打ち切られ、本来の贈与税額と利子税を合わせて納付することになります。なお、相続時精算課税の適用を受けた受贈者が養子縁組を解除して推定相続人でなくなった場合でも、祖父から贈与により取得した財産については、引き続き相続時精算課税を適用することになりますので留意して下さい。

・事業用資産の贈与税の納税猶予
 規模拡大に伴って、投資額が大きくなってきたので、使用貸借から固有財産へ経営基盤の拡充が求められることになりました。贈与税における農地の生前贈与とほぼ同じしくみで、農業用の宅地や建物、農業用機械を後継者へ生前贈与することが可能になりました。

・養子縁組とは
 養子は、養親と養子が縁組をする意思の合意によって成立します。普通養子は養親より年下であればよく、何人の養子になってもよく、養子の数にも制限はありません。養親は養子を相続し、養子は養親を相続することになります。15才未満の未成年を養子にする場合はその法定代理人の承諾が必要ですが、15才以上の未成年を養子にする場合は未成年の意思によります。

・養子縁組のメリット
 相続税の総額を計算する場合の、基礎控除額、法定相続分、死亡共済金・死亡退職金の非課税金額は養子が加わることによって増え相続税を軽減することできます。ただし、養子のお孫さんは2親等ですから本人の相続税額は2割加算になります。

生前の預貯金の払い戻しと名義預金の税

2019-12-20 09:33:32 | 相続税
Q.質問
 お医者さんから夫の病状を告げられたので、とりあえず夫の貯金口座から500万円を払戻しました。医療費などを支払い相続開始時の現金残高は300万円でした。その後、現金は全額葬式費用にあてました。金庫の中には普通貯金通帳のほか10年前に預け入れたと思われる子や孫たちの名義の定期貯金の証書と届出の印鑑がありました。普通貯金の口座から毎月30万円を払戻しているほか、3年前に600万円、8年前に700万円を払戻したこともわかりました。これらの取引の結果としての残高証明書をもとに相続税を計算して申告納税したいと考えています。相続税の申告前に見直すべきものがありますか。

A.回答
・相続預貯金の払戻し
 相続が始まると、各相続人は遺言書があるか遺産の分割協議が整うまでは単独で相続預貯金の払戻しができず不便でした。そこで相続法が改正され、遺産分割の調停や裁判が長引く場合、借入金の返済や税金の納付、生活費の必要があるときは、預入店舗ごとに相続人一人あたり最高150万円まで払戻しを請求することができるようになりました。

・預貯金が現金という相続財産に
 それでも、相続が近いことを知らされると、相続人らは被相続人の預貯金の払戻しを実行するものです。あとで預貯金を下ろせなくなるから、葬式費用を用意しておきたいから、預貯金の残高を小さくしておきたいから、などと動機はさまざまです。生前の払戻によって葬式費用を賄うことができるも、預貯金が減って現金が増えただけのことですから、急いで下ろす効果は少ないのです。

・生前払戻金は財産
 生前に払戻したまま相続を迎えた現金は、どこまでも相続財産ですから、お葬式費用や借入金等の支払にあてたとしても、これと相殺することはできません。相続財産から債務や葬式費用を二重に控除することになるからです。

・生活費としての預貯金の払戻し
 老夫婦世帯において月々払い戻す30万円は、生活費のための預貯金の取崩しですが、生計中心者でない被相続人の預貯金を払い戻して負担する必要以上の生活費は、生活扶養者等に対する贈与または貸付金とみなされ易いですから留意して下さい。定期的な払戻金がヘソクリとして家族名義の預貯金になっていないか、もう一度見直してみてください。

・数年前の払戻金の使途と税金
 生前における預貯金の払戻し金が相続財産を構成することがあります。被相続人が払戻した分だけ相続財産は少なくなっているわけですから、生活費として費消したものでも、払戻した資金の使途をよく確認して財産性を見極める必要があります。①金銭の生前贈与を受けた人は贈与税の申告納税のほか、3年以内の贈与に加算が必要になることがあります(相続時精算課税制度の適用を受けた場合は必ず加算します)ので留意して下さい。②家族の名義にした貯金は相続財産そのものです。③共済掛金の払込みに当てた場合は、解約返戻金相当額又は契約者への掛金相当額の貸付金が相続財産になり、契約者である被相続人の死亡に伴う共済金は非課税財産になります。④相続人の名義で農機具や自動車などを購入した場合は、購入額を相続人への貸付金とします。⑤被相続人の名義で購入した農機具や自動車はその未償却残高が相続財産になります。

・子や孫への名義預貯金
 10年前に子や孫たちの名義とした定期貯金は、被相続人が子や孫たちへ贈与しようとした財産と思われます。贈与の要件を満たすためには「あげます」「頂きます」の契約のもとに、受贈者が自ら管理し処分できるものでなければなりません。定期貯金の証書や届出の印鑑が金庫内に保管されているということは、まともに手渡すと使われてしまうのではと贈与者が管理してきた典型的な名義預貯金です。すでに6年の更正処分の期限を超えていますが、実在する預貯金ですから相続税の課税対象になります。

・大きな払戻しへの記録

 預貯金口座からの払戻しを請求すると、その事実が通帳に記載されますがそれだけでは後日の検証はできません。誰が請求したのか、使途は何か、誰に渡したのかなどを付記しておくことです。生前払戻しは、生前に相続人が目的もなく慌てて行う場合が多く、この期に多額の現金を抱え、争いの種になりかねない。被相続人が、かねてから「ああしたい」「こうしておきたい」などと考えてきたことを、意思能力があるうちに実現してあげるのも相続人の役割だと思います。

10月1日から消費税はどう変わるのですか②

2019-10-21 14:11:35 | 消費税
(つづき)
A.回答
・いつの取引から新税率が適用されるのか
 資産の譲渡等(譲渡・貸付・役務の提供)については目的物を引渡した時、役務の提供を完了した時に行われたものとします。令和元年9月30日までに行われた資産の譲渡等又は課税仕入れに係る消費税は旧税率8%が、令和元年10月1日以後に行われた課税取引には新税率である標準税率10%と軽減税率8%が適用されます。平成31年3月31日までに契約するなどして旧8%の経過措置を受ける飲食料品の譲渡については軽減税率を適用します。

・8%か10%かは、いつ誰が決めるのか
 軽減税率が適用される取引かどうかは、事業者が飲食料品を販売する時点で行います。事業者が飲食料品として販売したものは、顧客がそれ以外の目的で購入し、それ以外の目的で使用したとしても、その取引は飲食料品の譲渡に該当し軽減税率を適用することになります。つまり、販売する側の販売目的が何であるかによって税率が決まるということです。

・適用税率は販売目的によって決まる
 たとえば、食用として販売した「かぼちゃの種」、「トウモロコシ」、「生きた魚介類」などは軽減税率(8%)の対象になりますが、家畜の餌にしたトウモロコシ、 野菜の種、鑑賞用として販売された魚介類などは、食用ではないので標準税率(10%)が適用されるわけです。

・旧8%が適用される不動産の賃料
 平成25年10月1日から平成31年3月31日までの間に締結した建物賃貸借契約(住宅を除く)で、令和元年10月1日をまたいで賃貸される家賃の消費税率は、引き続き旧8%とする経過措置が設けられています。この特例が適用されるのは、貸付期間と期間中の家賃の定めがあり、家主が賃料の変更を求めない契約内容になっている場合に限られていますから留意して下さい。

・10月1日における前家賃、後家賃
 建物(住宅を除く)の賃貸借契約において翌月分の家賃を当月末までに支払うとした約定の、9月末に支払う10月分の家賃は10%の標準税率が適用され、当月分の家賃を翌月末までに支払う約定の、10月末に支払う9月分の家賃は旧8%の税率が適用されますから、契約書をよく確認しておきましょう。

・インボイス制度は課税事業者が前提
 4年後(令和5年10月1日)から始まる適格請求書等保存方式(インボイス制度)のもとで農産物を販売する場合は、買い手から適格請求書等(軽減税率対象金額と事業者登録番号が記載された領収書・請求書など)の発行を求められます。インボイスを発行するためには消費税の課税事業者でなければなりません。免税事業者は課税事業者を選択して事業者登録をしなければなりません。

・適格請求書等の発行が免除される取引
 農業者が生産物を農協の直売所へ出荷したり、卸売市場を通して販売する場合は適格請求書等を発行する義務が免除されます。卸売市場において出荷者から委託を受けた事業者が行う販売は、適格請求書等を交付することが困難な取引とされているからです。市場を通して生鮮食料品を購入した事業者は、卸売業者等が作成する一定の書類を保存することで仕入税額を控除することができます。農協の組合員と組合が農産物の無条件委託販売(売値や出荷先等の条件をつけずに販売を委託するもの)をし、かつ共同計算する場合は、適格請求書等を交付することが困難な取引とされ、組合員等から購入者に対する適格請求書等の交付義務が免除されます。

・食用の農産物を生産する農業者の簡易課税
 消費税の軽減税率が適用される食用の農産物を生産する農業は、令和元年10月1日から第2種事業(みなし仕入率は80%)になりました。簡易課税制度では売上に適用される税率8%をもとにして、10%の仕入税額の計算が行われることから、従来より不利になることへ配慮したものです。なお、食用以外の農業は従来どおりの第三種事業ですから留意して下さい。

・委託販売における課税売上高の計算
 農業者が委託販売によって資産を譲渡したときは、当該譲渡代金から販売手数料等を差引いた純額をもって売上高とする方式が認められていましたが、食用の農産物を販売する農業者については、複数税率が適用される令和元年10月1日の取引から総額方式(手数料等を差引かない)になりましたので留意して下さい。なお、花卉や畜産など食用以外の農産物を生産する農業者については、従来どおり純額方式によることができます。

・消費税は消費者が負担するもの
 消費税の標準税率が8%から10%になったことで、消費者は家計と将来設計を見直しています。冗費や衝動買いを避け、必要なものを買う、キャッシュレス決済でのポイント還元などを積極的に活用するなど、軽減税率の恩恵に欲しようと賢い選択が始まったのです。それだけに、事業者は値上げの印象を持たれないようにと税込定価を据え置くことに腐心しがちです。品物は値段を下げれば売れるというものではありません。消費者は消費税を負担してでも欲しいものは購入すると言っています。事業者は消費者の選択肢を広げる品ぞろいを厳選して、収支を償う必要があります。

・定価は自由裁量で決める
 50台の月極め駐車場で一ケ月一台5,000円(税込み)の賃料を据え置いた場合、本体価格は4,629円から4,545円へ、一台84円の値下げになり全体では年間50,400円の減収になります。これを5,000円(税別)とすると、月額5,400円から5,500円へ、一台100円の値上げでも手取りは5000円です。消費税率の引き上げ分を素直に定価に反映させると、5,092円(5,000円÷1.08×1.1)と92円の値上げになります。84円の値下げか、据え置きか、92円の値上げか。お客様が負担する消費税とはいえ、定価の付け方でお客様の負担感は揺れ動き、商品の選別が一層進むことになるでしょう。

10月1日から消費税はどう変わるのですか

2019-08-20 14:11:24 | 消費税
Q.質問
 消費税は10月から大きく変るそうですが、農業や不動産管理事業における消費税はどのように変わりますか。事業者は新しい消費税制にどう対応すべきですか。生活者として消費税の負担を軽減するためにどんな点に留意したらよいでしょうか。

A.回答
・消費税は10月1日から10%に
 消費税は今年の10月1日から10%に引き上げられます。これにともなって軽減税率が導入されることになりました。したがって、消費税額を計算する税率は旧3%、旧5%、旧8%、それに標準税率10%、軽減税率8%の5つの複数税率になります。平成31年3月31日までに契約をすると旧8%(消費税率6.3%、地方消費税1.7%)の税率を適用できる特例がありますが、軽減税率の8%(消費税率6.24%、地方消費税1.76%)と同率ではありません。地方消費税には軽減税率の制度がなく消費税の78分の22を適用した結果なのです。この改正はあらゆる事業者や消費者に影響がありますので、そのしくみに関心を持っていただきたいと思います。

・全ての取引を適用税率ごとに区分
 複数税率のもとでは、事業者は日常の取引を税率の異なるごとに区分して経理しないと消費税を正しく申告することができません。これまでも仕入税額控除を適用するためには帳簿と請求書等の保存が要件とされていましたが、令和元年10月1日からは区分経理に対応した帳簿と請求書等に軽減税率対象品目、税率ごとに区分した対価の額の合計額を記載し整理保存しなければなりません。
 なお、令和5年9月30日までの課税仕入れのうち、支払金額が3万円未満のものについては現行と同様に帳簿のみの保存で仕入税額控除を行うことができます。

・インボイス制度への移行
 消費税率が複数になったことから各事業者間の取引を経て消費税の納税額と控除額を正しく計算するために、令和5年10月1日からは適格請求書等保存方式(いわゆるインボイス制度)が導入されます。適格請求書(請求書や領収書に税率ごとの消費税額と適用税率、事業者の登録番号などを記載)を発行できる事業者は税務署長に登録した課税事業者に限られ、免税事業者は課税事業者を選択しないかぎり適格請求書等を発行することができません。つまり、登録番号のない請求書等は敬遠されることから、免税事業者であっても課税事業者を選択して納税義務者になることが予想されます。なお、免税事業者や消費者、適格請求書発行事業者以外の者から仕入れた場合であっても、令和5年10月1日から令和8年9月30日までの仕入については、仕入税額相当額の80%まで、その後令和11年9月30日までは50%相当額を控除できる経過措置が設けられています。

・税率の区分が困難な場合の特例
 基準期間の課税売上高が5千万円以下で、①簡易課税制度を選択していない中小事業者で仕入を税率ごとに管理できる卸・小売事業者については、卸小売に係る売上高に卸小売等の軽減仕入割合を乗じた金額を軽減税率対象の売上高として売上税額を計算する方法。② 通常の連続する10営業日における課税売上高に、売上に占める軽減売上高の割合を乗じた金額を軽減税率対象品目の売上とする方法 ③ ①②の割合の計算が困難な事業者は①②の割合を50%として売上税額を計算する方法があります。いずれも令和元年10月1日から令和5年9月30日までの期間について適用されます。

・軽減税率の対象になるもの
 軽減税率(8%)の対象品目は、酒類を除く飲食料品(外食を含まない)等の譲渡及び定期購読契約によって週2回以上発行し配達される新聞、それに輸入食料品です。軽減対象資産の譲渡に対しては、軽減税率としての消費税が課税されます。飲食料品を販売する際の容器や包装材料(例えば鮮魚等のトレイや包装紙など)は、その販売に付帯する通常必要なものとして飲食料品とされます。

・飲食料品と一体資産と一括資産
 食品と食品以外の資産をあらかじめ一体にしたもの(おもちゃ付の菓子など)については、その価額が10,800円以下でしかも食品の占める金額の割合が三分の二以上であれば、その全体を飲食料品として差し支えないとしています。お客様がお店で品物を選んでセット(一括資産)にしたものについては、食品と食品以外の商品に区分して8%と10%の税率をそれぞれ適用することになりますから留意して下さい。

・外食とは
 飲食店業等を営む者がテーブル、椅子、カウンターその他飲食に用いられる設備のある場所(レストラン、食堂、料理店など)において飲食料品を飲食させ役務を提供するのは、軽減税率の対象外(10%の標準税率)とされます。ただし、お客様が食事の注文をする際に持ち帰りの意思表示をして料理を持ち帰った場合は、軽減税率が適用されます。

・軽減税率が適用される身近な商品等の事例
 人の飲用または食用に供されるもの、特定保健用食品、医薬品等に該当しない栄養ドリンク、有料老人ホ-ム等で行う飲食料品の提供、宅配の食品、みりん風調味料、酒類を原料とした菓子、日本酒を醸造するための米、税抜売価10,000円のビールとジュースの詰め合わせ(ジュースが2/3以上)、産地名の入った霧箱入りのメロン、お土産用に注文した寿司の持ち帰り、列車の車内販売サービスの弁当販売、学校給食、ミネラルウォーター、果物狩りで収穫した果物を別途価額で販売、そば屋の出前、ピザの宅配など。(つづく)