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非弁行為の後始末

2016-02-27 22:20:54 | 業務妨害・弁護過誤・非弁
弁護士法
(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
第72条 弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。
(譲り受けた権利の実行を業とすることの禁止)
第73条 何人も、他人の権利を譲り受けて、訴訟、調停、和解その他の手段によつて、その権利の実行をすることを業とすることができない。
(非弁護士との提携等の罪)
第77条 次の各号のいずれかに該当する者は、2年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処する。
3 第72条の規定に違反した者
4 第73条の規定に違反した者

 

【例題】請求者Xと義務者Yの損害賠償事案。Xが非弁Hに事件処理を委任し、その結果としてXY間で示談契約が締結された。この場合の法律効果はどうなるか。

 

[対内関係;民法90条違反として無効]

・XH間の委任?契約は、「弁護士法72条に違反する事項を目的とする契約」として民法90条を根拠に無効となる。最一判昭和38・6・13民集17巻5号744頁は、上記の理由でHからXへの報酬請求を否定した。裁判所に非弁報酬を訴えたHには恐れ入る。というわけで非弁の皆さん、Xが報酬支払を拒んだときは取りっぱぐれますからご注意を。

・これと反対に、XがHへ支払済み着手金?の返還を求めることができるか。山崎敏彦「弁護士法72条に関する2判決」判タ846号65頁[1994]は、「とくに報酬請求権について、判例は、未履行の場合には非弁護士の請求を認めず、既履行の場合には相手方の不当利得請求権を認めている」と説く(71頁。ただし、挙げられるのはすべて下級審裁判例)。藤原正則『不当利得法』[2002]93頁も「弁護士法違反の契約に対して顧客が支払った報酬の返還請求は可能」と説く(※1)。

※1;これに対し、既述の「非弁を目的とする委任契約=民法90条違反」との理解と、「90条違反=原則として民法708条の不法な原因に該当」との通説的見解(たとえば、加藤雅信『新民法大系5事務管理・不当利得・不法行為第2版』[2005]97-98頁)を素朴に接続すれば、不法原因給付として返還請求が封じられることなろう。

追記(2016-6-27):最一判平成28・6・27が出た。認定司法書士と元依頼者の紛争。元依頼者が「権限外の債務整理だ」と主張して、司法書士に支払った報酬相当額の損害賠償請求を求めた事案。最高裁は「債務整理の対象となる個別債権価額が140万円以内」との基準を示し、権限外の債務整理について「裁判外の和解について代理することができないにもかかわらず,違法にこれを行って報酬を受領したものであるから,不法行為による損害賠償として上記報酬相当額の支払義務を負う」と判断した。 感想1;個別額説の採用は当然と思うが、立案担当者が受益額説を採っていた事実は知らなかった。感想2;不当利得構成でなく損害賠償構成となった理由はよくわからない。

 

[対外関係;民法90条違反となれば無効]

・XY間の示談契約の効果について。代理人弁護士であれば示談契約書にも代理人名で記名押印する(だいたい)。他方で、非弁Hが自らの名を示談契約書に残すことは考え難い。そうすると、示談契約自体はあくまで本人間(XY)のものだ、と強弁できるかもしれない。この示談の有効性をどうみるか。

・大津地判平成20・12・5判タ1296号241頁(単独)は、非弁関与による示談契約の有効性を判断した稀有なケース。交通事故の被害者Xが加害者Y(と任意共済組合)との間で示談をしたが、示談締結に至るまでの交渉にはXが依頼した非弁Hが関与していた。裁判では、非弁Hを使ったX自身から「示談契約の無効」が主張された。裁判所は示談締結までの経緯を踏まえ、(1)「HがY側との間で行った交渉」と「XがYに対する示談契約締結の意思表示」との間に因果関係はない、(2)具体的事情から「Hの助言にしたがうか否か等はXの自己責任」「Y側の提示した賠償金額は妥当」「Y側の交渉活動に社会的倫理に反する事情なし」ゆえに当該示談契約が民法90条に反するとはいえない、と判示した。

・この判タ匿名解説にあるとおり、示談の有効性判断は個別事情毎に決するほかないだろう(※2)。ケースバイケースということになれば、非弁を使ったXにとって、苦労して示談を獲得しても、後日に否認されるリスクにさらされる。

※2;これに対し、『条解弁護士法第4版』[2009]631頁は「原則無効。例外として、示談の相手方Yの信頼保護のためXからの無効主張を禁止」との見解。この見解でも、大津地判の事例ならば結論は変わらない。ただ、Y側から無効主張が常に認められる、と割り切れるかは疑問。

追記(2017-07-25):最一判平成29・7・24が出た。認定司法書士が依頼者代理人として140万円超の過払金を回収した事案であり、「対内関係は無効、対外関係は特段の事情ない限り有効」と結論した。一読したが無権代理論との関係がよくわからない。評釈を待ちたい。

 

[刑事罰等]

・非弁行為をしたHには刑事罰が課せられる。さらにHが士業の場合、監督官庁や所属会から処分を受ける可能性がある。

・Hへ委任したXにも弁護士法違反の罪(教唆or幇助)が成立しないか。この論点につき最三判昭和43・12・24刑集22巻13号1625頁は、弁護士法がXを処罰する規定を置いていない点に着目して「ある犯罪が成立するについて当然予想され、むしろそのために欠くことができない関与行為について、これを処罰する規定がない以上、これを、関与を受けた側の可罰的な行為の教唆もしくは幇助として処罰することは、原則として、法の意図しないところと解すべきである」と述べた。

・もっとも、Hが交渉をおこなう際に恐喝・強要・監禁といった違法行為に及んでいれば、委任をしたXもその共犯となりうる。非弁という性格上、Hとしては法廷外で交渉をまとめるほかない(※3)。その焦りからHの言動が不穏当になりやすいとは言えよう。

※3;なお、形式的には本人が地裁に過払金訴訟を提起した事案において、その訴えの提起が「司法書士に対して訴訟行為を策定する事務を包括的に依頼する委任」に基づき司法書士が策定した訴訟行為であるとして当該訴えを却下した事案として、富山地判平成25・9・10判時2206号111頁。

 

[善良な市民の皆様へ]

・非弁を使うことは次の危険を伴う。くれぐれもご利用なきよう。

[1]いったん示談に至っても、後日に無効とされる(少なくとも有効性の争いに巻き込まれる)ことがある。

[2]恐喝等の共犯とされることがある。

[3]相手方が弁護士を立てた時点で非弁は撤退する。それまでに非弁へ払った費用は返ってこない(かも)。

・相手方に非弁護士関係者(士業含む)が登場した場合は、すぐに弁護士へ相談してください。

 

追記:非弁の要件論については、「非弁問題の現状と対策」東京弁護士会LIBRA2014年12月号などを参照。


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