冬桃ブログ

ふんだりけったり

 6日は横浜に戻る日。
 しかし前日から雪が降り続き、長野県一帯に
大雪警報が出ていた。

 
 それでも当日は雪も止み、飯田線は北の方が
一部運休になっているものの、予定の特急に
ちゃんと乗ることができた。

 車窓から見えるのは天竜川。

 
 ほどなく「6分の遅れが出ています」という車内アナウンスが。
 豊橋で飯田線から目的の新幹線に乗り換える、というルートは
前回の帰路で体験済み。
 急げば5分で乗り換え可能なことがわかっている。
 間の時間は20分。ならば6分くらいの遅れが出たって
なんの問題もないでしょ、と普通の人は思うだろう。
 しかし私の凄まじい方向音痴、判断力の欠如、反射神経の鈍さは
生まれつき+加齢で、加速の一途を辿っている。

 朝から運行状況を丹念に調べ、最寄り駅へ送ってくれた
老ドラゴンに、車内からラインを送った。
 すぐにアドバイスが返ってきた。
 「〇〇駅に着く時間はこれこれだから、その時点での
遅れによっては、車掌さんに遅延証明をもらいなさい。
 そしたら新幹線の切符も振り替えてもらえるから」
 
 まあ、この歳になって、こういうことを教えてもらわないと
何もできないなんて、世間の人は信じてくれないだろう。
 でも私の「旅」は公私の別なく、いつも「人頼み」だった。
 誰かにセッティングしてもらい、誰かの後をついて回る。
 その「誰か」がいない場合は宿から一歩も出ない。
 部屋でテレビを観て、時間が過ぎ去っていくのを待つ。

 結局、8分の遅れで列車は豊橋に着いた。
 ドアが開くや否やダッシュし、エスカレーターも
エレベーターももどかしいので、重いキャリーを必死で
持ち上げ、階段をよたよたと駆け上がった。
 間に合うはずだった。あと10分もあるのだから。
 が、事件は飯田線の改札を出る際に起きた。

 横浜市内までの乗車券と飯田線の特急券を入れたのだが
二枚とも出てこない! ここで私のささやかな理性は崩壊した。
 駅員を呼んで事態の収拾にあたっている間に
新幹線には間に合わなくなる。万事休す!

 が、三秒後、少々の異音と共にチケットは二枚とも戻ってきた。
 それをよ~く見直し、おそるおそるもう一度入れると、
乗車券だけが出てきた。
 ほっとしてもぎ取り、猛ダッシュ……したはいいが、
途中で反対方向に走っていることに気づいた。
 あわてて引き返す。今度は無事、新幹線の改札を通る。
 ああ、まだ目的の「ひかり」が来るまで5分もある。
 良かった……と、そこでいったん気が緩んだ。
 そして、日々、あわてず騒がず生きてる人の風体で、
ゆっくりと新幹線のホームに降りた。

 ホームは人がまばらで、森閑としていた。
 向こうのホームに目をやると、なぜか旅客で賑わっている。
 それでも私は泰然自若で発着の表示を見上げる。
 行く先は「新大阪」。
 はぁ、私が降りる新横浜も「新」がついてるもんね。
 などとぼんやり見上げ続けるうちに、得体のしれない
不安が込み上げてきた。
 もしかして……もしかするとだけど、新横浜って
東京方面ってことはないのか?
 
 またもや階段をキャリーと共に猛ダッシュして
向こうのホームに。
 なんとかたどりついた時点で、ホームには新幹線が
一本、入っていた。
 私はそっちより発着の表示のほうに目をやってしまった。
 二本表示されている。一本目が「こだま」二本目が「ひかり」。
 ということはいま停まってるのは「こだま」だ。
 ほっとして、なにごともなかったような顔で、「ひかり」の
指定席があるほうへゆっくりと歩いた。
 「こだま」が出ていき、ホームは急に閑散となった。
 そして……。

 次にすぐ来るはずの「ひかり」がいっこうに来ない。
 そこへ駅員が通りかかった。
「あのう、すみません、さっき出て行った列車は……」
 「ひかり、です」
 絶句した後、恥を忍んで、「こだま」だと思ったので
乗り損ねたのですが……と告げた。
 「五回もアナウンスしましたよ。しょうがないですね」
 さっさと行ってしまおうとする駅員。
 「ど、どうしたらいいんでしょう。このチケットは
使えないんでしょうか。指定席を買ったのですが」
 と追いすがる私。
 「五回もアナウンスしたのに!」
 なんとも横柄な口調で繰り返す駅員。
 一応、チケットを見せると「本来は無効なんですよ、
そちらが間違えたんだから。でも今日中だったら
なんとか目こぼししてもらえるでしょう。次の
こだまに乗っていけばいいんじゃないですか」
 これ以上、認知症気味の婆さんになんか付き合っていられない、
と言いたげに、駅員は速足で去っていった。

 寒いホームにしばし佇んだ後、いろいろ面倒をみてくれて
無事、飯田線に乗せてくれた老ドラゴンに電話し、結局、
間に合うはずの「ひかり」に乗れなかったことを伝える。
 「仕方ないね」という彼の声は「呆れた」と「うんざり」
以外のなにものでもなかった。

 誰からも見捨てられた淋しさ、情けなさで10分くらい
ホームの寒風にさらされた後、やってきた「こだま」の
自由席に乗る。
 大家さんファミリーの章子さんが、「旅のお供に」と
持たせてくれたさまざまなお菓子だけが慰めだった。
 坐ってすぐに食べ始め、一緒にいれてくれていたR1と、
ホームで買ったミルクココアも飲み干し、袋を空っぽにして
新横浜に着き、あと二回乗り換えてようやく自宅に。

 でも、長い一日はこれで終わらなかった。

 風呂に湯をはり、ほっとして、まず顔を洗う。
 メイク落としを手に垂らし、頬を撫ぜた。
 泡が出る。どんどん出る。顔中、泡だらけ。
 そこでようやく、メイク落としって、こんなに
泡立つものだっけ? という懸念が。
 泡の間から、そうっと細目でボトルを見る。

 それはシャンプーだった。
 

 
 
 
 

 

コメント一覧

yokohamaneko
酔華さん

あれ以上続いたら、いまごろどこかで
ぶっ倒れているでしょう。
 しかしこんなことを繰り返してきた
人生ではありました。
 いま生きてるのが不思議です。
酔華
やっちゃいましたねぇ~
最後はまだ続くのかと思いました。
湯船の栓をしていなかったとか…
まぁ、無事に帰れたから良かったのかな。
yokohamaneko
美保さん

 出会ったその日から、私のドジはよく
ご存じでしょうが、長じて改善されるどころか
ますます盛んに……。
 まだ生きてること自体、奇跡だと思うのです。
丸山美保
一緒に駅のホームを走っている気分。
大変な一日でしたねぇ。
yokohamaneko
小野田さん

 とどめを刺されました。
小野田美紗子
最後の一行で爆笑です!!
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