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歌舞伎見物のお供

歌舞伎、文楽の諸作品の解説です。これ読んで見に行けば、どなたでも混乱なく見られる、はず、です。

「奴道成寺」 やっこ どうじょうじ

2012年12月15日 | 歌舞伎
京鹿子娘道成寺(きょうがのこ むすめどうじょうじ)」のバリエーション作品のひとつです。

「京鹿子娘道成寺」は、有名な安珍(あんちん)と清姫(きよひめ)の道成寺伝説を下敷きにした踊りです。

といいつつ、もとネタ知らないひともいそうなのでざっくり書くと、
三河の地方豪族の娘であった清姫が、旅の修行僧の安珍に恋をします。
仏門に入った身なので安珍は清姫の相手はできません。
すぐに気が変わるだろうと思い、旅の途中なので、帰りにお心に沿いましょうとその場しのぎの嘘を言って逃げます。
旅から戻る途中の安珍は、清姫の心が変わっていないのに気づいて逃げます。
道成寺に逃げて、お寺の鐘の中に隠してもらいます。
清姫は執着心からヘビになり、鐘に巻き付いて安珍を焼き殺します。

以上基本説明です。

「道成寺」の舞台は、時は移ってそんな事件も昔話になった時代です。

お寺でその鐘の追善供養が行われるところから舞台がはじまります。

本家の「道成寺」では、ここに美しい女性が来るのですが、この「奴道成寺」では男が来ます。
狂言師の「左近(さこん)」というひとが道成寺の鐘供養をさせてくれと言ってやって来るのです。
ここでいう「狂言師」というのは、「能楽師」に近く、踊りをおどる人という程度の理解でいいと思います。
お寺の所化(しょけ、まだ修行中の僧侶)たちが「踊ってくれ」と頼むので、左近は踊り始めます。

しかし、みんなが男だと思って見ていたいた左近はじつは女で、
鐘に執着する白拍子の花子が化けた姿だったのです。
白拍子の花子は、清姫の生まれかわりの蛇の精なのです。

というわけで途中からふつうの「道成寺」になります。
男踊りと女踊りと両方見られてお得な演目でもあります。

三番叟」などもそうですが、こういう頻出演目は何度も出しますから、お客さんを飽きさせないためにあれこれバリエーションを作るのです。
いかに「道成寺」らしさを残しつつ、新奇な趣向を取り入れるかに工夫をこらしたのだと思います。

昔は左近が女になったところで、本来「道成寺」をやるはずの女形(おんながた)の役者さんが出てきて「今回は替わりに踊ってもらうことにした」というような楽しい口上を言い、
そのあと道成寺から、お面をかぶり替えながら踊る「三ツ面(みつおもて)」の趣向になり、
最後に鐘の中に入ります。
ここでふつうの道成寺なら蛇の精になって出てきますが、
「奴道成寺」では青い隈取りの怖い悪役、いわゆる「青公家(あおくげ)」になって出てきて暴れ、花道にかかったところで「押し戻し」になるという
かなり雰囲気の違う展開になることもありました。

もともとは、所作(しょさ、踊りね)ものは女形(おんながた)が演るきまりだったものを、立役の役者さんもなさるようになったものですから、過渡期にはこのような趣向があったのだと思います。
今は立役、女形「兼ねる」役者さんもおり、立役から踊りが出ることもめずらしくないので、
ここまでの不自然な改変はしなくなったのでしょう。
というか今こんなの出したら、意味不明で客はパニックになりそうです。

昔は他にも、「道成寺」の途中で衣装を引き抜いて全然違う踊りに移ったりとか、いろいろと変わったことをしたようです。

=「京鹿子娘道成寺」=
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