歌舞伎見物のお供

歌舞伎、文楽の諸作品の解説です。これ読んで見に行けば、どなたでも混乱なく見られる、はず、です。

「盲長屋梅加賀鳶」 めくらながや うめが かがとび

2011年06月04日 | 歌舞伎
お江戸の「大名火消し」 のお話です。
江戸の町々の消火は、いろは四十八組の「町火消し」 が請け負ってました。これは有名な話です。

しかし江戸の面積の数十パーセントは武家屋敷でした。ここでの火事は「町火消」の管轄ではありません。
ここの火事は旗本が作る「定火消し(じょうびけし)」 が請け負いました。
そして、大きいお大名は「マイ火消し組」を持ってました。これが「大名火消し」 です。
江戸には三種類の「火消し」がいたのです。
そして、「定火消し」と「大名火消し」はとても仲が悪かったのです。

加賀藩百万石の、今まるまる東京大学になっている広大な上屋敷。
ここのお抱えの大名火消しである「加賀鳶(かがとび)」 が題材のお芝居です。
明治18年初演です。
消えていく江戸の名残を惜しむ東京の客に、作者の河竹黙阿弥(かわたけ もくあみ)が見せてくれた、
上質の幻のような江戸風物詩です。

出てくる江戸の風俗が、「加賀鳶」「盲長屋」など、典型的な江戸の雰囲気を伝えているのですが、今は少し伝わりにくい題材です。
解説しながら書いていったので少し長いです。


現行上演、まず本郷通の「勢ぞろい」という場から出ます。
ただ、この場面は、お芝居の中の今は出ない部分にしか関係のない場面なので、ストーリー上は出す意味はありません。
見栄えがいいから出すだけです。ここを出さないと「加賀鳶」のお芝居である理由がなくなりますし。

今出ない部分の内容で何が起きたかというと、
お芝居全体を通してお話の中心になるのは加賀鳶の頭(かしら)である「梅吉(うめきち)」という男なのですが、
この「梅吉」の子分に「巳之助(みのすけ)」という若いもんがいます。
この「巳之助」が、上野の天満宮の境内で、梅吉(うめきち)の奥さんが絡まれているのを助けて、相手ふたりを叩きのめしたのです。
このときの相手が、「定火消し」の下っ端でした。
セリフで「同役火消し(どうやくひけし)」と言っているのがそれです。
なのでやられた定火消しのほうが怒って加賀鳶とケンカをしようと言い出し、
加賀鳶も話を聞いて受けて立つことにして、湯島の切通しから本郷通りまで押し出して来ます。

ここから今のお芝居は始まります。

こんな大喧嘩は治安上困りますから、町の役人は加賀鳶が通れないように町の大木戸を閉めてしまいました。
たぶん開ける開けないでモメた末に、ムリクリ通られてしまうのでしょうが、とりあえず木戸は閉まっています。
そこに加賀鳶のメンツが寄せて来ます。

通れないのと、今、ケンカの場所を決めに鳶頭の「梅吉(うめきち)」が先方に単身乗り込んで行っているので(かっこいい)、それを待つことにします。
加賀鳶には「頭(かしら)」格がふたりいます。「梅吉」と、もうひとり、「松蔵(まつぞう)」です。
この「松蔵(まつぞう)」に言われて、景気付けに加賀鳶のメンツがずらりと並び、順番に「名乗り」を上げます。
作者の黙阿弥が得意な、華やかな「ツラネ」のセリフですが、
今は聞き取れないと思うので、同じようなことを順番にみんなが言うのがタイクツかもしれません。
昔はこここそ聞き所だったのです。がんばって楽しんでください。

ところで、ここの「名乗り」のセリフですが、例えば「白浪五人男」の「名乗り」などに比べても、
かなり、「役の紹介」よりも「役者さんの紹介」に比重を置いたセリフです。
なので、現代も少しずつセリフを変えながら、そのときどきの役者さんの自己紹介的な内容を盛り込んだ「名乗り」になっています。
という点も、気をつけて聞くと、他のお芝居の「名乗り」よりもまた楽しいかもしれません。

盛り上がっているところに梅吉が戻ってきます。
喧嘩の場所を決める話し合いをしていたのだが、町火消しの頭たちや、いろいろえらい関係者が出てきて仲裁に入った。
とにかく一度引いてくれ、夕方まで待ってくれという話になった。俺も了承した。なのでみんな一度引いてくれ、
と言います。

ナットクできない他のメンバー。せっかくやる気満々でここまで押して来たのに、帰るなんてかっこ悪くてできないのです。
それ聞いた梅吉は、じゃあ俺を殺して行け、と言います。
俺のいう事が聞けねえのは、俺が頭として力不足なんだから仕方ない。なら俺を殺してから行け、みたいなかんじです。
松蔵もそれを聞いて、俺も殺せ、と、二人でその場に座り込みます。

さすがにこれには勝てません。あきらめて引く一同。
みんなで戻っていきます。
この幕終わりです。
現行上演、今後の展開に何の関係もありません。

具体的なやりとりは上記のようなかんじですが、
まあ、あまり細かいことは気にせずに、加賀鳶の華やかで勇ましい様子を雰囲気で楽しめばいいと思います。

「梅吉」と「松蔵」ですが、主役っぽいのがふたり並んでいるわけですが、どっちも主役と思って見て差し支えありません。
松蔵のほうが落ち着いていて兄貴分です。一応ストーリーの中心にいるのは梅吉です。
なので梅吉がいればぶっちゃけ話は回るのですが、
お芝居のもう半分のパート(今出る部分)の主役が、「道玄」という悪人で、この「道玄」を加賀鳶の親方がかっこよくやり込める場面が見せ場のひとつです。
なのですが、この「梅吉」と「道玄」は、同じ役者さんがやることになっているのです。
なので、「道玄」をやりこめる役の、しかも主役級の役者さんがどうしてももうひとり必要なのです。
それが「松蔵」なのです。
同じ服を着た主役っぽいのがふたりいると混乱しますが、そういう事情です。

というわけで、ケンカの原因の張本人なのは巳之助(みのすけ)という若いもんです。
巳之助は、いい男だし性格もいいのですが、なにぶん若いので世間がわからず、どこか甘いです。
ヨケイな借金をこしらえて頭の梅吉にメイワクをかけたり、考えなしの行動をして、梅吉の奥さんとの仲を疑われて追い出されてしまったりします。
もう少しオトナになれば落ち着くんでしょうが。
これらのゴタゴタに苦慮する梅吉と、奥さんのおすがさんの物語が、もともとのお芝居の半分を占ている部分ですが、今は完全にカットです。

巳之助は、その行動だけ見るとただの「世間しらずで軽薄な若者」になってしまうのを、
役者さんがその華やかさと人間的魅力で持たせてしまうような役です。
初演のときの巳之助は、後の十五代目市村羽左衛門(いちむら うざえもん)です。当時たぶん21くらい。
明治初期のあの時代にして180センチくらいあった8頭身の色男。ありえないイケメンです。
しかも、江戸時代は江戸三座のひとつを持っていた市村家の御曹司です。芸はたしかです。
彼については数々の華やかな逸話が残っています。
「巳之助」は彼のために書かれた役です。今はこの部分は出ないのはしかたがないことかもしれません。


さて、現行上演のメインの筋に入ります。

まず、夜の御茶ノ水の坂です。
これが中央線の横、アテネフランセがある今の御茶ノ水坂かどうかはちょっとあやしいです。当時の地図には乗っていません。

青梅のお百姓の「太次右衛門(たじえもん)」さんは、仕事の用事で青梅から一日かけてここまでやってきたのですが、
お芝居のタイトルどおり梅の季節です。春先で日が短いので真っ暗になってしまって困っています。
しかもお年なので、腰が痛み出します。

道端で休んでいると、按摩さんが通りかかります。按摩さんなので目が見えません。
ここで、太次右衛門さんに気付いた按摩が、よけようとして一瞬考えて、やはりまっすぐ進んで突き当たる動きがあります。
見えているのです。
これが、「道玄(どうげん)」という男です。お芝居のもう一方の主役です。
前に出た、きっぷのいい鳶頭の「梅吉(うめきち)」と、同じ役者さんが2役早替りでやるのが普通です。

腰が痛いという太次右衛門さんに按摩をしてあげた道玄ですが、太次右衛門さんが持っている金に気付きます。
商用で来たのでまとまったお金を持っているのです。
青梅ですから、お百姓さんといっても、絹糸や青梅縞という織物を作っていたと思います。その取引に来たのかもしれません。

ここで道玄が「金(かね)を持っているね」と言い、
太次右衛門が「これは銭(ぜに)でございます」というやりとりがあります。
当時は「カネ」と「ゼニ」は同じ意味ではないのです。
「金(かね)」は、金や銀でできた高額通貨をいい、「銭(ゼニ)」は細かい買い物に使う「一文銭」を指しました。
ずっしり重くても、ゼニならたいした額ではありません。一文10円くらいです。
細かいことですが「え?」となりがちな部分なので書いておきます。
※参考:=江戸時代の貨幣価値=

いいヒトのふりをして道案内をする道玄ですが、
油断させておいて太次右衛門を殴って金を奪い、追いすがる太次右衛門を斬り殺します。

知らんぷりしてその場を離れようとする道玄。
そこに通りかかったひとりの男が道玄に気付き、さらに道玄が落とした煙草入れを拾います。
さっき「勢ぞろい」に出てきた、鳶頭の「松蔵」です。

この場面はこれで終わりです。


「盲長屋(めくらながや)」の場になります。

江戸時代に「盲長屋」と呼ばれる場所は実在しました。
ただこれは加賀前田藩の上屋敷のそばにあった長屋のことでした。今の本郷通り沿い、東大の向かい側のあたりです。
普通の家は表通りに面して当然窓がありますが、この長屋は加賀様の行列がのぞけないように、通り沿いには窓がなかったらしいです。
だから「盲長屋」です。
チナミに「長屋」というのは、一戸建てではないメゾネット風の物件の総称です。ランクはピンキリです。
よく落語に出てくるような貧乏な「裏長屋」ばかりではなく、表通り沿いにあるりっぱな「長屋」もけっこうありました。

このお芝居の「盲長屋」は、この道元をはじめとして目の見えないひとたちがたくさん住んでいる、貧乏な「裏長屋」として描かれます。

住人の夫婦がケンカをしています。
奥さんの按摩さんが「泊まり」の仕事で世通しあんまをして「二朱(7500円くらい)もらってきたのを、
亭主のほうが「何かエッチなサービスでもしたんだろう」と怒り出してケンカになったのです。
ここの、
「夜遅くまであんまをするとエッチなことだと疑われる」
「二朱はあんまにみせかけてエッチするときの相場の値段」
この2つが、この後の展開に上手く使われて行きます。
面白おかしく長屋の様子を見せているだけにみせかけて、さりげなく後半に生かすという、黙阿弥らしいテクニックだと思います。

道玄の奥さんのおせつさんは、目は見えないのですが腕のいい按摩さんです。
以前はお得意さんも多く、お弟子さんを家に置いたりしてけっこういい暮らしをしていたのですが、
一人身は心細いので、勧められて道玄と結婚しました。
そしたら道玄は典型的なDV男で、おせつさんのお金を全部使ってしまい、着物も売ってしまいました。
ちゃんとした着物がないので仕事にも行けないおせつさん、道玄に苛められて泣いて暮らしています。ひどい!!

道玄が長屋に帰ってきます。
近くの居酒屋で一杯飲んだ「つけ」を払うために店の若いものも連れて来ています。
お金がないというおせつさんの、大事な最後の羽織を、質屋に入れるために持って行ってしまいます。
ひどい!!

このように、今だとニュースになりそうな凄惨な家庭内の場面なのですが、しかも奥さん目が見えないし!!
なんとなく、このお芝居は雰囲気が明るいです。
すごくリアルな生活感なのですが、全てが絵空事というかんじです。
書かれたのが明治18年。江戸風俗は、すでに作者の中でも客の中でも現実感のない、失われた理想郷のような部分があったのだと思います。

かわいい女の子がやってきます、14歳。「おあさ」ちゃんと言います。おせつさんの姪です。
青梅で育ったのですが、この春先に父親が本郷のあたりで殺されました。
身寄りがないのでおせつさんがめんどうを見ています。
…って!! そうです。前の幕で道玄が殺したあのお百姓さんの娘です。もちろんおせつさんもおあさちゃんも何も知りません。
今は本郷にある、「伊勢屋(いせや)」という質店で住み込みで下働きをしています。働きものでかわいがられています。
道玄はこの子をそのうち遊郭に売ろうとたくらんでいます。おせつさんは心配でしかたありません。

おあさちゃんは毎晩お店(おたな)ご主人の興右衛門の肩もみをします。
そのときおばさんの窮状を話したら、同情して五両くださったので、
おばさんに渡しに来たのです。
一瞬信じられずに「盗んだのだろう」と怒るおせつさんに一生懸命に訳を話すおあさちゃん。
これを、道玄が戸口で聞いています。

この場面で道玄をしっかり見せるために、歌舞伎ではふつう横向きに作られる家への入り口が、このお芝居では正面客席に向けて作られています。
ふてぶてしく悪巧みをする道玄の全身がよく見えます。

中に入った道玄は、伊勢屋さんに行って詳しいことを聞いて来いと言い、まずおせつさんを追い出します。
道玄の愛人のお兼(おかね)さんも入ってきます。
一緒になっておあさちゃんを責めて、「伊勢屋の主人と寝た」と言わせようとします。
ここでさきほどの「夜の長時間のあんま」「大金をもらう」=「エッチ」という図式が生きてきます。
でも寝てないし!!
結局ムリクリ「言った」ことにしたふたり、おあさちゃんは遊郭へのあっせんをするばあさんにあずけて、ふたりで伊勢屋をゆすりに出かけます。

最後のほうで「おあさが書いたように見せて手紙を書け」「私は書けない」「じゃあ近くに代筆屋がいるからそいつを使おう」
というやりとりがあります。
これは、もういっぽうの、梅吉とその奥さんとの筋には重要な部分なのです。
「奥さんと巳之助はアヤシイ」という怪文書が事の発端になっていて、それを書いたのが同じ代書屋だからです。
今はそこが出ないので、ちょっと意味がわかりにくい部分になっています。


「伊勢屋の場」
突然ですが、「桂川連理柵(かつらがわ れんりのしがらみ)」というお芝居の説明をします。
知らなくてもストーリーは理解できますが、これは当時の客は全員知っていた有名なお芝居で、
この内容を前提にこの場面のセリフは書かれていますから、だいたい知っておいたほうがいいと思います。

京都の帯屋という店の主人の「長右衛門(ちょうえもん)」は、伊勢まいりの帰りに隣の信濃屋の娘の「お半(おはん)」ちゃんに偶然会い、
いろいろあって、つい、道中の宿でエッチしてしまいます。お半ちゃん14歳。
長右衛門は奥さんもいましたが、そのうちお半ちゃんの妊娠がわかります。
死のうとするお半ちゃんと一緒に死ぬ決心をした長右衛門、二人で桂川で心中します。
もう少し詳しくは=こんな=です。

じゃあ「伊勢屋」見世先です。
店の名前が「伊勢屋」なのも、「桂川」のお芝居の伊勢参りのシーンに引っ掛けてあります。

お店の番頭さんや小僧さんが忙しく働く中に、道玄がやってきます。
姪のおあさちゃんの事で話があると言って店の主人の與兵衛を呼び出し、俺にも百両くれとイキナリ言います。
ここで、「とんだお半長右衛門だ」とか「店の名前が伊勢屋とは」とか、
「桂川」のお芝居を引き合いに出して、あてこすりを言うのです。

身に覚えがないので相手にしない主人の與兵衛ですが、
さらに道玄の愛人のお兼さんもやってきて、「おあさちゃんの書置きだ」と言って「旦那とエッチしたけど恥ずかしいから逃げます」みたいな手紙を見せます。
ここで、おあさちゃんのニセの証言をお兼さんが話すのですが、細部描写がリアルで説得力ありすぎです。悪人怖い。
ここでお兼さんが「二朱より安い按摩はしないよ」と、ただの按摩じゃないんだからナメるな、みたいなセリフを言います。
ちょっと色っぽい、味のある場面です。

たまりかねた番頭が、じゃあ50両出すからもう帰ってくれと頼みます。

このへんで、店の者がこっそり使いをやっいて、加賀鳶の松蔵が戸口にやってきています。
入ってきた松蔵が事態回収に乗り出します。
まず、おあさちゃんの手紙が本人の筆跡とまったく違う(子供の字じゃない)ことを指摘します。
さらに、今は出ない筋の部分で加賀鳶の梅吉のところに来た怪文書とこの手紙が同じ筆跡だと指摘します。
こういう仕事をしているやつが近所にいるらしい。もちろんそれを使うやつも同じような危ないやつらです。

道玄に、出るところに出たらウソはばれるのだからさっさと帰れと言いますが、
道玄は、恐喝未遂程度じゃたいした罪にならないことを知っているので引き下がりません。
「突き出すなら付き出せ」と居直ります。

ここでの松蔵のセリフは「傘尽くし」になっており、傘に関連した単語に引っ掛けた威勢のいいものです。
対する道玄のセリフは「怪談尽くし」になっており、寄席の前座で語られる怪談に出てくる作り物のお化けみたいにドロドロ消えてたまるものか
みたいなおどろおどろしい迫力です。

松蔵はここで隠しアイテムを出します。以前御茶ノ水の坂で拾った、道玄の煙草入れです。
中には道玄の名前が書かれた質札の書付が入っているので間違いありません。

拾ったときの様子を詳しく話す松蔵に、さすがにヤバいと思った道玄は、あきらめて帰ることにします。
松蔵は、あとくされがないように、それでも道玄に十両やります。煙草入れも返してやります。
せっかくの証拠なのに!! と見ていて思ってしまいますが、こんだけ悪いことをしていればいつかはバレて捕まるのです。
今は伊勢屋さんに頼まれて道玄をおとなしく帰らせるのが目的ですので、これでいいのです。

「見上げただんなた!! 」とか十両もらって嬉しい道玄は松蔵を褒め、悪びれるようすもなく帰って行きます。

行動を字で追うと気分が悪い悪党ですが、お芝居で見ると道玄は愛嬌もある、それなりに色気もある魅力的な男に描かれています。
また、そういう愛嬌がある役者さんがやる役でもあります。


また「盲長屋」です。
長屋の縁の下から犬が「ぬのこ」を咥えだしました。「布子(ぬのこ)」は綿入れの着物や半纏のことです。
住人が家主さんに相談します。
家主さんというのは、今の「大家さん」ではなく「管理人さん」のことです。家主さんは目が見えます。

道玄の服っぽいです。しかも血が付いています。他にも細かい証拠っぽいものが袖に入っています。
来合わせた「あるき」に相談する家主さん。
「徒歩(あるき)」は、銭形平次的に言うと下っぴきです。常に近所を歩き回って情報収集しています。

道玄の家です。
遊郭に売られそうになったおあさちゃんは、必死で脱出しました。今行方不明です。
お母さんのおせつさんも心配しているのですが、
道玄はおせつさんが姪を隠したと決め付けて、柱に縛り付けて棒で叩いて行き先を言わせようとしています。DVです!!
横でお兼さんがゆったり酒を飲んでいます。怖いです。

おせつさんが絶対絶命のときに家主さんがやってきて、布子のことを聞きます。とぼける道玄。
しかし、家主さんはおせつさんに気付いて救出、家に連れ帰るのでした。危機一髪!!

「ヤバい」と気付いた道玄とお兼さんは逃げ支度をしますが、捕り手が踏み込みます。
なんとか逃げる道玄。お兼さんは捕まります。


「本郷赤門前」の場です。
ここは現代の東大赤門前とまったく同じ景色です。加賀様のお屋敷の赤門は21世紀の今に至るまで一度も焼けていませんよ。加賀鳶すげえ!!
歩道と電信柱がなく、門の前が土の道なところだけ違います。

月がなくて真っ暗です。舞台は明るいですが、真っ暗な設定です。
道玄と捕り手とが暗闇の中で探りあう、「世話だんまり」になり、
最後道玄は捕まります。

現行上演ここで終わりです。

もともとは、取調べのシーンがあり、お仕置きに引かれて行きながら憎憎しく毒づくシーンなどもあるのですが、
今は出ません。


今出ない、梅吉主役の部分は、長くなりすぎるので今回割愛しました。

ところで、
目が見えても按摩さんはできます。他の商売をしたほうが割がいいのでやるヒトはあまりいませんが。
道玄がなぜふだんから盲人のふりをしていたかといいますと、
江戸時代、盲人を保護するための制度がいくつかありました。
いくらか出して盲人用の官位を買うと、年金がもらえるというのと、盲人だけは高利で金を貸していいというものです。
後のほうのセリフで道玄は「小金を貸している」と言っていますので、金貸しのために盲人のフリをしているのだと思います。
他にも道玄はいろいろ陰で犯罪をやって生きているので、目が見えない、悪いことができないヒトのふりをしていたほうが都合がいいのです。


タイトルの「うめが かがとび」という読みは、もちろん「梅が香」と「加賀鳶」とを引っ掛けています。
本郷湯島の梅が咲く季節に初演されたお芝居です。
昔も今も、このお芝居が出るときは芝居小屋の前に、加賀の酒造会社の銘酒「加賀鳶」が樽で山と積まれます。
お芝居が始まる前、劇場に入る時点でお芝居が始まっているのです。
華やかでイキのいい、江戸の街のにおいがただよってくるような気分です。

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1 コメント

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敬服の一語 (亀屋東西)
2015-01-22 05:43:31
歌舞伎をこよなく愛されるお心と、啓蒙のための並々ならぬご努力に心から敬意を表します。
欲張りは承知の上で、「ここの処は○○(役者の名)は、こう演じた」といった風な「型」についても簡単に付け加えてもらえたら…と、ふと思いました。(「加賀鳶」しか読んでいませんので、見当違いだったら、ご容赦ください。)
とにかく、素晴らしいサイトであることは間違いありません。
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