柳原キャンパス

美術と音楽について

柳原キャンパス第11回

2009-10-05 18:33:46 | 日記

フランク作曲 ヴァイオリン・ソナタ イ長調

 いよいよ10月、芸術の秋到来です。秋の夜長は室内楽で過ごしましょう。今月はヴァイオリン・ソナタの最高峰フランク作曲「ヴァイオリン・ソナタ イ長調」です。

 ベルギーに生まれフランスで活動したセザール・フランク(1822-1890)は遅咲きの作曲家です。少年期から青年期にかけては、父親の意向で、リストのようなステージ受けするピアニストを目指していました。しかし、生来の内気な性格が災いしてか、コンサート・ピアニストとしての限界を感じて断念。教会のオルガニストとなり作曲に向かいます。当時の作曲家のステイタスはオペラで成功することだったので、それなりに頑張りますが、これも地味なフランクの性格に合わなかったのでしょう、「頑固な召使」52「ユルダ」85など、作ったオペラは全て不発に終わります。やっと才能が開花したのは最晩年のこと。交響的変奏曲85、交響曲ニ短調88、弦楽四重奏曲89、前奏曲・コラールとフーガ84、前奏曲・アリアと終曲87など、名曲といわれる作品はすべて60歳を過ぎてからのもの。今回のテーマ曲「ヴァイオリン・ソナタ イ長調」も1886年64歳のときの作品。友人のヴァイオリニスト、ウジェーヌ・イザイの結婚のお祝いにプレゼントしたものです。

「ヴァイオリン・ソナタ イ長調」がなぜ傑作なのか?それは“理屈抜きに、聴いていいから”という一言に尽きるのですが、それでは芸がなさ過ぎるので、説明を少々。①メロディーが美しく抒情的で気品があること。しかも親しみやすいこと。②楽曲全体に流れる高貴さが、ヴァイオリン本来がもつ妖しい魅力と渾然一体となっていること。③フランクが生涯追求してきた「循環形式」の完成形がそこにあること。すなわち、各々違う表情を見せる4つの楽章が見事に統一されていること。④ピアノ・パートが充実しており、ヴァイオリンとのバランスが絶妙なこと などです。

 紆余曲折を経て最終的に到達したフランク至高の境地がそこにあります。構成力、楽器特性の活用、精神性が三位一体となった姿はまさにフランクの人生の投影です。これらの要素を全て満たすのは容易なことではありません。名盤の名を欲しい侭にしているティボー/コルトー盤は、演奏者の個性の凄さには感服するのですが、それが曲そのものの高貴さを隠してしまうほど大きい。これは二人の個性を聞くべき盤というのが私の評価です。

 なんといっても最高はハイフェッツ/ルービンシュタイン盤(1937録音)です。ハイフェッツのヴァイオリンは、鋭く澄んで高貴さこの上ない響きを宿しています。全く媚びることのない音楽の構えは、フランクが到達した晩年の境地に合致しています。ルービンシュタインのピアノは暖かめの響きでヴァイオリンの音を中和して見事。結婚式のお祝いという明るく華やかな側面をも映し出します。そんなわけで、この演奏、文句なしの名演なのですが、手に入り難いのが欠点で、現在は65枚組「ハイフェッツ大全集」の中でしか聴くことができません。別売りを切に希望します。必ずや、定番ティボー/コルトー盤と双璧の名盤となることでしょう。

 名曲なので次点を2つ。まず、②ヴァイオリン本来の艶やかな魅力は、フェラス/バルビゼー盤が最右翼。これなら献呈されたイザイも納得するでしょう。つぎに、④ピアノ・パートの充実という観点から、パールマン/アルゲリッチ盤を。このアルゲリッチの凄さは余人の追従を許しません。ピアノ・パートにこんなに多彩な音が詰っていたのかとビックリします。リストのようなピアニストを目指したフランクもきっと喜ぶこと請け合いです。(清教寺茜)

[究極のベスト盤]

ヤッシャ・ハイフェッツ(Vn)、アルトゥール・ルービンシュタイン(P)37

[次点]

イツァーク・パールマン(Vn)、マルタ・アルゲリッチ(P)98
クリスティアン・フェラス(Vn)、ピエール・バルビゼー(P)65

[ノミネート一覧]

ティボー(Vn)/コルトー(P)29
ハイフェッツ/ルービンシュタイン37
フェラス/バルビゼー65
チョン/ルプー77
グリュミオー/シェベック78
ボベスコ/ジャンティ81
カントロフ/ルヴィエ82
デュメイ/ピリス93
五嶋みどり/マクドナルド97
パールマン/アルゲリッチ98