多文化共生のすすめ

Toward a Multicultural Japan

日経ビジネス:外国人労働者特集

2006年09月08日 | Weblog
『日経ビジネス』9月11日号が、「こんな国では働けない-外国人労働者『使い捨て』の果て」と題した特集を組んでいる。

「絶望する『底辺ワーカー』」、「ここまで来た外国人依存-いなくなったら日本が止まる」、「『日本の中の外国』と生きる-摩擦を超える知恵と覚悟を」の3本の記事がある。

最初の記事は、日系人や研修生を雇用する企業に対して厳しい批判をしている。2番目の記事は、自動車産業、小売業、飲食業、水産加工業などを中心に、日本社会がすでに外国人抜きに成立しなくなっていることを指摘している。3番目の記事は、外国人力士が活躍する大相撲や住民の10%が外国人の岐阜県美濃加茂市の取組み、そしてキューピーの外国人雇用の管理の仕組みを紹介し、門戸開放の是非を論じる段階はとうに過ぎ、共生の方法を考えるしかないことを訴えている。

『日経ビジネス』は7月24日号で、奥田前経団連会長の特集を組んだ時に、外国人労働者問題を取り上げているが、外国人労働者受け入れの特集自体は、2000年11月以来のことである。その時のタイトルは「迫られる雇用開国」であった。今回は、より厳しく現状を批判し、共生を訴えているのが特徴である。

外務省:オープンな日本

2006年09月07日 | Weblog
外務省が、国際社会での日本の存在感や発言力を高めるための課題について議論する「世界の中の日本・30人委員会」を設置していたが、同委員会が9月7日に報告書「政策提言 リーダーシップをもつオープンな日本へ」をまとめた。

オープンな社会を築く上で、多文化共生の課題は避けて通れないはずだが、提言の中には、「外国人も過ごしやすく暮らしやすい日本の実現」が掲げられている。だが、中身を読んでみると、観光客と定住者の問題を同列に扱っており、定住者にかかわる提言内容は、日本語教育や学校教育の問題に触れてはいるものの、かなり表面的で、まるで旧自治省が「地域の国際化」を推進した20年前の時の議論のようで残念である。

提言の該当部分は以下のとおりである。

【 問題意識 】(イ)Lost in Translation
外国から多くの良いヒトを惹きつけるためには、日本が過ごしやすく暮らしやすい国であることが重要である。しかし、現在の日本は、こうした外国人を受け入れる態勢ができているといえるだろうか。例えば日本を訪れる外国人観光客や、日本で就労する外国人の割合が、海外と比べて非常に少ないのは受け入れ態勢が十分に整っていないためではないだろうか。

かつて、日本の「linguistic isolation」が指摘されていたが、グローバル化の進展した現在では、日本を訪れる多くの外国人こそ、「linguistic isolation」におかれ、そして、「lost in translation」となっている。ビジット・ジャパン・キャンペーンは一定の成功をあげているが、受入側の宿泊施設などはそのキャンペーン開始当初にその存在を知らないなど、キャンペーンによって増加を期待した外国人の受け入れ態勢に改善がなされているとは言い難い。携行荷物の多い外国人旅行者は成田エクスプレスのような荷物置き場のないJR新幹線を快適に利用できるのか、駅などのエレベータは後付で動線からは離れた不便なところにある。また、確かに、日々の生活に目を向ければ、コンビニエンスストアの発達などにより、大変便利になっているが、外国人はホテルを一歩出れば、英語などによる表示も不十分で戸惑うしかない。このため、外国人にとってはいまだに日本は物価が高いとのイメージが残っている。さらに、日本の主要ホテルの客室においてCNNやBBC等の英語放送が見られず、外国人客にとって英語での報道情報の入手に大きな不便を感じることが指摘されている。

一方、外国人をより多く受け入れていくことは、ドイツやフランスの例に見られるとおり、決して容易なことではなく、摩擦も生じうる。しかし、その可能性を最小限に抑え、きちんとコントロールすることは、日本人のみならず、日本に滞在する外国人の暮らしやすさのためにも必要である。そのための社会のあり方を見つめ直す必要がある。

【 対応策 】(ロ)外国人の目から見た日本の暮らしやすさの視点を導入する
交通表示や街区表示などに英語表記やピクトグラム(絵文字)を加え分かりやすくすること、低価格のコンビニや全国の多種多様な食材が手に入るデパ地下の活用法など生活情報の提供を行うこと、ホテル等における英語での報道情報の入手環境を改善させること、本当の日本としての魅力がある地方へのアクセスの問題を解決するなど、受け入れ態勢の整備として努力するべきことは多い。また、子供や若者を含め誰でも親しめる緑、公園、スポーツ施設が十分に存在するとは言えず、居住スペースも狭すぎる。これらは、日本人にとって自国がより住みよい国となるためにも改善すべき点だろう。

さらに外国人の定住のしやすさとなると、より多くの問題が表面化する。ともに来日する家族の生活面あるいは教育の問題などである。英語での生活情報の提供や、外国人受入れのための住民組織の普及・支援が必要であろう。後者については、既にホームステイの受け入れなどで積極的に国際化に取り組む地方自治体の例もあり、そうした事例を参考に、外国人の暮らしやすい「ご近所つきあい」を広めていくことが肝要である。

また、就業査証や在留資格の申請ないし更新時の困難(取得基準や必要書類の不明確さなど)を軽減するとともに、日本で暮らす外国人とその家族に対して、在日外国人団体との協力なども利用して、国内における日本語教育体制を整備したり、子弟が通えるインターナショナルスクールを増設したりする必要もあるほか、ハウスキーパーなどの入国要件の緩和をはかることも生活面で必要である。

ニューズウィーク:移民国家ニッポン

2006年09月06日 | Weblog
『ニューズウィーク』日本版の9月13日号が、「移民国家ニッポン」の特集を組んでいる。表紙には、日本国籍を取得したバングラディシュ、スリランカ、そしてイギリス出身の3人の男性の写真が掲載され、「出稼ぎでなく『永住』へ 外国人が日本を変える」と記されている。

ずいぶん派手な見出しだが、記事は2本だけで、しかも1本は「ヨーロッパ移民社会の『地獄』」と題したヨーロッパに関する記事なので、結局、日本に関する記事は「島国ニッポン 危うい移民無策」の1本だけで、やや期待外れである。

記事の内容も、移民政策のないまま、既成事実として移民の受け入れが進んでいることを指摘しているのはよいが、具体的な事実関係で誤りが幾つもある。例えば、「現在日本国籍を有する約1万5000人の『元外国人』」とあるが、1万5000人というのは、毎年帰化をしている外国人の数で、これまで帰化をした人たちは累計で40万人近い。

また、「移民の子に日本の義務教育を受けさせる法律はない」「日本の教育制度には、外国人の子に日本語を教える用意がまったくない」と述べているが、これは誇張しすぎである。法律で外国人の子どもを学校に受け入れることを拒んでいるということではないし、日本語を教える用意もそれなりにしているが十分でないのが実情だ。

「移民労働者の多くはパートタイムで、健康保険や公的年金に加入していない。現在の法律では、雇用主にはパート従業員の社会保険料を負担する義務がないからだ」とあるが、これも間違っている。ブラジル人労働者の場合、その多くが業務請負業者に雇われていて、業者も本人も社会保険への加入を避けがちなのが問題になっている。

さらに、「現在1億2800万人の人口は、50年には1億500万人にまで落ち込む見通し」とあるが、これも不正確である。2002年に発表された2050年の推計値が1億60万人で、今年末にはさらに下方に修正される予定である。

「移民労働者はたいてい、日本人よりも生産性が低い」という意見を引用しているが、そんなことは一概に言えないはずである。

日本版を読む国内の読者は、まだ他の媒体から情報を得て、不正確な情報は淘汰されるからよいが、ニューズウィークの英語版といえば、影響力は大きいし、日本に関する英語の情報は圧倒的に少ないだけに、より慎重に取材し、正確な記事を書いてもらいたいものである。

トヨタと研修・技能実習生

2006年09月04日 | Weblog
朝日新聞の9月4日付夕刊(「トヨタ下請け、不正雇用-ベトナム人200人 最低賃金払わず」)によると、トヨタ自動車の二次、三次下請けのアルミ部品製造会社など23社で働くベトナム人技能実習生が、最低賃金以下で働いていたという。豊田労働基準監督署が是正勧告を行い、8月末までに過去2年分の未払い分、総額約5千万円を払ったという。

トヨタ自動車など自動車や電機の大手メーカーの下請け会社で多くの日系ブラジル人労働者などが働き、社会保険未加入や子どもの不就学などの問題が深刻なことは以前から指摘されていたが、研修・技能実習生の問題までが明るみに出たことは重大である。今後は、大企業の社会的責任が、ますます問われることになるだろう。

なお、研修・技能実習制度については、その厳格な運用を求める声と、より柔軟な運用や拡充を求める声が出ているが、筆者は、法務省プロジェクトチームが唱えるように、非熟練労働者受け入れの隠れ蓑となっているこの制度を廃止すべきであると考える。そしてローテーション型の受け入れではなく、技能や日本語能力など一定の要件を満たした上で、定住促進型の在留資格の設置を検討すべきであろう。

彦根市

2006年08月29日 | Weblog
滋賀県彦根市は、人口11万人の小都市である。外国人登録者は約2300人で、人口の約2%であるから、全国平均の1.6%よりは高いが、特別多いわけではない。外国人の内訳はブラジル人が一番多く、やはり1990年以降、急増している。中国人とフィリピン人も増えている一方で、韓国・朝鮮人は増減がほとんどない。

彦根市では、2003年度から、「多文化共生社会推進事業」を立ち上げている。担当者によれば、事業名に「多文化共生」を用いたのは、多文化共生センターの活動と筆者が2002年11月に朝日新聞に投稿した記事「多文化共生へ基本法制定を」に触発されたからという。

この事業が2003年度に始まった背景には、2002年に市民団体の働きかけがあり、担当の国際交流課(現市民交流課)でも問題意識があり、すでに様々な活動をしている市民団体や外国籍市民の声をまず聞くために、2003年度に外国籍市民施策懇談会を設置したという。そして、庁内に外国籍市民施策調整会議を設置した。

第1期懇談会は、2003年6月に始まり、2005年6月に「住み良い地域社会をめざして-多文化共生社会を推進していくための提言」をまとめている。その中では、組織上の課題、実態把握、行政業務、教育・文化・言葉、市民交流といったテーマが掲げられている。

第2期懇談会は、2005年9月に始まり、教育、地域、医療を重点的に審議しているという。

彦根市は非常に動きが早く、2005年6月の提言を実現するために、提言に含まれた項目ごとに担当部署と実施年度を定めた「多文化共生社会推進計画」を2005年9月に策定している。さらに2006年3月には、2005年度の実績を整理し、次年度の計画を示した「多文化共生社会推進計画の進捗と次年度計画」も策定している。

全国の多文化共生の先進自治体の大半は、外国人が集住している地域である。彦根市のように外国人が特に多くない自治体が、全庁的に施策の推進体制を整備しているのは、極めて珍しいといってよいだろう。