多文化共生のすすめ

Toward a Multicultural Japan

韓国:永住外国人の地方選挙権

2006年05月31日 | Weblog
5月31日の韓国の統一地方選で、永住外国人が初めて投票した。韓国で永住権を獲得した後、3年以上経過した19歳以上の外国人が対象となったという。6579人が対象で、台湾出身者が6511人と最も多く、日本人51人、米国人8人、中国人5人、ドイツ人2人と続く。

日本では、1990年9月に地方自治体の選挙権を求める裁判が起こされ、1995年2月、最高裁が永住外国人への地方自治体選挙権付与を憲法が禁止していないという判断が示された。

その後、1998年10月に民主・公明両党によって、永住外国人に選挙権を付与する法案が国会に提出され、1999年8月には衆議院で初めて審議され、1999年10月には、自民・公明・自由の与党3党が地方選挙権付与の政策合意に至ったが、その後、自民党内から反対する議員が続出し、今日まで継続審議の状態が続いている。

現在、地方選挙権を求める運動をしているのは、特別永住者(旧植民地出身者とその子孫で、おもに韓国・朝鮮人)が中心であるが、まもなく一般永住者(旧植民地出身者以外で永住許可を得た者で、中国人やブラジル人、フィリピン人など)の数が特別永住者を上回る時代がやってくる。一般永住者からも地方選挙権を求める声が強くなった時、永住外国人への地方参政権の問題は社会統合政策の中心的な課題として議論されるようになるだろう。

韓国:外国人政策会議

2006年05月29日 | Weblog
韓国は、5月26日、法務省など17省庁からなる外国人政策会議を開き、外国人政策の基本的方向性と推進体制を話し合った。韓明淑首相を委員長とする「外国人政策委員会」の新設後、初めて開かれる会議だという。

韓国の外国人登録者の数は、1990年に5万(0.1%)、1995年に27万(0.6%)、2000年に49万(1.1%)、2005年に75万(1.6%)と急増し、外国人の比率は日本に並んだ。非正規滞在者を含めれば、100万人に達するという。ソウルなど大都市では、外国人が住民の5%を占める一方、農村部でも国際結婚が急増しているという。

外国人政策会議では、「単純労働に従事する外国国籍の同胞らを対象とする訪問就職制(外国国籍の同胞に5年間の韓国訪問と、社会風俗に反する一部の業種を除いたすべての業種への就職を許可すること)の導入、結婚による移住者に対する最低生計費および医療費の支援、外国人専門技術者の在留期限を3年から5年に拡大、不法滞在者の子どもの学習権を保障するための出国期限猶予などを推進すること」などを決めたという。外国人に対する差別を禁止する「外国人の処遇に関する基本法」の制定や関係省庁の施策を統括する機関の設置などについても審議されたようである。(中央日報朝鮮日報

日本は、ようやく4月の経済財政諮問会議で、外国人の就労・生活環境整備について省庁横断的な検討を始めることを決めたところである。地方自治体の取り組みでは大きく先行している日本だが、国の取り組みは韓国に遅れそうである(韓国:外国人の日)

JIAM:多文化共生マネージャー

2006年05月24日 | Weblog
全国市町村国際文化研修所(JIAM)の第1回多文化共生マネージャー養成コースが5月22日に始まった。筆者は24日に外国人児童生徒について講義を行った。22日から26日までの前半の5日間は、外国人住民にかかわる法制度について学び、6月26日からの後半の5日間は、先進自治体の事例を学んだり、実地研修を行いながら、研修生がそれぞれの地域における多文化共生の推進のための3か年計画策定の演習を行う。

JIAMの「国際文化系研修」は、2006年度からより多文化共生社会への対応をより重視することとなり、具体的には、財団法人自治体国際化協会と共催で、 上述のコースと「多文化共生社会対応コース」の2つの研修が始まった(「JIAM」参照)。これらのコースは、自治体と協働して地域の国際化等に取り組むNPOや関係団体の職員等も一定の要件の下に研修に参加できる。それぞれの目的は以下のとおりである。

(ア) 「多文化共生マネージャー養成コース」
多文化共生社会の進展に対応できる知識の習得を図り、関係機関・部局等とのコーディネート能力や企画立案能力を有するマネージャー的な人材の養成を図ることを目的とした研修を年3回実施。

(イ) 「多文化共生社会対応コース」
従来の 「国際化対応コース」 をより多文化共生に重点を置いた内容に変更し、 在住外国人が直面する諸課題を学び、 施策を展開する際に多文化共生に配慮できることを目的とした研修を年3回実施。 (「国際化対応コース」 は廃止。)

記念すべき第1回コースでは、残念ながら参加者は11名であったが、ロの字型の机の配置で、講師と研修生の間で密度の濃いやりとりが行われていた。筆者は、2004年度にJIAMがコース見直しのために設置した研究会で、多文化共生をテーマに掲げた初級、中級、上級(海外研修)の3つのコースの設置を提案した。今回のコースはその提案が部分的に実現したものであり、ぜひ全国の自治体関係者が受講することを期待している。


グローバル戦略(5)

2006年05月22日 | Weblog
5月18日の経済財政諮問会議で「グローバル戦略」が策定された。外国人政策に関連する部分は以下のとおりである。

1人材の国際競争力の強化-②外国人人材の受入れ拡大と在留管理の強化
3地域の国際競争力の強化-①地域における多文化共生社会の構築

具体的には以下の通り。

「研究開発基盤の強化、留学生の受入れ支援策の充実や国内就職の促進など、アジアをはじめとする諸外国からの留学生・研究者を含めた海外の優れた人材を国内に誘導する環境を整備する。」(3頁)

「高度人材の受入れ拡大に向けた入国管理に係る制度面の整備については、以下の方向で対応する。
・在留期間の上限の見直しについては、一部の外国人研究者や情報処理技術者について特区において5年の在留期間を認めていた措置を全国展開するとともに、現在認められていないカテゴリーについても、具体的に高度人材であることが明らかになれば、その勤務先に一定の要件を設けるなどの措置を講じたうえで、順次5年の在留期間を認めていく。
・卒業後に起業準備を行う留学生への在留資格の付与については、一定の条件の下に認める方向で対応する。
・「家族滞在」の在留資格が認められる範囲の拡大については、高度人材に関しては、その扶養する「子」や「配偶者」だけでなく、「親」についても滞在を認める方向で対応する。
 なお、在留資格取得に必要とされる実務経験年数の要件緩和については引き続き検討を進める。」(4頁)

「高齢化の進展に伴い労働力需要が高まると思われるサービス分野(介護等)について、当該分野のサービスレベルを充実させる質の高い人的資源を確保する観点から、現在専門的・技術的分野と評価されていない分野に関しても、受入れによって生ずる問題点にも留意しつつ、受入れ範囲の見直しを検討する。EPA交渉においては、看護・介護人材の受入れや現行の外国人研修・技能実習制度の見直しを求めている国があり、今後これら人材の受入れや制度見直しの検討に当たっては、こうした事情にも留意して、人材育成面の経済協力も検討しつつ、柔軟に対応する。」(4頁)

「実効性のある在留管理システムを構築するため、在留に係る情報を関係省庁が相互に照会し提供する仕組みをいかに整備するか、外国人登録法の見直しのあり方、受入れ機関にも報告義務を課すべきか等の論点について検討を急ぎ、本年度内に結論を得る。」(4頁)

「外国人の医療、子弟の教育、地域住民との摩擦など、現に生じている生活者としての外国人の問題について、外国人労働者問題関係省庁連絡会議において、現状の分析を行い、その解決に向けたコストの負担のあり方にも留意しつつ、総合的な対応策を本年内にまとめる。その際、以下の点についても関係省庁等の連携により検討する。
・日本語教育の拡充、不就学児童の解消を目指す取組など社会的統合の推進
・標識・各種表示等の外国語表記の拡大、行政機関における外国人居住者に係る諸手続きのワンストップ化」(6頁)

「地域における多文化共生社会を構築するための指針として総務省が策定した「地域における多文化共生推進プラン」を踏まえ、本年度内に少なくとも全都道府県・政令指定都市において、それぞれの指針・計画等を策定するよう推進を図る。」(6頁)

5月18日の議事要旨を読むと、本間正明大阪大学教授が少子化対策を論じる中で、「我が国の最適な人口の目標設置等も含めて、目指すべき国のかたちを議論しながら、外国人の受入れ・共生の問題も含めて、包括的な検討を行っていく必要がある」(2頁)と述べている。

なお、5月10日の諮問会議では、麻生太郎外務大臣が、外国人受入れにおける日本語教育の重要性に言及しているのが注目される。麻生大臣は、「ぜひ国内外の日本語教育をもう1回しっかりしていただけないかと考える。日本の場合、日系人などに対する日本語教育にかけている金額は約3600万円。ドイツが外国人労働者等の学校外での独語教育にかけている金額を調べると、ドイツの人口は日本の約半分だが、連邦政府の使っている金額は約300億円ということで、桁が3つぐらい違っている。したがって、外国人受入れの問題については、基本的なところを地方自治体に振ってもとてもできないので、そこは重点配分するような基本的なバックアップをしないといけない。外国人労働者問題というのは、避けて通れない問題だと思うので、ぜひこの点もお願いする」(議事要旨5頁)と述べている。

今後は、6月策定の「骨太の方針」に、外国人の就労・生活環境の整備がどの程度盛り込まれるか注目していきたい。

日経対談「外国人労働者どうする」

2006年05月18日 | Weblog
5月18日の日経新聞で、「人口減 外国人労働者どうする」と題したテーマで、経済界を代表して、帝人相談役の安居祥策氏とりそなホールディングス社会取締役の渡辺正太郎氏が対談を行っている。

安居氏は受入れ積極派で、渡辺氏は慎重派で、それぞれの見出しは、「鎖国状態の解消急げ」、「安易な雇用 禍根残す」とある。

安居氏の発言の中に、外国人受入れの社会コストの負担を自治体や国任せにするのではなく、企業も負担すべきと述べていることなど、注目すべき点もあるが、全体的にはこれまで既にされてきた議論が中心となっているのが残念である。

二人は、おもに出入国政策の議論をしている。しかし、社会統合政策の問題を抜きに、出入国政策を論じるのはあまり現実的とはいえないだろう。日本の現状でいえば、非熟練労働者(単純労働者)は受け入れないといっておきながら、実際には、日系人、超過滞在者、研修・技能実習生など約60万人の外国人が大企業から零細企業まで、さまざまな生産現場等で働いている。そして、就労、教育、医療など、様々な問題が生じている。その問題をどうするかということを徹底的に検討しなければ、どのような出入国政策が望ましいのか、現実的な議論はできないだろう。

記事の見出しに即していえば、約60万人の非熟練労働者を受け入れている日本は「鎖国状態」ではないし、既に「安易な雇用」によって問題が起きている。新たな出入国政策の議論はそこから出発しなければならないだろう。

岐阜県

2006年05月16日 | Weblog
2006年5月16日に岐阜県庁で、「岐阜県多文化共生推進本部員会議」が開かれた。岐阜県インターネット放送局によると、会議の概要は以下のとおり。

*県内在住外国人と地域住民とが互いを理解し尊重し共生できる社会の実現を図ることを目的に、「第1回岐阜県多文化共生推進本部員会議」が、5月16日、岐阜県庁で開催されました。

*会議の冒頭、古田知事は、「外国人登録者数も県内人口の2%を占めるに至っている。地域社会でのさまざまな課題について正面から向き合った議論をしていきたい」と述べ、その後、県総合企画部長から現状と課題が報告されました。

*県内の外国人登録者数は、平成16年末で、約4万8千人と、10年前の2.2倍に増え、特にブラジルなどの南米日系人が急増しています。

*会議には、外国人登録者の多い岐阜市、可児市、大垣市などからも関係者が出席し、それぞれの地域での共生への取り組み状況や、医療、教育などの課題などが話し合われました。

古田知事は、2006年2月7日のグレーター・ナゴヤ・イニシアティブ協議会でも、「多文化共生社会」について述べ、「外国企業の進出に伴い、外国人労働者やその子どもたちを、地域社会にどう位置づけていくか、その対策を早急に考えなければならない」と語っている(関連記事)。

岐阜県では、2006年度予算の中に「多文化共生社会への対応」という項目を立てていた。また、2002年に岐阜県教育改革研究会を設置している。同研究会は2005年度、「外国人児童生徒の教育」をテーマに掲げ、2006年2月に「外国人児童生徒の教育に関する提言」をまとめている。

一部を紹介すると、「外国人児童生徒の教育に関する研修を管理職教員等に行うなど、学校が一丸となって諸問題に対処できる環境を整備する」「外国人児童生徒に対する教育施策が体系的かつ効果的に実施されるよう、岐阜県としての『外国人児童生徒に関する指導指針』(仮称)を作成する」「多文化共生教育の推進:多文化共生について理解を深める学校教育を推進する。それとともに、保護者の理解を深めることも重要であり、PTA等を活用した啓発活動も考えられる」といった興味深い提言が含まれる。

愛知県に比べると、岐阜県は大企業が少なく、人口も少ないせいか、目立たないかもしれないが、知事のイニシアティブによる多文化共生社会づくりは注目に値しよう。ちなみに、岐阜県の外国人登録者数は2004年末現在、約48000人で全国第11位(愛知県は約18万人で第3位)であるが、総人口に占める割合は2.3%で第5位である(愛知県は2.5%で第2位)。

東京都文京区:国際協会の解散

2006年05月15日 | Weblog
文京区国際協会が2006年3月31日をもって、解散となった。1983年に文京区国際友好交流協会として設立され、2000年頃から地域の外国人支援の活動が活発になり、2002年には国際協会と改称していた。2003年には「文京区外国籍区民の住みやすさ調査」も実施して、活動内容は姉妹都市交流から在住外国人支援にシフトしつつあったようである。ちなみに、文京区の外国人登録者は6700人で、総人口の3.6%を占めている。留学生が多いのが特徴である。

実は、文京区のほかにも、都内では練馬区国際交流協会と葛飾区文化国際財団が同様に2006年3月末で解散している。解散の理由はそれぞれの事情があるものと思われるが、その一因に協会の存在意義があいまいだったことを挙げることができるのではないだろうか。地方自治体の財政難の中、「国際交流」から「多文化共生」にミッションを明確に転換しないかぎり、今後も各地の国際交流協会の解散が続くように思われる。

なお、文京区では、協会の解散に対して、区内の日本語教室を運営する団体や個人が集まって、「ぶんきょう多文化ねっと」(ぶんたねっと)を立ち上げた。ぶんたねっとは、区内団体のネットワークづくりのほか、外国人相談や勉強会、セミナーなどの開催を予定しているという。5月12日に第1回の勉強会が開催され、筆者は「総務省『多文化共生の推進に関する研究会報告書』について」と題して、東京大学の留学生センターで講演を行った。ぶんたねっとは大学を拠点としているのがユニークである。


岐阜県:コミュニティリーダー育成

2006年05月14日 | Weblog
岐阜県国際交流センターが、地域の課題を解決する「コミュニティリーダー」育成のための研修プログラムを企画し、5月14日に第1回めの研修が開かれた。

同センターは、2005年2月に「岐阜県における多文化共生の推進に向けて」と題した提言をまとめ、2005年度は岐阜県内のブラジル人コミュニティのキーパーソンを対象とした2回のワークショップ(岐阜市、美濃加茂市開催)とシンポジウム(可児市開催)を企画したが、今回は対象をフィリピン人にも広げた第2弾の企画といえる。

外国人自身が自分たちのコミュニティの課題解決に立ち上がってもらうことを支援する、大変意義深い研修プログラムといえよう。以下はプログラム案内からの引用である。

1.研修の目的と趣旨
 
岐阜県では、外国人住民が自ら必要なサービスを提供する担い手となって「多文化共生社会」を形成していくことをめざしています。今回の研修はその第1歩となるもので、外国人住民の生活の課題を解決するために必要な、課題分析や企画立案、資金調達に関する手法を学ぶ研修です。また研修を修了したリーダーは、研修終了後も事業の立ち上げや運営に必要な助言・指導を受けることができます。なお、研修にはすべて、ポルトガル語とタガログ語の通訳が付きます。是非ご参加下さい。

2.研修の日程と主な内容

<第1回 5月14日(日)10:00〜16:00>
□ 日本におけるNPOに関する状況の講義
□ 岐阜在住外国人の課題を整理する演習
□ 「事業計画」の組み立て方に関する講義
□ 事業計画の骨子を組み立てる演習

<第2回 7月9日(日)10:00〜16:00>
□ 事業計画案の共有と相互評価
□ ブラッシュアップのための講義
□ NPOの経営資源に関する講義
□ 人材に関する計画づくり演習
□ 資金に関する計画づくり演習

<フィールドワーク 8月26日(土)〜27日(日)>
NPOによる外国人住民の生活課題解決への取り組みが盛んな神戸を訪ね、実際にコミュニティ活動を行う人々の話を伺います。

<第3回 10月29日(日)10:00〜16:00>
□ 人材と資金に関する計画書の共有と相互評価
□ NPOの設立と業務フローに関する講義
□ 広報戦略に関する講義と演習
□ まとめとふりかえり

3.講師 IIHOE研究主幹 田村太郎

4.研修場所 県民ふれあい会館 4階 409会議室

5.研修にかかる費用 無料

6.参加資格
・ 岐阜県の多文化共生社会を取り巻く現状に鑑み、県内のブラジル人コミュニティ及びフィリピンコミュニティにおいて外国人住民が直面する課題(子どもの教育、医療、就労支援など)の解決にすでに取り組んでいるか、これから取り組もうとする人(定員20名)。
・ 国籍は問いませんが、外国人住民のリーダー育成を目的としているので、ブラジル人、フィリピン人の参加を原則とします。
・ 研修には全日程、同じ人が参加して下さい。また参加者は、研修の成果を生かして、2007年以降に具体的な活動を行うことを条件とします。

日経:「定住外国人増加―政府、対応に苦慮」

2006年05月09日 | Weblog
2006年5月8日の日経新聞朝刊に、:「定住外国人増加―政府、対応に苦慮 行政コスト懸念 経済界と温度差」と題した記事が出た。本文は以下のとおり。

「日本に定住する外国人の増加にどう対応するかに政府が頭を悩ませている。少子高齢化の進行を見越して経済界は労働力の確保に積極的だが、教育や医療など受け入れ環境の整備にかかる行政コストが無視できない水準になりつつあるからだ。」

(中略)

「課題はすでに定住した外国人の居住環境の整備だ。安倍晋三官房長官は就学率が低い外国人子弟の教育や医療サービスの充実を省庁に促す。」

「だが、政府・与党内には異論もある。ブラジルなどからの日系人労働者は現在、23万人。多くは製造業に従事し、工場周辺に住む。山崎力総務副大臣は一部の地方自治体に負担が偏る現状に警鐘を鳴らす。」

「260万人とされるフリーターやニートの就業機会を狭めるとの見方もある。中野清厚生労働副大臣は『高度な技術者は増やすべきだが、単純労働者の扱いは白紙』と話す。」

この記事にはいくつかの問題がある。まず、定住外国人の居住環境整備について、政府内に異論があるとして、山崎総務副大臣のコメントを引用している。しかし、山崎氏は、一部自治体に負担が偏っている現状を指摘し、だからこそ、国がきちんと体制整備を進めなければならないと言っているのであって、定住外国人への対応に異論を述べているとは思われない。

また、中野厚労副大臣のコメントは、新たな外国人の入国に関するものであって、すでに入国し、定住している外国人に関するものではない。これも、定住外国人の居住環境整備に対する異論ではないだろう。

この記事には、「定住外国人問題を巡る課題」と題した図がついているが、そこに書かれている経済界の積極論の根拠も、自民党・副大臣の慎重論の根拠も、「定住外国人」に関するものではなく、新たな外国人の入国に関するものである。

どうして、このような混乱が生じたのだろうか。それは、外国人労働者の「受け入れ」といった時に、それが、新たな外国人の入国を指すのか、それとも、すでに入国した外国人の社会統合を指すのか、あいまいであることに起因していると思われる。すなわち、すでに何回も指摘しているように、出入国政策(外国人の出入国に関する政策)と社会統合政策(外国人の社会統合に関する政策)が混同されているためであろう。こうした混同は、広く見られる。筆者のところに取材に来る記者は、多文化共生を唱える筆者のことを、移民受け入れ推進派、開国論者と誤解している場合が多い。

グローバル戦略(4)

2006年05月08日 | Weblog
外国人政策について突っ込んだ議論のあった4月7日に続いて、経済財政諮問会議が4月19日にもさらにグローバル戦略の構築に向けて、外国人政策の議論を続けている。

4月19日の会議では、有識者議員からグローバル戦略の中間取りまとめが提出されている。その中で、「地域の国際競争力の強化」の中に以下のような項目があった。

①地域における多文化共生社会の構築

・外国人の定住化により生ずる医療、子弟の教育、地域住民との摩擦など社会的コストにも留意し、その解決に向けたコストの負担のあり方を含め、対応策を検討する場を設け、年内に総合的な対策をまとめる。

・地域における多文化共生社会を構築するための指針として総務省が策定した「地域における多文化共生推進プラン」を踏まえ、年度内に少なくとも全都道府県・政令指定都市においてそれぞれの指針・計画等を策定するよう推進を図る。

一方、4月27日の経済財政諮問会議では、グローバル化に対応した人材育成のあり方について、小坂文科大臣と中野厚労副大臣がそれぞれ文科省と厚労省の施策について説明しているが、まったく外国人児童生徒教育や国際理解教育、あるいは外国人労働者に言及していないことが不思議である。

今後のグローバル時代において、外国人児童生徒教育をどうするか、あるいは国際理解教育をどのように見直していくのかといった課題は、文科省にとって避けて通れないだろう。

また、厚労省も、就業率の向上によって全員参加型社会を目指すのであれば、その構想の中で外国人労働者の活用をどう位置づけるのかを示すべきではなかろうか。労働力人口の減少をすべて外国人で補うのが非現実的であるのと同様に、外国人労働者の存在を無視するのも非現実的だろうから。