浮世風呂

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日本はレームダック化するオバマ政権に巻き込まれるな

2014-12-10 06:39:04 | 資料

危機到来を予感させるヘーゲル国防長官解任
日本はレームダック化する政権との心中だけは避けよ

2014.12.08(月) 渡部 悦和 JB PRESS

 米国のチャック・ヘーゲル国防長官は11月24日、辞任すると発表した。このニュースを最初に伝えたニューヨーク・タイムスによると、ヘーゲル長官は、バラク・オバマ大統領の圧力により辞任せざるを得なかったようである。つまり解任である。

解任されたヘーゲル長官

 我が国にとって、オバマ政権内における数少ない日本の理解者を失うことになる。大きな損失であり、残念でならない。

 ヘーゲル氏は、任期を2年残して事実上解任されることになったが、かねてヘーゲル国防長官とオバマ大統領の側近たち特にスーザン・ライス国家安全保障担当大統領補佐官との意見の対立が報道されてきた。

 反日・親中の急先鋒、スーザン・ライス米大統領補佐官(安全保障担当)〔AFPBB News

 オバマ大統領を支えるスタッフについて、アジア太平洋のことを本当に理解しているエキスパートがいないのではないかという懸念が米国内外にあった。その典型例はライス氏であるが、オバマ大統領はまたしても評判の良くない側近を擁護し、国防長官を排除することとなった。

 中間選挙において敗北を喫したのを契機に、不手際が目立つライス氏やジョン・ケリー国務長官を更迭するのではないかという報道がなされていたが、最終的には側近ではなく、外様であるヘーゲル氏が辞任することになった。

 ライス氏やケリー氏こそ辞任すべきだと思っている人たちは多いと思う。彼らの残留により、今後2年間のオバマ政権の安全保障分野での混迷は継続すると予想され、我が国もそのことを覚悟して対処する必要がある。

 ヘーゲル氏の辞任により、オバマ政権6年間で3人の国防長官(ロバート・ゲーツ、レオン・パネッタ、チャック・ヘーゲル)が辞任することになったが、ゲーツ氏とパネッタ氏は、辞任後回顧録を出版しオバマ大統領を厳しく批判している。

 その批判の焦点は、オバマ大統領の軍の最高指揮官としての資質に対する疑問である。決断力の欠如、軍に対する信頼感の欠如、最高指揮官としての責任感の欠如などである。

 オバマ大統領の誠実で真面目な性格や弱者に対する思いやりとか地球環境に対する配慮とか評価すべき諸点は認める一方で、こと軍の最高指揮官としての資質については2人の元国防長官の評価に同意せざるを得ないのである。

 いずれにしろオバマ政権は今後2年間続き、その間において何が起こるか分からない。日米関係をいかに適切なものにしていくかが我が国の課題である。

ヘーゲル氏を評価する

 ヘーゲル氏は共和党の上院議員であったが、オバマ大統領の三顧の礼により国防長官に就任した。

 オバマ大統領に解任されたチャック・ヘーゲル国防長官〔AFPBB News

 ヘーゲル氏は、見かけはパッとしないが、ベトナム戦争に下士官として従軍した経験があり、軍隊と軍人の本質を理解し、戦場で苦労する軍人に共感することができる長官であった。この点が、オバマ大統領とヘーゲル氏の根本的な違いである。

 筆者は、今回のヘーゲル氏の辞任を同情的に見ているが、ヘーゲル長官をなぜ評価するかについて記述する。

(1)日米同盟の重要性を深く認識し、小野寺五典防衛大臣(当時)ともツーカーの関係であり、日本の立場をよく理解してくれていた。

 例えば、2013年4月に米国防長官として初めて、「米国の対日防衛義務を定めた日米安保条約5条が尖閣諸島に適用される」と明言した。その後、オバマ大統領が同様の発言(「日米安保条約5条が尖閣諸島に適用される」)を2014年4月の日本訪問時にすることになった。

 また、今年5月にはシンガポールにおけるシャングリラ会合において、傲慢に行動する中国に忠告を与えるとともに日米同盟の強固さをアピールした。以下に、ヘーゲル氏のシャングリラ会合におけるスピーチの主要な部分を紹介する。

●安倍首相の集団的自衛権行使を可能にする憲法解釈見直しを支持する。
●(中国の)上空通過と航行の自由を制限するいかなる試みにも反対する。中国による東シナ海での一方的なADIZ(防空識別区)の設定(これには日本が実効支配している尖閣諸島も含まれる)には米軍は拘束されない。

●オバマ大統領は尖閣諸島に対して日米安保条約が適用されることを明言した。
●日米は、この20年間で初めての日米ガイドラインの見直しを行う。安全保障環境の変化および自衛隊の能力向上を反映して日米関係が進化することを確信する。

●昨年12月の普天間代替施設の建設承認のお蔭で戦力再配置のロードマップで完全合意ができた。そして、米国の最新兵器を日本に配置してきた。例えばグローバル・ホークの三沢基地配備、F-22の嘉手納配置、MV-22オスプレイの沖縄配置である。
●アジアにおける米軍の態勢は優先される。特に日本、韓国およびグアムにおける米軍の態勢は優先される。

 このように主張したのだ。

(2)強圧的な中国に対して融和的な姿勢が目立つオバマ氏の側近の中で、中国に対し厳しく対峙した数少ない閣僚であった。

 例えば、中国が提案する新たな大国関係について本質的な態度をとったのはヘーゲル氏であり、オバマ氏の側近であるライス氏でもケリー国務長官でもない。2人はしばしば中国寄りの発言をし、日本をはじめとする同盟国や友好国に懸念を抱かせているのである。

 ヘーゲル氏はシャングリラ会合において次のように中国を批判している。

 「中国は、南シナ海を平和、友情、協力の海と呼ぶが、南シナ海における要求を主張する一方的な行動を続けている。中国は、スカボロー礁への接近を制限し、セカンド・トーマス礁におけるフィリピンの長期にわたるプレゼンスに圧力をかけ、数か所で領土要求活動を開始し、パラセル諸島近くの論争海域にオイル・リグを設置した」

 「米国の立場は明確で一貫していたもので、領土問題にはどちらの立場にも立たないが、いかなる国家であろうと脅迫、強制、軍事力の脅威を利用してその要求を強く主張することに反対する」

 「諸問題を外交、確立された国際的ルールや国際的規範に基づいて解決することを選ぶか、脅し(intimidation)や強要(coercion)による解決を選択するか、この地域はテストされている」

 「米中の軍対軍の関係における道ははるかに遠い。サイバー問題において、中国は米中サイバー作業グループを停止させたが、引き続き中国側にサイバー問題を提起する。なぜなら、サイバー空間における誤判断やエスカレーションの危機を低減させることが必要である」

 これらは極めて妥当な発言と言えるだろう。

(3)ヘーゲル氏は、オバマ大統領の政策を分かりやすく説明する代弁者であった。次のような彼の発言がそれをよく物語っている。

 「リバランス(米国のアジア太平洋重視の政策)は、ゴールではない、約束でもない、ビジョンでもない、現実なのだ」

 「オバマ大統領がウエストポイントで発言したように、米国は、常に世界の舞台でリードしなければいけない。我々がリードしなければ誰もリードしない。問題は、米国がリードするか否かではなく、いかにリードするかである」

 「米国の最大の強みの1つは同盟国および友好国のネットワークである。マーシャル将軍の言葉にあるように、国力は、ただ単に陸軍、軍艦、航空機の数にのみ基づくものではなく、同盟国と友好国の強さにも基づくものである」

 このような指摘は同時に、暗に強圧的に行動する中国には本当の同盟国や友好国がないことを示唆している。

(4)現在、中東に於いて最大の問題になっているイスラム国の脅威を強く訴え、イスラム国への断固たる対処を主張した。

 彼は、空爆だけではイスラム国を打倒できないとして、地上部隊の投入を主張している。陸海空の統合作戦が不可欠な現代戦において、地上作戦と空爆の併用は常識であり、彼の主張は戦術的には正しい。

 しかし、オバマ大統領にとって「地上部隊を派遣しない」という主張は彼の対テロ戦争の骨幹であり、譲れない一線である。だが、オバマ氏が考えている地上戦においてイラク陸軍を活用することや、シリア内の穏健な反政府グループを活用する案は「言うは易く行うは難し」の案であり、対イスラム国の作戦が成功しない確率は高くなる。

ヘーゲル氏ではなくオバマ大統領の側近3人が問題である

 オバマ大統領が中間選挙の大敗を受け、何人かの閣僚などを交代して人心の一新を図るのではないかという米国内外のマスコミの予測があった。その予測の中で名前が挙がっていたのがライス氏やケリー氏であった。このマスコミの人物評価は正しいと思う。

 筆者はさらにジョー・バイデン副大統領も辞任すべきだと思っている。それほどにこの3人は外交を含む安全保障分野においてオバマ大統領の足を引っ張っていると思えてならないのだ。

 オバマ政権の問題児3人衆の1人、ジョー・バイデン副大統領〔AFPBB News

 ただし、不適切な人選をして、米国の安全保障政策を評判の悪いものにしているのはオバマ大統領自身の任命責任である。

スーザン・ライス国家安全保障担当大統領補佐官の問題

 11月27日付の英フィナンシャル・タイムズ紙は、オバマ大統領は最近、長年信頼を寄せてきたライス氏を長とする「忠臣たちからなるチーム」を重視していると指摘している。

 ライス氏のやり方には仲間の民主党議員や彼女に近い外交関係者からも、「不躾で不愉快だ」という不満が出ている。それが時には日本、ドイツ、フランスなどの主要同盟国との関係がぎくしゃくする原因になっている。

 彼女は、2013年11月20日にワシントン市内の大学でスピーチした際に、米中関係について「新たな大国関係(new kind of great power relations)を機能させようとしている」と、中国は喜ぶが、日本が受け容れることができない発言をし、我が国を始めとする米国の同盟国に不安感を与えてしまった。

 米中の「新たな大国関係」については米中の思惑が違っている。つまり、中国としては、「中米は対等の関係である。米国は、中国が核心的利益と見なすチベットや新疆ウイグル自治区、台湾、東シナ海、南シナ海の諸問題に対しては口出ししない。さらに、太平洋を中米で二分し、それぞれの区域のことに関しては介入しない」という解釈である。

 米国にとって中国との新たな関係とは、「中国を国際社会における責任ある大国として、グローバルな諸問題解決に尽力し、国際法や国際的な基準に則って行動する国家となることを期待する」というものであるが、中国は決して米国の望むような国にはならないであろう。

 ライス氏が我が国をさらに不安にしたのが、同じ講演での尖閣諸島を巡る発言だった。

 「米国は主権の問題には立場をとらない」「日中の対立を先鋭化しないよう平和的で、外交的な方法を探るよう両国に促す」と発言した。

 これは尖閣諸島を実効支配する日本の立場や挑発的な行動に出る中国を無視した発言である。さらに、ライス氏は、日米安全保障条約が尖閣に適用されるという方針にも触れなかった。あまりにも中国寄りで日本の立場を軽視した発言であると言わざるを得ない。

ケリー国務長官の問題

 ケリー国務長官は、世界中の紛争などの火消しのためにめまぐるしくシャトル外交を繰り返しているが、見るべき成果が全くない。

 立派な外交官は、行動する前に、自分が解決すべき最も優先順位の高い案件は何で、その解決のための戦略や方策を持っているべきであるが、ケリー長官の動きを見ていると彼は本当に外交戦略を持っているのだろうかという疑問を抱かざるを得ない。

 問題児3人衆の1人、ジョン・ケリー国務長官〔AFPBB News

 また彼はアジアについてはもともと関心が薄く、失言長官としても有名である。数々の失言とアジアに対する無知さは、国務省の外交努力を台無しにしている。

 例えば、ケリー長官から「どうして日本はアジアで孤立しているのか」と問われた知日派の元米政府高官が、「それは中国と韓国だけのことで、日本の安倍政権は他のアジア諸国から歓迎されている」と答えるとびっくりしていたという。

 また彼は、4月25日にワシントンで開かれた日米欧の有識者による政策協議「三極委員会」で講演し、「中東唯一の道はパレスチナ独立国家樹立による2国家共存だ」と指摘し、「それができなければ、イスラエルは二級市民を作るアパルトヘイト国家になりかねない」と失言し、ユダヤ人の団体や共和党から引責辞任を求められた。この種の失言は数多くある。

バイデン副大統領の問題

 バイデン副大統領も評判が悪い。元国防長官ゲーツ氏によると、「バイデン副大統領はうぬぼれが強く、過去40年間の外交や国家安全保障に関するほとんどすべての主要政策で誤ちを犯してきた」と手厳しく批判している。

 10月5日付のトルコのZaman紙によると、バイデン副大統領は、自らの失言がトルコと米国の間に緊張を生んだとして、トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領に謝罪した。

 その失言とは、イラクとシリアでテロを起こしているイスラム国(IS)が勢力を拡大した際に、トルコも役割を果たしたという趣旨のものである。

 バイデン副大統領は、ハーバード大学で行った会見で、エルドアン大統領が、「あなたは正しかった。私たち(トルコ)は、多くの人間が(シリアへ)渡る許可を与えた。今は国境を封鎖しようとしている」と述べたと発言した。

 エルドアン大統領は、この発言に対し強く反発し、「絶対にこのような発言をしなかった」と述べた。エルドアン大統領は、バイデン副大統領に謝罪を求め、「この件に関して、もしバイデン氏がこのような発言をしたとしたら、彼はもう対話の相手ではない。トルコをこのように非難して責任を負わせるのは間違いである」と述べた。

 バイデン氏は、エルドアン大統領に電話をかけ、自らの発言について謝罪した。

 また、11月26日、イスラム国に対する対応でトルコのエルドアン大統領を説得しに行き、本人はある程度の成果があったとうぬぼれていたが、その直後27日にエルドアン大統領が厳しい米国批判を展開して面目丸つぶれになってしまった。

 エルドアン氏は、シリア内戦における米国の出しゃばり(impertinence)をこきおろしている。バイデン氏は、イスラム国に半分支配されているコバネ市を奪回するためにトルコは協力すべきだと圧力をかけに行ったのであるが、エルドアン氏は「我々は、米国の出しゃばり、(トルコの立場をわきまえない)無頓着さ、終わりなき要求に反対しているのだ」と公の場で米国及びバイデン副大統領を批判したのだ。

元国防長官ゲーツ氏とパネッタ氏のオバマ大統領批判

 オバマ政権6年間で3人の国防長官が辞任することになった。最初がゲーツ氏で、次いでパネッタ氏、そして今回のヘーゲル氏である。ゲーツ及びパネッタ両氏は、国防長官辞任後回顧録を出版し、その中でオバマ大統領を厳しく批判している。

 レオン・パネッタ元国防長官〔AFPBB News

 まず、ブッシュおよびオバマ両政権で国防長官を務めたゲーツ氏がその回顧録“DUTY”でオバマ大統領を厳しく批判している。

 ゲーツ氏は「オバマ大統領は、自らに仕える司令官を信頼せず、自らの戦略を信じていない。この戦争を他人事のようにとらえている。オバマ氏にとってアフガン戦争は撤退するだけのものだ」と指摘している。

 また、ドニロン前大統領補佐官ら側近が取り仕切るオバマ政権の態勢を歴代政権の中でも最も中央集権的で、安全保障に口を出すと指摘し、国防省の部下には「ホワイトハウスには情報を与えすぎるな」と指示していたと明かしている。これらの証言でも明らかなように、オバマ大統領とゲーツ国防長官や将軍の関係は緊密なものではなかったのである。

 対テロ戦争を主に国内政治として扱う習慣は執務室にまで持ち込まれ、オバマ氏自身の政策を台無しにした。アフガニスタンの場合が特にそうだ。ゲーツ氏は2010年初頭までに、そうした結論に至ったという。

 一方、パネッタ氏は、「オバマ政権はイラクで米兵を残留させずに失敗したが、アフガニスタンでは来年も米兵1万人を残留させる交渉を成立させて同じ轍を踏まなかった」と述べた。またそれと同様に、シリアの反体制穏健派への軍事訓練・武器供与を決断したのは「遅れたが、しないよりは良かった」と話している。

 さらに「もし米国がリーダーシップを発揮しなければ、他にどの国も代役はできない」、「政府も大統領も、世界のどの場所であろうと空白を放置できないことを認識した。放置すれば、そこは間もなく制御不能となり、わが国の安全保障を脅かす」と述べた。

 予算を巡る米議会との駆け引きにおいて、オバマ氏が「自分の考えを通す信念に欠け」、しばしば「戦いを避け、不満を述べるだけで機会を逸していた」と非難している。

 オバマ大統領による2012年の「レッドライン」発言は、シリアのアサド大統領が内戦で化学兵器を使用すれば、米国は軍事介入に踏み切ることを表明したものだが、アサドが化学兵器を使用したにもかかわらず、米国は軍事介入を避け、シリアの化学兵器放棄を国際協調の枠組みの中で進めることを選んだ。

 このことが米国の信頼性に打撃となり、米国の影響力が弱くなっていることを世界に印象づけることになってしまった。パネッタ氏やクリントン前国務長官、当時のデービッド・ペトレイアスCIA(米中央情報局)長官はシリアの反体制穏健派に武器供与する計画を支持していたが、オバマ氏は逡巡し、この問題を議会に投げてしまったという。

オバマ大統領のリーダーシップに対する疑問

 米国の相対的な国力が低下し、巨大な財政赤字削減の圧力の中でウクライナ紛争やイスラム国との戦いなどグローバルな諸問題を解決するのは非常に難しい。オバマ大統領が直面している難局を見事に乗り越えることは誰にとっても難しいことではあるが、オバマ氏のリーダーシップに筆者は違和感をもっている。以下3点指摘する。

(1)対テロ戦争の最高指揮官としての熱意・責任感の欠如

 オバマ大統領のイラクやアフガニスタンにおける戦争指導には最高司令官としての熱意を感じることはできない。オバマ氏からすれば、対テロ戦争はブッシュ氏から引き継いだ負の遺産であるという本音がどうしても出てしまうのであろう。

 対テロ戦争に熱心でない大統領と第一線で命を落としていく兵士の間には大きな溝があるように思えてならない。この点が、対テロ戦争におけるオバマ大統領の最大の問題点である。

(2)軍隊および軍人に対する軽視

オバマ大統領の6年間を観察して気づくのが軍隊および軍人に対する軽視である。例えば、今年9月23日の国連総会に参加する際、大統領専用機Marine Oneから出てきたオバマ大統領は、彼に敬礼する若い海兵隊員に対し右手にコーヒー・カップを持ったまま答礼をした。

 この行為はLatte Salute(カフェラテ敬礼)と呼ばれ、軍隊においては許されない行為である。軍の最高指揮官に対し敬意をこめて敬礼する若い軍人に対し余りにも礼を失する行為である。

 この行為に対し国内外から数多くの批判が寄せられたが、これがオバマ氏の軍に対する軽視の典型例である。そんな些細なことを批判しても始まらないと言う人は軍隊の何たるかを知らない人である。

 軍人は軍の最高指揮官である大統領の命令によって任務を遂行するのであり、そのために命を落としたり、両手両足を失うこともある。だからこそ軍人の敬礼には心からの敬礼を返すのが常識なのだ。

 13年間続いている米国の対テロ戦争において死亡した米国軍人は6800人以上であり、負傷者は5万2000人以上である。この膨大な犠牲者数に対して軍の最高指揮官としていかなる思いでいるかが問われるのである。

(3)オバマ政権に対しては、国家の秩序、社会の秩序を維持することの重要性を深く認識していないのではないかという疑問がある。

 ヘーゲル長官が辞任を発表したと同時期に米国のファーガソンにおいて暴動が起こった、黒人少年を射殺した白人警官の不起訴が決定したことに誘発された暴動である。国内の治安を維持する必要性を再認識した米国人は多かったと思う。

 筆者が疑問に思うのは国内の治安維持のために不可避的に成立したタイの軍事政権やエジプトの軍事政権に対するオバマ政権の不適切な批判である。

 米国の批判ゆえに両国政府は米国を離れ、中国やロシアの側に立つ可能性がある。各国には各国の事情があり、国内の治安を維持するための行動があることを認め、クーデターによる軍事政権であると言うだけでお節介な批判をしないことである。自らの価値観の押しつけこそ米国は慎むべきである。

今後2年間のオバマ政権に対する我が国の対処法

 オバマ大統領の任期はあと2年間であるが、この2年間において起こるであろうグローバルな諸問題に対してオバマ政権は適切に対応できるであろうか。もちろんグローバルな諸問題に対しては当事者自らがその解決に向けて全力で対処しなければいけないが、米国に期待される役割や責任も大きいのである。

 しかし、ライス氏を中心とするオバマ側近グループが今後2年間、安全保障を取り仕切ることになるので、この分野において多くは期待できないであろう。

 そして、ヘーゲル氏の後継が誰になるにしろ、過去3人の国防長官が味わったと同じ困難を味わうことになるであろう。

 特にイスラム国への対処、「中華民族の偉大なる復興」を目指す中国への対処、ロシアのプーチン大統領の他国侵略には毅然とした態度で臨んでもらいたいものであるが、過去6年間のオバマ政権の対処を振り返ると、多くを期待することはできず、大きな紛争が起こらないことを願うだけである。

 我が国にとって今後、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)、日米防衛協力ガイドラインなど多くの日米間の課題があるが、日本の国益を中心として主体的に粘り強く日米交渉に当たってもらいたいと思う。

 必要であれば、米国の次期政権の誕生を待って交渉するくらいの覚悟が必要である。焦って日米合意を追求する必要はない。

 我が国にとっては、益々レームダック化するオバマ政権を揺さぶる中国や、ロシア、北朝鮮の動きを警戒しつつ、これに適切に対処することが重要である。

 特に来年2015年は第2次世界大戦終戦70周年の年である。中国などは、米国をも巻き込んで敗戦国日本の孤立化を狙ってくるであろう。だからこそ我が国には強くて賢いリーダーの下に、ぶれない安全保障上の諸施策の推進が待望されるのである。

 米国の歴史において大統領末期になると歴史に名を残したいという大統領が結構いる。典型的なのはオバマ氏の前任のジョージ・W・ブッシュ氏である。彼は、政権末期に北朝鮮との関係を改善し歴史に名を残そうとし、あまりにも不適切な外交を展開したが、オバマ氏が同じ轍を踏まないことを望む。

 歴史に名を残そうという思いは、オバマ氏自身が主張してきた「馬鹿なことをしない」の「馬鹿なこと」そのものである。特に安全保障分野で馬鹿なことをすると世界の平和と安定に重大な影響を与えることになる。

 我が国にとって日米同盟は生命線であることに変わりはなく、覚悟して今後予想される諸問題に米国と協調しつつも、我が国として主体的に対処すべきであろう。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/42378

◆共和、民主両党から見放されたオバマ大統領
米中間選挙を前に漂流し始めた米国、世界の行方は

2014.10.31(金) 堀田 佳男

「米国はいま漂流し始めている」

 首都ワシントンのシンクタンクに勤務する知人はこう電話で告げてきた。

イスラム国への対応で民主党からも反発強まる

 11月4日の中間選挙を前に、オバマ政権の評価と民主・共和両党の攻防を聞くと知人は「漂流」という言葉を使った。

 バラク・オバマ米大統領〔AFPBB News

 その意味は、バラク・オバマ大統領が内政と外交の両面で国をリードし切れず、国家の行き先が定まらないということだった。知人はイスラム国への対応を例に挙げた。

 「オバマ大統領が9月にイスラム国の空爆に踏み切ったことで、民主・共和両党から反発を招いてしまいました。民主党リベラル派からは、『空爆したところでイスラム国を壊滅できるわけではないし、米国への反発が強まるだけ。軍事介入は間違いだった』という声が聞かれます。テロとの戦いで、米国はすでに約6800人もの命を失っています。戦争はもうたくさんという切実な思いがあります」

 「一方、共和党保守派からは、『イスラム国を叩くには空爆だけでは不十分。地上部隊を投入しない限り勝算は見えてこない』との意見が出ています。中途半端が一番いけないというのです。今のオバマ政権は行き場を失った漂流者になったかに見えます。民主党は連邦上下両院で敗退するでしょう」

 政治家が1つの事案で政治決断をした場合、有権者の意見は賛否両論に分かれることが多い。だがイスラム国への空爆問題でオバマ大統領は、両党のコアの支持層からそっぽを向かれているというのだ。

 オバマ大統領自身は再選の心配がもうないが、中間選挙で選挙に望む民主党議員(候補)たちは負の遺産を引きずりながら戦わざるを得ない。

 国内問題に目を向けても同じだ。オバマ大統領が力を入れてきた移民制度改革は、連邦上院でこそ法案が通過したが、共和党が過半数を占める下院では却下されてしまった。

 医療保険制度改革も議会を通過して法律になったものの、混乱が相次いだ。当初ウエブサイトでの申請ができなかったり、予算案をティーパーティ(茶会党)の下院議員から反対され、連邦政府機関が一部閉鎖されたりする事態を経験した。

 問題はそれだけではない、中間選挙を前に、オバマ大統領と距離を置く民主党議員たちが現れたのだ。それは優柔不断で確固たる指導力を発揮できず、理念的な政治を行おうとしている現職大統領への反抗として捉えられる。

反オバマを掲げたアラスカ州の民主党上院議員

 代表格がいる。アラスカ州選出のマーク・ベゲッチ上院議員だ。日本ではほとんど馴染みがないが、前アンカレッジ市長で2008年のオバマ・フィーバーの波に乗って民主党から上院議員に初当選し、今年改選を迎えている。

 同議員がいま苦戦を強いられている。というのも、アラスカ州は保守王国として共和党の地盤が強いところで、2008年の「オバマ・チルドレン」の1人として初当選した事実は、すでにプラスどころかマイナスに働き始めているのだ。

 ベゲッチ議員は共和党のライバル、ダン・サリバン氏に世論調査でリードされている。そこでベゲッチ議員が劣勢を跳ね返すために採った戦術は、民主党でありながらオバマ大統領と距離を置くことだった。

 日本であれば、自民党議員が安倍晋三首相を支持せずに国政選挙をするようなものである。党内からの反発と制裁が予想されるし、自民党議員という理由で1票を入れた有権者の気持ちに背くことにもなる。

 ただ米政界では党議拘束が緩いため、法案の採決時に党の決定に従わなくても構わない。議員自らの意思で投票できる。

 それでもあえてオバマ氏と距離を置く戦術は、何がなんでも自分だけは再選を果たしたいという我欲に映る。本当に民主党有権者から多くの支持が得られるかは疑問だ。まして共和党有権者からは「心変わりをした民主議員」とレッテルを貼られてしまう。

 唯一期待できるのが無党派層からの票だが、有権者の心を動かせるかどうかは分からない。ただ今週行われた世論調査では、ベゲッチ議員の支持が少し伸びており、サリバン氏とつばぜり合いを繰り広げている。

 ベゲッチ議員の選挙前の行動は、いまの米国が漂流し始めている一端を表しているかもしれない。

 さらに、オバマ大統領が2008年の選挙戦から繰り返し述べてきた人種や階層、性別などを乗り越えた「1つのアメリカ」という野望は、6年経っても実現できていない。「1つのアメリカ」どころか、米国を分断させてしまったとの見方さえある。

 それが大統領の支持率42%という数字に示されている。次の世論調査を見て頂きたい。CNNとORCインターナショナルという団体が行った調査結果だ。

オバマ施政に不満な国民が68%

 米国の現状に「大変怒っている」(30%)と「やや怒っている」(38%)と答えた人を合わせると68%になる。世論調査は質問の文章で結果が変わってくるが、現状に怒るということはオバマ政権の施政に不満であるということにつながる。

 米経済はリーマンショックから立ち直り、実質GDP(国内総生産)成長率も4-6月期で前年比年率4%のプラスを示すと同時に株価も伸張している。失業率は5.9%(9月)まで下がっており、数値の上では悪くはない。

 しかし有権者の現状への怒りは治まらない。経済指標には個人の生活が反映されないからだ。

 むしろハーバード大学経済学部ローレンス・カッツ教授が指摘する、24歳の若者の6人に1人(16%)は学業にも仕事にも従事していない米版「プー太郎」状態という事実の方が説得力を持つ。

 こうした社会状況を眺めると、オバマ大統領が率いる民主党が、中間選挙で躍進するとは考えにくい。共和党が下院で過半数を維持することはほぼ確実で、上院でも過半数を奪うことになりそうだ。

 というのも、中間選挙は歴史的に投票率が30%台であることが多く、若者が投票所に足を運びにくい。投票するのは中高年の有権者が多く、おのずと保守系の共和党議員に票が流れることになる。

 しかも中間選挙は、時の大統領と敵対する政党の有権者が「不満票」の意味合いで一票を入れる傾向があり、政権党は負けるのが常である。過去100年を見ても、政権党が勝ったのは3回(1934年、1998年、2002年)だけだ。

 ホワイトハウスと議会が違う政党であることの方がワシントンでは普通であるが、共和党の「打倒オバマ」の姿勢が緩むようには見えず、与野党間の対立は激化していくだろう。

 「漂流」という言葉はいまの米社会を的確に表現しているのかもしれない。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/42099

そして、大方の予想通り民主党は大敗を喫した。

◆米17州がオバマ大統領を提訴、移民制度改革で

2014年12月04日 AFP

【12月4日 AFP】米国の17州が3日、不法移民500万人に滞在を認める移民制度改革をめぐり、バラク・オバマ(Barack Obama)政権を提訴した。

 訴訟を率いるテキサス(Texas)州のグレッグ・アボット(Greg Abbott)司法長官は声明で、オバマ大統領が野党・共和党による議会での法案通過の妨害を回避するため大統領権限で一方的に決定した移民制度改革は、合衆国憲法を「踏みにじる」ものだと批判。「大統領は、議会が正当な手順に基づいて成立させた法律を正確に施行するという自らの責任を放棄し、その権限がないにもかかわらず、移民法を書き換えようとしている」と述べた。

 論争を呼んでいるオバマ大統領の制度改革の下では、米国内に5年以上居住し、米国の市民権保有者または合法居住者である子どもを持った数百万人の不法移民に対し、3年間の滞在許可が与えられる。大統領はまた、改革の実施後にはメキシコとの国境周辺にさらなる資源を注入するほか、国外退去処分は重罪犯を優先して行う方針に変更する方針を示している。

 だが、移民制度改革を実現させるためオバマ氏が大統領権限を行使したことに対しては、発表直後から「違法」や「憲法違反」といった批判が噴出していた。(c)AFP

http://www.afpbb.com/articles/-/3033373?pid=14896902


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