遊行吟遊

短詩型作品等

空と雲(5句)

2010-10-31 14:04:32 | 詩・短詩
紛れなきクレパスの色 秋の空

秋一日 句碑に身寄りの集ひけり

ヘリコプター 影まで紅葉に撮りこめり

行く雲や われも吹かれていくものぞ

どこぞやら 帰りたくなる鰯雲
                   (1990)

神話

2010-10-31 12:53:06 | 詩・短詩
いくつもの自動扉を通り抜け
いちばん奥まった広間らしいところで
車は止まった

そこには正体を隠し 目だけをくりぬいた
三次元の宇宙軍団が
なにやら無言で手速やに
鋭利な刃物をいじくっていた
無菌衣を纏ったわたしの体は
一糸纏わぬ裸にされた

冷たい液体が体一面に
たっぷりと塗りたくられると
左の脇腹から垂れていくものを感じた
「分かりますか」
「はい」
「左側に麻酔はかかっていません、右側は分かりますか」
「分かりません」
こうして何度も時間をかけて
折り紙を折り重ねるようにして
焦点を合わせていくんだと感心しているうちに
わたしの心は肉体から分離し始め
他人の目で 自分の心電図と体を眺めていた
刃物は暖かで 体をなめまわす感触だった

肉体は焼かれてもこれなら魂は滅びることはない
死ぬっていうことは
ひょっとすると、こういうことかもしれない
神話は 嘘ではないかもしれない
一瞬だけ、そう思った
                       (1984)

台風

2010-10-30 11:41:47 | 詩・短詩
唸りを 轟かせ
天空に 巻き上がり
恋に焦がれた末の
呪いの化身のように 荒れ狂う風と雨

ほら、こんなにも 激しく
雨戸を叩き続け 
助けを求めて絶叫している
乱れた髪からは 滝のように滴る雨雫

わたしと言えば  
蝋燭の火影が揺らめく部屋の中
この自然の呪いの到来の今こそ
思いの確かなありようを
形に表わす時が来た

今こそ命がけで 
救助のために
風と雨の中に
躍り出ていくのだ


己が身を焼き尽くしていく一本の蝋燭が
部屋に黒く揺らめかす
不気味な己れの影を
凝視しながら 誓うのだった
                     (1960)



秋祭り(5句)

2010-10-30 11:15:03 | 詩・短詩
いにしへの慣ひを今に秋祭り

村廃れ 今年も屋台 ひとつ減り

ひょっとこが 屋台の奥で ひと休み

屋台 小屋に 今年も無事に 収まりぬ
                  
七里香 過去のごとくに 匂ひくる
                      (2010)