いくつもの自動扉を通り抜け
いちばん奥まった広間らしいところで
車は止まった
そこには正体を隠し 目だけをくりぬいた
三次元の宇宙軍団が
なにやら無言で手速やに
鋭利な刃物をいじくっていた
無菌衣を纏ったわたしの体は
一糸纏わぬ裸にされた
冷たい液体が体一面に
たっぷりと塗りたくられると
左の脇腹から垂れていくものを感じた
「分かりますか」
「はい」
「左側に麻酔はかかっていません、右側は分かりますか」
「分かりません」
こうして何度も時間をかけて
折り紙を折り重ねるようにして
焦点を合わせていくんだと感心しているうちに
わたしの心は肉体から分離し始め
他人の目で 自分の心電図と体を眺めていた
刃物は暖かで 体をなめまわす感触だった
肉体は焼かれてもこれなら魂は滅びることはない
死ぬっていうことは
ひょっとすると、こういうことかもしれない
神話は 嘘ではないかもしれない
一瞬だけ、そう思った
(1984)