政治家の値打ち(S20・12・12)
進歩党の党首たることに二の足を踏む渋沢蔵相は「自分はその柄でない」といい、「今までの嘘の生活の上塗りをすることは面白くない」という。この率直な反省に蔵相の人柄がうかがわれる。率直に物をいわぬことが政治家の第一資格とされているらしい政界で、嘘で固めた人間から見れば、こうした心境吐露はいまだ乳臭を帯びた青二才の口吻に似ているかも知れぬが、政治家に国民が要求するのはごまかしや責任回避でなく、反省の資質と正直な人格である。
戦争犯罪人に指名されても、なおかつ「我に責任なし」と噴く新聞人がある。こういうのを信念の強固を以て評すべきではない。無反省で心臓が強く頑迷度し難しと言えば足りる。泥棒にも三分の理屈はあるが、三分のために残る七分の理屈は没すべからず、これが公正なる客観的判断である。
文相時代に、京大事件で学問の自由を弾圧した鳩山氏が、今日「自由の家元」のような顔をして自他共に怪しまぬのは最も怪しむべきであり、前記の頑迷な新聞人と並んで無反省の双璧である。日本の自由の守り本尊におさまってデモクラシーの霊験を独占しようというのは片腹痛い。軍閥に散々瞞されて苦杯を飲んだ国民は、今度こそは滅多なことでいかがわしい祭壇に柏手一つすら打ちたがるまい。
政治家の値打ちは実績を以て判定すべきであり、「何をいうか」ではなく、「何をなしたか」である。
渋沢 敬三さん
祖父が、渋沢栄一さんで、渋沢さんは、「龍馬伝」でおなじみの、あの岩崎弥太郎さん(三菱財閥の創始者)の孫さんと結婚している。