ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

井上ひさし作「小林一茶」

2015-06-28 22:02:07 | 芝居
4月28日紀伊國屋ホールで、井上ひさし作「小林一茶」をみた(演出:鵜山仁)。

江戸で起きた大金盗難事件。容疑者は俳諧師一茶。同心見習いの男はお吟味芝居を仕立て、自身が一茶を演じながら、彼をよく知る町の住人
たちの証言をつなぎ合わせていく。そこに浮かび上がってきたのは、俳諧を究めようともがき、一人の女性を命懸けで奪い合った一茶と
宿敵竹里(ちくり)の壮絶な生き様と事件の真相だった…。

一つの事件に焦点を当て、一茶の人と人生をあぶり出そうという一風変わった趣向の作品。
例によって歌と踊りが入るのには閉口した。

俳句が山盛りで楽しい。娯楽の少なかった江戸時代、何の道具もいらない俳句作りに多くの庶民が夢中になったというのも無理はない。
賭け事にまで発展した?というのには驚いた。

俳句についての作者の言葉がいい。「言葉はそのままではバラバラになっている。それを、5・7・5という決まりでもって重しを
かけて…」詩歌一般に言える表現だ。

お米役などの荘田由紀は今回紅一点。声が素晴らしい。所作もセリフ回しもさすがにうまい。
主役の和田正人はTVの朝ドラで人気急上昇の人らしいが、評者は初めてみた。その熱演ぶりと演技の確かさにびっくり。
竹里役の石井一孝はミュージカル畑の人だそうだが、この人もうまい。最近こういう器用な人が何人かいる。この人はその上色気がある。
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T.ラティガン作「ウィンズロウ・ボーイ」

2015-06-22 15:55:25 | 芝居
4月25日新国立劇場小劇場で、テレンス・ラティガン作「ウィンズロウ・ボーイ」をみた(演出:鈴木裕美)。

第一次世界大戦前夜のロンドン。ウィンズロウ家は銀行を退職した父アーサー、母グレイス、婦人参政権論者の長女キャサリン、
オックスフォード大学生の長男ディッキー、海軍兵学校で寄宿生活を送る次男ロニーの5人家族。今日はキャサリンの結婚が決まる日。
そこへロニーが一通の手紙を持って突然帰って来る。校内で5シリングの窃盗を働いたため退学に処す、という内容だった。
「僕はやってない!やってないんだ!!」無実を訴えるロニーの言葉に、父アーサーは息子の名誉を守るため、ある決心をする。それは
ウィンズロウ家の人々だけでなく、世論をも巻き込む大きな論争へと発展していく…。

20世紀英国を代表する劇作家テレンス・ラティガンが、実際の事件にヒントを得て書いた4幕劇(チラシより)。
ラティガンと言えば、2011年にテアトル・エコーの「セパレート・テーブルズ」をみたことがある。当時のブログにも書いたが、
人気作家というだけあって作劇が非常に巧み。日本とは全然異なる厳しい階級社会である英国が舞台なので、そこも興味深いが、人間を
見る目が温かく、ユーモアがあり、後味がいい。思い返してみると、よい芝居の見本のような作品だった。

今回、父親役の小林隆がなかなかの好演。評者にとってこの人は、三谷幸喜の「古畑任三郎」シリーズで自転車に乗って来るおまわりさん
の印象が強い。この父親は、一見怖いが実は愛情深く、息子のために信念を貫き通す忍耐心の持ち主。
子役(ロニー役)はセリフ回しが拙くてよく聞き取れなかった。
超一流の弁護士サー・ロバート役の中村まことはメリハリの効いた気持ちのよい演技。彼がロニーの無実を確信する一幕のラストは
早くも感動的で、2幕への期待が高まる。
父はついに裁判に訴えることにしたが、そのことによって一家は大きな犠牲を払うことになる。長女の婚約は解消され、長男は大学を中退
して就職。メイドも解雇されそうになる。だが兄姉たちは決して父と弟を恨んだり怒ったりしない。当惑し、悩みはするが、父の行動を
理解し受け入れる…。
長女ケイトは最初、政治的理念の違いからサー・ロバートに激しい敵意を燃やしていたが、少しずつ彼を見直すようになり、二人はいい
ムードになるが…。
観客としては二人に結ばれてほしかったが、そこは英国流。ほんわかとほのめかすだけで残念ながら幕。


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「20000ページ」

2015-06-14 23:40:57 | 芝居
4月20日文学座アトリエで、ルーカス・ベアフース作「20000ページ」をみた(文学座アトリエの会、演出:中野志朗)。日本初演。

歴史全集が詰まった巨大なダンボールが、トニーの頭上に落ちてきたが、幸い怪我もなく脳に損傷もなかった。ところが彼はなぜか精神科病院に
入院させられる。恋人リーザが病院に駆けつけると、そこには第二次世界大戦の歴史書20000ページ分の知識を持ったトニーがいた。落ちて
きた本の中身がすべて知識として彼の脳にインプットされていたのだった…。

主演のトニー役の采澤靖起がすごい。劇中「君は声がいい」と言われるシーンがあったが、まさにピッタリ。声がいいだけじゃない。膨大な、
しかも覚えにくいセリフを破綻なく消化して自分の言葉にしている。生活能力はないが、まっすぐな正義感を持つ青年を熱演。今年の最優秀賞候補
かも。ちなみにこの人は、昨年の「お気に召すまま」で惚れ惚れするようなオーランドーを演じた時から評者が目をつけていた人。

病院に駆けつけたリーザ相手に、女性医師が陳腐な認識論を延々と繰り広げる。これが実に失礼で腹立たしい。まあドイツ語圏の作者だから理屈
っぽいのは仕方ないかとも思うが、この時の会話が後の場面につながるわけでもない。何のためにこの場面を入れたのか不明。

芸能マネージャー(高瀬哲朗)が登場してようやく話がうまくころがってゆく。

歴史書に引用された戦時中の手紙をかつて書いた当人であるオスカーは、戦後を生き延びており、トニーの前にほほえみつつ現れる。
彼は言う、「僕は一生死ぬまで嘆き悲しみ続けなきゃいかんのかね」「あの頃のことは早く忘れてしまいたいんだよ」と。
ここを書いてくれてよかった。こういう気持ちは、日本でも、戦争中辛い目に合った多くの人が書いている。
だがもちろん、忘れてはならないこともあるのだ。過去をちゃんと記憶し記録し検証しておかないと、再び同じような悲惨なことがきっと起こる。
だから難しい。

終わってみれば、「アルジャーノンに花束を」のような印象を受ける。マッドサイエンティストが医学への揶揄を表している。

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蓬莱竜太作「正しい教室」

2015-06-05 23:07:49 | 芝居
4月3日パルコ劇場で、蓬莱竜太作「正しい教室」をみた(演出:蓬莱竜太)。

母校の小学校の教師となった菊地(井上芳雄)は子供を亡くした同級生小西(鈴木砂羽)を励まそうと同窓会を開く。そこに、呼ばれていない
はずの元担任寺井(近藤正臣)が現れて…。

これまで蓬莱の作品は4つ見てきた(「まほろば」・「楽園」・「木の上の軍隊」・「漂泊」)。中でも最初に見た「まほろば」が衝撃的と
言えるほど面白かったが、この作品はあれに勝るとも劣らない。

よくできた芝居はいずれも何らかの謎解きを含む。登場人物たちの会話から、互いの関係、これまでのいきさつが少しずつ分かってくると同時に、
そこに何かしらひっかかるところが現れ、そのわけを知りたいという欲求が観客をぐいぐいと芝居の中に引きずり込んでゆく。
そして、ついに霧が晴れるように真相が明らかとなった時、得られる快感は大きい。
この芝居も幸いなことにこういう喜びを与えてくれる類のものだ。

かつての同級生が三々五々集まって来る。それぞれが現在の生活に大小の悩みを抱えているが、久し振りに会い、懐かしい思い出を語り合い、
楽しい会になりそうだった。そこに幼い息子を亡くした小西が、或る思惑を胸に入って来る。なぜか妹に付き添われている。そして昔みんなに
嫌われていた担任の寺井先生が突如登場(乱入?)。皆は驚き、帰ってもらおうとするが、彼はポストに招待状が入っていたから来たと言う…。

小西の息子の死の謎、寺井の足の怪我の由来、菊地の過去、恋愛騒動…。

タイトルもいい。やはり言葉のセンスが感じられる。何しろこの「正しい」という語ほどやっかいな言葉はないし、この形容詞の後に来る名詞が
「教室」だなんて、これは才能と言うしかない。

寺井先生役の近藤正臣はナマでは初めて見たが、さすがにうまい。この教師も、実はただの悪い奴ではなく多面的な側面があることを、説得力ある
演技で表現。コメディセンスも十分。

菊地役の井上芳雄はミュージカル畑の人らしいが、最近はストレートプレイでも大活躍。そもそも彼が蓬莱に執筆を依頼して出来た作品だという
だけあって、出色の出来。
小西役の鈴木砂羽はテレビドラマで何度も見たことがあり評者が好きな役者だが、ここではこれまでのイメージと違ってとことん暗い。そのため
(後方の席だったこともあって)始めはこの人だと気づかなかった。いつも彼女が演じるのは姐御肌で明るくてテキパキと頼もしい女性だった。
自分ではこういう役を演じるのはどんな感じなのだろうか。
とは言え、今回も彼女の演技は的確。かたくなな思い込み、理不尽な要求、そしてその根拠が崩された時、人間の普遍的な弱さが痛みと共に現れる。

いつも思わされることだが、この作者の人間を見る目は温かい。
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