不明水兵の身柄確保

神奈川県横須賀市の路上でタクシー運転手を刺殺し逃走した（20.3.19.9:20pmごろ）容疑者として、米軍兵士が米海軍によって拘束された。

　■米海軍、不明水兵の身柄確保　運転手刺殺との関連捜査へ（朝日　08.03.22.11時56分）

タクシーの運転席に、被害者の高橋正昭さん（６１）はシートベルトをしたまま横たわり、その首には刃渡り約２０センチの文化包丁が突き刺さっていたという。司法解剖によると刃先は肺の上部まで達していた。死因は胸部大動脈の刺し傷による失血死。争った形跡がないので、背後からいきなり刺されたと県警はみている。運転席の下に米兵が使う星条旗マーク入りのクレジット・カードが落ちていて、このカードから容疑者の身元が割りだされた。

ってニュース。

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このところ米軍にしろ自衛隊にしろ、 兵士たちによる陰湿で凶暴な犯行がつづいているようだ。沖縄駐留の米兵士によるレイプ事件（2.10）、自動操舵で漁船群に突っ込んでいったイージス艦「あたご」（2.19）がホットなニュースだが、ほかにも岩国駐留の海兵隊によるレイプ事件、自衛隊内部でのそれ、防衛省幹部による利益誘導など、ちょっとネット検索しただけで、軍に関係した犯罪は山ほど見つかる。

こうした事件が起こるたび、抗議や批判の声が沸き起こるのは当然だと思えるが、その一方で、事件を一日も早く忘れ去るための努力もおこなわれる。

沖縄駐留の米兵士によるレイプ事件（2.10）では、あまり騒ぐと日米安保の障害になり、また被害を受けた中学生に記憶を再生させて何回も同じ苦しみを与える（「セカンド・レイプ」という言葉が使われた）と主張する人々がいた。こうした問題の解決には、事件を話題にしないことが、つまり忘れることが一番いい方法なのだと。

イージス艦の事件では、石破防衛相を含んだ防衛省関係者による情報捏造の疑惑が取りざたされたあと、福田首相と石破防衛相、船長の船渡健１等海佐らが遺族や漁業組合を訪れて、涙涙涙の会見と謝罪をおこなった。その後は議会もマスコミも、事件から急速に遠ざかっていった。

兵士は殺人マシーンだ。自軍への「犠牲なき戦争」（パウエル元国務長官）を遂行するために、一人一人の兵士たちは熟練した殺人技術が求められ、指一本でも人は殺せると豪語するまで鍛えあげられる。小学生や中学生の少女を拉致して押し倒すことなど難なくできる。ましてナイフや軍艦などの武器があれば、無防備な相手を殺すくらいは容易な話だ。それが兵士の仕事でもある。

米兵士の性犯罪についていえば、非難が日米安保の障害になるという理屈は、それほど理解しにくいものじゃない。オレオレ詐欺が発生する原因は、詐欺師たちの言葉を信じるからだ。スーパーやコンビニの万引きは、店員がうっかり犯行を見逃すから起こる。サイフが盗まれるのは、盗まれやすいところにサイフを置いた被害者の不注意が引き起こす犯罪だ。満員電車で男に下半身を触られるのは、触られやすいところに女性が下半身をさらすから。被害者さえ被害を訴えないかぎり、性犯罪など起こりようもない。

こうして、一日も早く事件を忘れたい人々は完璧に倒錯する。
被害者こそが日米安保の障害であると。

彼らは思いだせないのだ。いくら被害者を視野の外に置いて事件を忘れようとしても、日本の少女たちを狙った米兵の性犯罪が取り除けないことを。何回でもくりかえして日米安保の障害物（＝被害者）が発生してくることを。思いだせたとしても、彼らにはその理由が考えられない。被害者ではなく、加害者を取り除けば、根本的な解決につながるかもしれないとは考えられない。

なぜなら、彼らが見て見ないふりをしているのは、たえず彼らの視野から外されている対象物は、日本の小学生や中学生というレイプ事件の被害者たちではなく、ほんとうは米軍兵士たちのリアルな姿なのだから。彼らにとって米軍は「ただしい」軍隊であり、その構成員である米兵は神が使わしめた天使たちなのである。彼らには、彼ら自身のこの「幻想」は見えない。自分を拘束して、自分の言論を生みだしているシステムとしての「幻想」は、ほとんど無意識になって精神の闇にひそんでいる。

ただ、米軍を神の軍隊だとする認識の起源は古く、いまは世界金融の混乱に予想される忌まわしい「帝国の没落」が、彼らの頭脳を迷走させていることだろう。日本の少女たちを守り、日本人の生命を守る方法とはなにかを中心にすえて考えなおし、正気を取りもどし、一日も早く倒錯の深淵から立ち直ることを祈っている。無理かもしれないが。