音楽座ミュージカル/Rカンパニー『マドモアゼル モーツァルト』PROMOTION-DVD
音楽座/Rカンパニーより厚手の封書が届いた。何かと思ったら、次回公演『マドモアゼル モーツァルト』の招待状とプロモーションDVDである。さっそく拝見。
まず、若手看板男優の吉田朋弘が作品を紹介していく。93年版の舞台映像の抜粋に、スポットCMのような公演案内が入る。そして、今回新たに抜擢された主役2人もコメントしている。モーツァルト役の高野菜々(こうの・なな)に、コンスタンツェ役の安彦佳津美(あびこ・かつみ)である。公演に向けての抱負を語った後に、デュエットナンバー「朝焼け」を歌う。録音スタジオのブース内で歌う映像はクオリティが高い。そこに衣装をつけたカンパニーメンバーたちのイメージショットがインサートされていく。プロに発注して製作した、かなり力の入った映像だ。
それで肝心の歌だが、これが思いのほか良い。高野は透明感のある声質に、嫌みのない自然で伸びやかな発声、的確で美しい発音、息遣いと感情を同調させる呼吸配分を会得している。どうやら、かなりきちんと声楽を学んできた人のようである。人柄も素直で純粋な印象。気持ちを無理なくストレートに声に乗せていけるタイプで、傾向としては平原綾香と似たようなタイプの歌い手だろうか。この人なら疑いなくモーツァルトに適役、と思わず聴き入ってしまった。
一方、コンスタンツェ役の安彦も基礎がしっかりしていて、安心して聴ける。人柄としてはあまり自己主張するタイプではなく、控え目で大人しい印象。しかし、正確な発声の中から情感が滲み出るような歌い方で、アマデウス(神童)を見守る妻を演じるのには、やはり適役だろう。声域としては高野より若干低いメゾソプラノようだが、二人とも声質が似ていて、ハモルと心地よい響きになる。ちょっと由紀さおり&安田祥子姉妹のデュオを連想させるような、とても良いコンビネーションだ。
最後に、Rカンパニー全員が稽古場で勢揃いして、コーラスナンバー「ラストテーマ」を合唱する。カメラ目線で懸命に歌う姿に、公演へ向けた意気込みのほどがよく伝わってくる。これは見にいかなくては、と思わせるものがある。
それにしても、Rカンパニーはなぜこんなにプロモーションに力を入れているのだろうか。おそらくここが正念場という意識が強いのかもしれない。旧音楽座時代には、『シャボン玉とんだ宇宙(そら)までとんだ』『星の王子さま』など、レパートリーとなる名作がいくつもあった。『マドモアゼル モーツァルト』もその時代のヒット作である。しかし、運営母体の会社ヒューマンデザインの経営トラブルからカンパニーが一時解散となり、また当初より脚本・演出など中心的な存在として活躍した横山由和氏との著作権の訴訟問題が続いていた。訴訟問題は数年前にようやく和解が成立し、かつてのレパートリーを存続上演できる可能性が強まって一息ついたところへ、今度は小室哲哉氏の著作権詐欺事件である。
『マドモアゼル モーツァルト』は、モーツァルトが実は女の子だったという奇抜な設定による福山庸治の漫画を原作とし、小室哲哉氏に楽曲を依頼して成功したヒット作である。1991年の初演以降、92年、93年、96年と再演を繰り返してきた。私も音楽座のレパートリーの中では最も好きな作品の一つである。その理由はやはり楽曲の良さにある。
日本のミュージカルというと、東宝ミュージカルや劇団四季に代表されるようにいまだに輸入ものが圧倒的に多く、純国産のオリジナル作品は少ない。そうした中で海外にも輸出できそうな作品となると、さらに心細いのが現状だ。しかし、『マドモアゼル モーツァルト』なら、海外に出しても遜色がないのではないかと夢想したことがしばしばあった。
モーツァルト同様、小室楽曲は抒情的なメロディが親しみやすく、リズムにも軽快な疾走感がある。どこかクラシカルな品性を持ちながら、ポップでもある。小室本人も自分の楽曲が日本のみならず、海外でも通用すると考えたのだろうし、また誰もが期待したことだったろうと思う。それはミュージカルでも同様だ。
2005年、音楽座がRカンパニーを旗揚げして再出発した時に、第1回目の公演として上演したのもこの作品だった。ただし、この時は『21C:マドモアゼル モーツァルト』とした別バージョンで、音楽は現在同劇団で音楽を担当している高田浩をはじめ、八幡茂、井上ヨシマサの3人によるものだった。今回の公演で、ようやく小室哲哉のオリジナル版が再び上演される。
このDVDは、おそらく昨今の小室氏のスキャンダルを意識しての対応策なのだろう。映画『アマデウス』に描かれたような、一般常識を持ち合わせない豪遊ぶりが奇妙に符号するモーツァルトと小室ではある。しかし、その楽曲の美しさはまぎれもないものではないだろうか。次回公演『マドモアゼル モーツァルト』は、Rカンパニーの真価が発揮されるとともに、小室哲哉の音楽性が再認識される良い機会となるのではないか。同時に、芸術作品とアーティストの素行との関係をも、深く考えることになるかもしれない。
●内容
作品案内役 :吉田朋弘
※1993年版舞台映像抜粋
※公演情報紹介
東京公演 :2008年12月18日(木)~28日(日)@東京芸術劇場・中ホール
神奈川公演:2009年1月31日(土)~2月1日(日)@グリーンホール相模大野
主役挨拶
モーツァルト役 :高野菜々(こうの・なな)
コンスタンツェ役:安彦佳津美(あびこ・かつみ)
※デュエットナンバー「朝焼け」(高野&安彦)
※コーラスナンバー「ラストテーマ」稽古場合唱(Rカンパニー)
収録時間11:14
非売品
www.ongakuza-musical.com
(2008.11.27.)