goo blog サービス終了のお知らせ 

VANNON32のブログ  『生命の實相』哲學を學ぶ

谷口雅春大聖師の教えを現代に生かす

[寓話] 幸福への道

2015-05-08 13:25:50 | 生長の家

          生長の家創始者  谷 口  雅 春 大聖師


 それはギリシャの街です。 昔のことです。

 一人の賢者が街のまがり角に坐っていました。 そこへ腰のすっかりかがんだ人がやって来てその足もとにすわって、

 「賢者さま、どうぞわたしをお救け下さい」 と申しました。

 「あなたのなやみは一体なんですか。 その苦しそうな息づかい、そのなやましい眼つき、つかれた歩調、あなたがなやんでいることは一眼みてわかります。 何なと力になってあげましょう。 あなたの苦しみは何ですか。 おっしゃって下さい。」

 この賢者がいいますと、疲れた人はその濁った眼を地面にふせて、おそるおそる申しました。

 「賢者よ、わたしの苦しみと申上げましたらあまりにも多いのです。 浜の真砂はかぞえられても、私の苦しみはかぞえられそうもありません。 私は金もなく、仕事もなく、健康もなく、友達もないのです。 すべての善いものが悉くくだけてしまったのです。 悪い事だけが、群って集ってくるのです。 どんな手段を講じても、この不幸には敵たいすることは出来ないのです。」

 賢者は答えました。 「もう、あなたの云うことはそれでわかりました。 可哀相に! 併し、あなたには、たった一つその不幸から逃れる道があるのです。 あなたがその道へ行くならば、その不幸が一つでも、数多くでも区別はありません。 みんな救われる道なのです。」

 「それは一体どんな道ですか。」

 「それは光の道なのです。 光が闇によって遮られたのを貴方は見たことがありますか」

 「え ・・・・ 」

 「それは空気のように無抵抗の道なのです。 どんなにくだいても空気はきずつくことがないでしょう。 空気には如何なる重荷もかるく、光にはどんな闇も明るいのです。 神、わが軛は易く、わが荷は軽しと仰いました。」

 「その光の道を、空気の道を教えて下さい。」 となやんでいる其人の眼は輝いて見えました。 「このままで私が歩いていると、私はもう街の埃の中に倒れて死んでしまうほかはありません。 どうぞ私が再び力をとり戻して立上れる其の新しい道をお示し下さい。」


 その時、賢者は指を向うに向けました。 そして 「あれを御覧なさい」 と云いました。 「あそこに水甕があります。」

 道ばたの草むらの中に水甕があって、その中には濁った水がたまっておりました。

 「あの水甕の中の水は濁っておりますが、最初からあんなに濁っていたのではありません。 あれは、お空から降って来た美しいキレイな雨水がたまたまあの中へ陥ち込んで、再びお空へ帰りたいと思っているのです。 さてどうしたらあの雨水がお空へ帰って行くことが出来るとお考えでしょうか。 ・・・・ 」

 なやんでいる人に答えることは出来ませんでした。 ジッと聴き入っているばかりです。

 賢者は言葉をつぎました。


 「あの雨水が、若しあの甕からあせって逃れ出ようと思うならば、それは却って下に溜っている濁りをかき立て、自分が‘きたなく’なるばかりです それなら、濁りを沈める沈殿剤と云うのでも入れたら、一寸みると澄み切るように見えましょうが、それでは最初の汚水を次の沈殿剤に置きかえたに過ぎないのです。 それでは却って水そのものの純粋をそこあうばかりです。 若し手を壺の中へいれて、その泥土を下へ沈めようとして押し下げでもしようものなら、折角、底に沈殿していた泥をかきまぜて水は一層きたなくなるばかりです。 あなたよ、どうしたら此の雨水が、純粋に元のきれいな水になって、あのお空へかえって行くことが出来るとお考えですか。」

 「わたしにはわかりません。」

 「この壺の濁りの中に陥った雨水が、きれいな水になってお空にかえることの出来る道はただ一つ上を見ることです。 あせることでも騒ぐことでもありません。 誰にでも悩みを解消する道はひらかれているのです。 これはどんな人間的な手段をも捨ててただ上を見ることです。 上を見てそのまま素直に、太陽の光に、その愛に、その温かさにまかせることです。 そのとき、どんなに今落ち入っている壺の泥が深くなろうとも、雨水は純粋な水蒸気になってお空にかえることが出来るのです。 それと同じく、あなたは上を見ることです。 悪に抵抗(てむか)うな。 悲しみの中にあせることをするな。 これは壺の中のよごれをかきまわすことにすぎないのだ。 抵抗(てむか)わないとき、悪は消え、不幸は消える。 そのまま素直に光の導きに従って天国へのぼるのです。」


 なやんでいた人の顔は急に明るくなったのです。 その瞬間、まるで太陽に照らされた光のような表情にかわりました。

 「わかりました。 ありがとうございます。 泥水に抵抗(てむか)わないと同じように、私は私の不幸に抵抗(てむか)わないで、素直に光ばかりを見詰めて生活してまいります。」 こう云って彼は一礼すると、街を蘇生(よみが)えった生々した足どりで歩き出しました。

 
 太陽が輝いていました。 彼の前途に、そして彼の足もとに。 賢者はソクラテスでした。 ソクラテスは彼の後姿を、しばらく合掌して拝んでいました。



       『白鳩』 誌  昭和22年10月号



     ‐‐‐‐‐‐‐

 谷口雅春先生は、真理を易しく解り易く

 戯曲、小説、童話として表現されていました。

 

コメントを投稿

サービス終了に伴い、10月1日にコメント投稿機能を終了させていただく予定です。