生長の家副総裁 谷 口 清 超 先生
〈昭和〉天皇陛下がヨーロッパにお出発になる朝は、拭い去られたような晴天であった。 その前日日本列島を襲った台風は、全く跡形もなく消え去っていた。 私は当日羽田空港にお見送り申し上げていたから確かであるが、陛下が飛行機に御搭乗になられる迄は、いささかスモッグ気味の天候であったが、いざ御搭乗になられるという時には、カラッと晴れ上ってしまった。
又、天皇陛下がヨーロッパをお巡りになられる先々でも、常に晴天はついて廻った。 あの霧で有名なロンドンですらも、3日連続して秋晴れの上天気であったと外電は報じていたのである。 これは決して偶然ではない。 天候でも、地変でも、人と心と無関係ではないのである。 「環境は心の影」 であり、人心の投影なのである。
このことがわかると、人間は一切を支配する王者となることが出来る。 まして自分の身体が支配出来ないということはない。 一切の天も地も、心の如くあらわれて、吾々の周辺を厳飾するのである。
しかもそれは、念力をもって雲を呼び、地を裂き、水を湧かすのではない。 そのような念力もあるにはあるが、もっと自然な心のままが外界に映し出されるという原理によるのであり、鏡に影が映るが如くあらわれるのである。 天皇陛下の御日常や、御旅行先での、あのまじめな、純粋な、誠実なお姿を拝すれば、念力以外の、もっと別の心の法則があらわれていることが分る筈である。
それ故、全ての人々の心がおだやかになれば、地球はやがて天変地変を失うであろう。 台風も適当なところを、適当なだけ通って行って、人々には恵みの雨をふらすだけのものとなる。 現に沖縄へ行ってみると、その水は、ほとんどが台風がもたらしてくれたものであることが分る。 台風は南の島にとっては、必要なものなのであるが、ただ、あまりに接近しすぎたり、巨大でありすぎると、そこに害があらわれてくるだけである。
又、八重山群島に行ってみると、そこにはハブが棲んでいて、今でもハブは日に10匹以上も出るという話をきいた。 そしてこの人は、ハブにあっても、ハブは決して人間に向って襲っては来ないものだというのである。 ただハブが人を襲うのは、ハブを傷つけたり、ハブをふみつけたりした時、反射的に噛みつくだけである。
自然と、その中の生物とは、人間を傷つけるようにつくられたものではないのである。 本来はお互いに調和して、人間にとって恵みをもたらすだけのものであるが、人間の心が乱れている時、その乱れが環境の乱れとなってあらわれ、生物同士お互いに犯し合い、天は荒れ、地は狂うのである。
それ故、一切の自然と、生物とを、支配するものは、人間であり、人の心である。 人間は本来王者なのであるが、正しく王者の心を持つ者は、大和の心の持主であり、誠実にして、柔和なる者でなければならない。
『精神科学』 昭和47年1月号 巻頭言