歌猫Blog跡地

漫画「鋼の錬金術師」と荒川弘について語るブログ。更新終了しました。

キンブリーの最期は

2007年11月28日 | ◆小ネタとか突っ込みとかつぶやきとか
キンブリーは、実に面白いキャラですよね。
最初、刑務所でつながれてる描写がちらりと出てきた頃は、ただの「爆弾狂」でしか無かったと思う。
けれど、鋼の錬金術師という物語が時を経て熟成してゆくのにあわせ、キンブリーというキャラクターも熟成したのだと思う。
ピリピリと刺激があり、甘苦く、そして妙に惹かれる香りの。そんな複雑な味わいに。

私は、15巻を読んで、キンブリーは否定されなければいけない、と思っていました。
「それが軍人の仕事だからです」「錬金術で殺すのは外道か?」「殺人という仕事に対する達成感」
当時のマスタングでは、否定できなかった言葉。それを今のマスタングが否定して、少年少女へのメッセージになるのではないかしら、と。

けれど、先日、鋼ファン様とお話したら違う意見をいただきました。
少年漫画は読者の心に「染み」を残すべきだ。
キンブリーの台詞を、そのまま受け売りするガキはいるだろう(年齢ではなく)。
けれどそれが正しいか否かを、漫画の中で結論づける必要は無い。

なるほど。

そうして、キンブリーの前に立ちふさがるキャラは誰だろう、と考えてみました。
私は今まで、それはマスタングだと思っていました。
エドでは、弱い。それにエドの戦うべき存在は、キャラではなく、もっと大きなもの。

マスタングと相対するキャラは、キンブリーではなくブラッドレイ。大総統というマスタング個人の目標においても、物語における「大人=超えるべき父」という構図においても。
だからマスタングは、まずキンブリーを否定し、その上でブラッドレイと対峙するのではないかしら、と。

でも、多くの意見では、キンブリーと相対するのは、スカー。
確かにキンブリーは、スカーの復讐の相手そのものです。
軍人で、国家錬金術師で、殺戮を好む、家族と仲間の仇。同胞の命で作られた賢者の石で、同胞を殺した、敵。
そして両者とも、鋼の物語に沿って、熟成したキャラ。当初のシンプルな味付けから、ずっと複雑な味わいになったキャラ。

けれど。
今のスカーに、キンブリーを殺させる意味はあるかしら?
キンブリーを殺せるほど、強い動機が、スカーにある?己の行動の虚しさに気付いたスカーが、己の行動に露ほども疑問を持たないキンブリーに、勝てる?

キンブリーは滅ぶでしょう。
彼はやはり、物語の中で、滅ぶべきだと思います。彼の意見を否定はしない。それでも彼にはキャラとしての死を迎えさせなければいけない。彼は決して変わらないから、彼を消しておかないと、物語が終わったその後の広がりを阻害してしまう。

キンブリーはじゃあ、誰と相対するのでもなく、消えるのかしら。例えば「国全体錬成陣」に巻き込まれて。
世界の変わる様をその目で見ながら、満足して消えていくのかしら?

いや。
ちがうな。
彼は、自分の人生がまだまだ続くと思っていて、けれど思いもかけない方向から、あっけなく、殺されて、終わるんだ。

なぜなら。
彼はバリーだから。
紳士的な態度。優秀な頭脳。地位。
空っぽな鎧の死刑囚・バリーとは、あまりにも違うけど。
でも、彼は所詮、バリーだ。自分の趣味のためだけに生きるところも、自身の喜びと他人の幸いが反比例なところも、誰とも違うポリシーを高らかに謳いあげるところも、人とのつながりが無くてもちっとも悲しくないところも。

だから、バリーがあっけなく、けれど私の心にはとてもとても印象深く、消えたように。
彼も、物語の本筋から取り残された場所で、あっけなく、死ぬんだろう。




兄弟中心視点の歌猫は、例えばマスタングに敢えて重きを置いて物語世界を見ると、新鮮な発見があって楽しいです。
キンブリーは逆に、敢えて軽く見てみたら、なんか本質が見えた気がしましたv 

バリーの最期の描き方、大好きなんです。あの巻でたぶん一番印象に残ってる。

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13 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
キンブリーという悪役 (ノエル)
2007-11-29 13:19:52
 キンブリーを取り上げておられて興味深く読みました。
 「人とのつながりが無くてもちっとも悲しくないところ」という表現が本当に彼の本質をあらわしていますね。
 簡単に言えば異常性格者で殺人狂で悪の権化みたいな彼です。そんな彼がロイとリザに「自分が殺した相手の事をけして忘れるな」といっているあの一連の会話。何故か私は感動しました。
 何故なのでしょうね?
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いよいよ歌猫さんちで金ブリ特集が!! (柳楽)
2007-11-30 00:12:00
大変興味深く拝見させて頂きました!!
キンブリー考察をされる方は(ファンを除いて)あまりいないので、たいへん貴重なものを読ませて頂きました。

ここで書くと強烈に長文になるので、詳細は明日自分のブログで書こうかと思います。ブログからリンク張らせて頂きますが御了承頂けると幸いです。
なのでブログに上げないネタをひとつだけ。。。

キンブリーに対峙するキャラクターですが、歌猫さん、マイルズ少佐をお忘れではありませぬか・・・!?
確かにスカーさんとキンブリーが最終決戦、という可能性はあまり高くないと感じますが、イシュ人の血を引くマイルズは意外と対キンブリーになると勝手に信じてます。
(※私の予想で当たったことは一度もありません)

キンブリーはバリーと同等、という言葉はファンではない方だからこそ指摘できると感激しました。
外野目線ですね。あの男の芳香に惑わされてどうしようもない妄想しか沸いてこない腐敗者には大変良い薬になりました。
これからもネタが上がりましたらぜひキンブリ話題をおねがいします・・・!
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コメントありがとうございます。 (歌猫)
2007-11-30 06:59:15
ノエル様こんにちは!
キンブリーの「忘れるな」は、心を掻き乱しますよね。殺人者が被害者ぶるな。正しい。正しいけれど、なぜお前に言われなければならない。
冷静に考えれば、キンブリーは殺人に罪悪感が無いから、覚えていても精神の均衡が保たれるわけで、それをフツウの人に強要するなよと言えるけど。
でも、それはまるで言い訳のよう。それだけキンブリーの台詞は「強い」
うーん、キンブリーはすごいキャラです。こんなキャラを描けるほどになった荒川弘の成長もすごい。
コメントありがとうございました!

柳楽様こんにちは!
そうなんです、キンブリはバリーなんです!
私も気付いた瞬間、目からウロコ。
そしてマイルズ少佐。ええ、忘れていました!(<胸を張って)
でもマイルズ少佐、更に言えばオリヴィエ少将の、物語上の位置って、私まだつかめないんですよ。オリヴィエはその弟と同様、作者の趣味バリバリで錬成されたキャラかもですが、それでもあれだけページを割いて描いたからには、何か理由があるはずで。
だからブリッグズ殲滅のイメージが、どーしても脳裏から離れないんですよね…。怖っ!ブルブル。でも、もしそうなるったら、マイルズは独り生き残る、という役割になると思うんですが。スカーと同じに。そんでオリヴィエは殺さないだろうから(いくらなんでも…)オリヴィエがいるからスカーと同じ道にはゆかない、とか?しかしこれは予想とゆーより妄想だ二次創作だ(笑)
柳楽様の考察も楽しみにしています!
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キンブリーという存在 (瞳子)
2007-11-30 19:41:46
歌猫様、いつも楽しく拝読しています。

歌猫様が書かれていることとは少し違ってしまうのですが、私はキンブリーと相対する存在はやはりマスタングだと思っています。ただ、相対させるのは本人たちでも読者でもなく、ブラッドレイ。彼を中心軸に、二人は左右対称に位置するのではないかと。

人間は愚かだと断言したブラッドレイ。彼にとっては、キンブリーはただの愚かな人間でしかないと思います。でも、マスタングは少し違う。何らかの期待をしているようにも見えます。

個人的には、死を迎える瞬間のキンブリーには動揺してほしい。それをブラッドレイが「愚か」と切り捨てて、次の瞬間には忘れ去るくらいだったらいいと思うのです。それが、15巻でマスタングがキンブリーに反論できなかった答えになるのではないかとも思っています。

どうも思っていることを上手に書けません。こんな風に見ている奴もいるのだと流していただきたいと思います。長々とすみませんでした。
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コメントありがとうございます。 (歌猫)
2007-12-01 14:35:48
瞳子様、こんにちは!
そうですね!そう、ブラッドレイにとってはキンブリーもマスタングも「国家錬金術師」という道具に過ぎなかった。むしろキンブリーの方が使える駒だったかもしれない。でも、マスタングには何かを期待している。
15巻のキンブリーの台詞に対する答えを、マスタング以外のキャラによって示す、という方法論も、なるほど!と思いました。
瞳子様の考察、素晴らしいです。そして、ブログで語られている以上に、ブロガーではないもっともっと多くの人にも、それぞれに解釈や考察や、それに付随する色々な思いがあるのだわ、と、今更ながらに気付きました。
その気付きへの感謝も込めて。コメントありがとうございました!
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「忘れるな」 (ノエル)
2007-12-01 18:46:13
 えーと、もう一回コメントいたします、歌猫さま。
「(手にかけた相手を)忘れるな。」
とキンブリーが軍人たちに言うところ。
歌猫様のおっしゃるとおり、「キンブリーに言われたくないよね。」と思います。
 が、このせりふを例えばマスタングとかヒューズとかその他慈悲心ある軍人が、部下に言ったとしたら、少し偽善者っぽいような響きになるかな・・・と。

 キンブリーのいいところが一つだけあるとしたら
(ルックス以外に・笑)その無慈悲さを上層部の根性悪い連中にも容赦なくぶつけるところでしょう。恐れも媚びも無く。

 だからちょっと胸がスカッとする。
嫌な奴なんだけどね。でも、何故か妙に惹きつけられます。
 勿論イシュバール人の母と子を殺したのはとても赦せませんが。
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コメントありがとうございます。 (歌猫)
2007-12-02 09:56:15
ノエル様こんにちは。
ええ。あの台詞はキンブリーでないと言えない台詞だと思います。
うん、ちょっとだけスカッとするんですよね…悔しいことに!(笑)
そのキャラでないとならない・他の誰にも代わりができない、それこそがそのキャラの「存在感」なんですよね。うーん強烈!
キンブリーは誰に対しても偉そうですが、そのくせロックベル医師の行いを真っ直ぐに認めるんですよね。そこで読者は面食らう。嫌な奴、とひと括りにできない。
全て悪い人も全て善人もいない、という作者のポリシーが、極端に現れたキャラ、それがキンブリーなのかも、とも思います。
コメントありがとうございました!
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大変遅れましたが・・・ (柳楽)
2007-12-02 22:14:32
ご連絡が遅れてしまいましたが、うちのブログで「キンブリーの最期は」の返歌?話題をUPしました!
同じことを延々と書き連ねているだけの、どうしようもない内容ですが orz  御確認いただければ幸いです。

http://greedychick.jugem.jp/?eid=502#sequel
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コメントありがとうございます (歌猫)
2007-12-04 08:47:38
柳楽様こんにちは!

返歌、ありがとうございます~!

確かにキンブリーにとって、死は罰にはならないかも。

じゃあ相応しい場所は?と考えて、浮かんだのがグラの腹ん中…。それはちょっとかわいそう過ぎるか?

また柳楽様んちにコメしに行きます!

コメント&返歌、ありがとうございました!
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キンブリー (dogpow)
2008-03-03 13:19:11
こんにちは。
過去から少しずつ読まさせて頂き、ここまでたどり着きました。。。
キンブリって本当に強烈なキャラですよね。
アニメから入ったのですが、キンブリはアニメではただの爆弾狂という感じで、薄っぺらい感じがしたし嫌いなキャラだったのですが、原作15巻を読んで、キンブリというキャラにびっくりしました。(グラン准将もですが。。)
荒川先生が描く人物って、全ての人物に厚みがあるし、深い。
主義主張を持って、自分に対して筋が通った生き方をしてるんだなあって。。。
好きにはなれないけど、嫌いではなくなりました。

”人を殺す覚悟もないのに軍人になったのか”はある意味正しいって思ってしまったし、
あのロイが何も言い返せなかった。
でも、それに対して、18巻でエドが”人を殺さない覚悟”って言い切り、しっかりキンブリに対して回答を出して
キンブリさえも納得させてしまった。
すごいです。ほんとに・・
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