歌猫Blog跡地

漫画「鋼の錬金術師」と荒川弘について語るブログ。更新終了しました。

神は、ある

2007年08月31日 | ◆真面目な考察・・・?
神はいない?いいえ。

ああ!私の見かたは、まだまだ全然足りなかった!!

07年8月8日記事「神はいない。ほんとうに?」にね。
柳楽様からコメントを頂きました。
「鋼は思い切り信仰心バリバリの作品に見えます」
まーたまたー柳楽様ってば~、とか、最初、私、思ったんですよ。(わあ!柳楽様ごめんなさい~!)
でもね。その柳楽様からトラックバック頂いた記事「鋼の錬金術師における宗教と信仰について」を読んで、ぽろりと目からウロコ。

>「宗教=人が作ったもの」「信仰=自然発生的な真理」と考えると、とても分かりやすいと思います。世の中ではこの2つが混同してるから話がややこしくなってますが、この二つは 全 く 違うものだと断言します。

あっ…!
私、間違ってた。
うん、私も混同してた。

>そんな目に見える自然現象から目に見えない事象まで含めた大きな流れを神と称し
>その流れを誰でも分かる形に顕現しようと努力したのが科学で、証拠はいいからまずは実践を目指すのが信仰



ここで、鋼に立ち返る。
私は今、ずっと「お父様」について考えている。
私は、「お父様」は「(クセルクセスの)国民全てを巻き込んで 強大な賢者の石という付加価値を身につけて 神をも超える存在になろうとした」男だと考えている。
「お父様」は、神になろうとした男。

神、とは何だ?
「神」という言葉は、実は、二つの意味を持つ。
一つは、私たちが普通にイメージするほうの、神。
「人間を超えた存在で、人間に対し禍福や賞罰を与え、信仰・崇拝の対象となるもの」(国語辞書「大辞林」より)
リオールの神。あるいはヒューズから見たイシュバールの神。
世界の創造主にして支配者。

もう一つは、「目に見えない大きな流れ」
エドとアルがヨック島で気づいたもの。人の力ではどうしようも無いもの。
時間を戻せないこととか、空が青いこととか、私もあなたも100年後には死んでいることとか。
なにかとてつもなく大きなもの。
それの呼び名の一つが、神。
「オレはおまえ達が゛世界"と呼ぶ存在 あるいは“宇宙” あるいは“神” あるいは“真理” あるいは“全” あるいは“一” そしてオレは“おまえ”だ」


神様なんかいるはずないじゃん。
という時の神は、一つめの意味。
じゃあ、二つめの意味-何かわからないけれどおおきなもの-は?
や、否定しようとしまいと、だって実際私はそん中にいるんだし。

一つめの神と二つめの神は、どちらも世界の創造主にして支配者なのかもしれない。
でも違う。
創造の意味が違う。支配の意味が違う。


だから、やっぱり「お父様」は間違っている。

「お父様」は、神になろうとして、失敗した。
彼の「魂を分けた子供たち」=賢者の石を核としたホムンクルス も、不死ではない。「完全な存在」であるはずの賢者の石がなぜ壊れる?まだ、不完全だから。
彼自身が、不完全、失敗作なんだ。

だから「お父様」は、更に強大な力を求めて、クセルクセスでやったことを、今度はアメストリスでやろうとしている。
それによって生まれたモノが、まだ不完全であるなら、今度はもっと大きな錬成を?
そしていつか、全人類を、世界の全てを賢者の石にして己の内に納めたなら、己は神になれると考えている?

それは、神か?

「お父様」が目指しているのは、一つめの意味の「神」。
だからやっぱり、彼は間違っている。
大いなる何か、名前さえつけられないもの、世界を巡る流れ。それを、自らの内に閉じ込めようなんて、世界を全て身体に入れてそして自らが世界になろうなんて、どう考えたって間違っている。


神はいない。
一つめの意味の、いわゆる神サマは、いない。
本当の神(世界)は、もっと大きくて掴みどころの無いもの。あんまり曖昧で説明し辛いから、擬人化したりして分かりやすく説明しているうちに、その分かりやすく矮小化したものの方が前面に出てしまい、そっちが神だと思うようになってしまった…人は神(世界)を求めて、偽の神サマを作ってしまった。

全は一、世界は私、なのだとしたら、錬金術師は人間を作るつもりで神を作ってしまったということ?
「お父様」は悪役だから、いずれ否定される。
それはつまり、矮小化された神サマの否定。

そう。
もしかしたら。
鋼の錬金術師という物語は、「神とは何か」の答えさえも内包しているのかもしれない。
たかが、少年漫画という媒体で!

彼は、神になりたい。
そして「神」とは「目に見えない大きな流れ」。
では、神になるにはどうしたらいいのか。
世界の一部に還ればいい。
老いて、死ねばいい。
己もまた世界の一部であることを知り、流転する世界へ還るなら、彼は神に、そして人間になれる。
そうやって、彼もまた救われるのかもしれない。


両手を合わせての錬成。
「まるで神への祈りじゃないか」
それは真理を見た者だけができる技。
神に会った者だけができる技。
エドは「祈りたい神サマがいないんでね」と言うけれど、本当は祈っているのかもしれない。
それが、錬金術なのかもしれない。

「それを「世界」と言うのか「宇宙」と言うのかわかんないけど 
オレもアルもその大きい流れの中のほんの小さなひとつ 全の中の一 
だけどその一が集まって全が存在する この世は創造もつかない大きな法則に従って流れている その流れを知り分解して再構築する…それが錬金術」




ぐうううっ!力不足です!
こんな文じゃ伝わらない…!
もっと、こう。鋼の物語は、少年の成長を描きつつ、人間とは何かを問うていて、その底流には「目に見えない大きな流れ」と「神サマ」と「人間」との関係を描いていて、それがまた表面の冒険物語に反映している、よーに私は思えるんだよう!ということを、書きたいのにー!ギリギリギリ。

この記事読んで、何を大袈裟なって呆れてるみなさーん。私も半分はそう思ってるけど、でも半分はマジです。
文学とかはさ、書き手の思惑よりずーっと大きなものをおっ被せられたりするじゃない?それと同じよ。
鋼は、真面目に研究されて論ぜられてもおかしくない作品だと私は思うよ。やおよろずの神々の国から、世界を支配する一神教への疑問の提示がどうこう、とかさ。アイヌを隣人に持つ北海道出身の筆者の世界観がうんぬんとかさ。(この二つの世界の、一つ目の世界は地球儀の表面に描かれてる世界で、二つ目のは仏教とかで使うほうの世界。ああ、言葉って難しい!)
錬金術の発祥の地、古代エジプトも多神教だし、錬金術は近代化学の基礎なだけでなく、科学的なアプローチでもって神を求める行いだったとも聞く。(冒頭の、柳楽様の記事の引用もそれよね) 実験によって神とは何かを考える錬金術をモチーフにしたならば、ハガレンが神を求める作品となることも成るべくしてだったのかもしれない、とかさ。
このあたりを語るには、私の知識が、基礎学力がぜんっぜん足りない…。

もしかしたら、リベンジっつーか、焼き直し記事書くかも。

そうそう。前にね。どこかのクリスチャンの偉い人が「神は世界に満ちている」とか言っていて。
なんじゃそりゃ?とか、思っていました。ふうんシューキョーの人にはそーなの~?と。
でも、今は。その言葉の意味が、ほんの少し分かったような気がする。
少なくとも、今の私は、それを聞いて「なんじゃそりゃ」とは思わない。
ああ!まさか少年漫画でこんなモンまで拾ってしまうとは!(笑)



(コメントは雑誌ネタバレ無しでおねがいいたします)

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14 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
うわーっ (りほ)
2007-08-31 11:52:44
いやん、歌猫さま、惚れていいですか?(爆)

>では、神になるにはどうしたらいいのか。
>世界の一部に還ればいい。

にちょっとドキドキです。
全てが循環すること、それが真理。

お父様が、その循環の中から逸脱した個として存在しようとしているのに対し、
ホーパパは、逆にその循環の中に戻ろうとしていることとか。
手パン練成が何故、神への祈りの形に似ているのか。
本当に、全てのものが繋がっているのかもしれませんね。

「十戒」における偶像崇拝の禁止がちょっと過ぎりました。
目に見えるものを崇めると、その本尊自体を神として崇めるようになる。
確かそんな理由だったと思います。
物体として存在するものは信仰に値しない。

それとか。
循環と言えばウロボロスだし。
ラストが言っていた、自分達の方が「真理に近い」という言葉とか。
今、色々ぐるぐる回ってます。

ダメだ。上手く言葉に出来なくてすみません。
とりあえず、興奮したままコメントしてみましたっ。
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コメントありがとうございます。 (歌猫)
2007-08-31 22:52:49
ふははは、惚れてくれたまえ!なんつって(笑)
りほ様こんにちは!
もうもう、この脳内をどうやって切り分けて並べたら読み手に伝わるだろう…と考えに考えたんですが、あえなく撃沈…まではいかなくても浸水しながら辛うじて波間に留まっているよーな記事になってしまいました;
読み込んで理解くださるりほ様のよーなお客様が一体どれだけいらっしゃるかしら(汗)
うんうん、偶像崇拝禁止の意味が、初めて実感もって理解できました、私も!神とか宇宙とかオカルトめいていて毛嫌いしてた私が、まさかこんな記事を書くなんて…鋼ってスゴイ!!
私も興奮しすぎて全然コメントレスになっていませんね(汗 
でもでも、コメントいただけて嬉しい!ありがとうございました!!
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バベルの塔が崩れるとき (km)
2007-09-01 16:27:33
こんにちわ、歌猫さま!先日のレスも有難うございました。歌猫様の不思議ワールドを、ウハウハしながらいつも拝見しております。

今回の記事を心待ちにしていました。
わたしも前のかたのコメント同様、心が震えましたよ、あの箇所で。

鋼世界の錬金術と、現代の科学技術は同位ですよね、で、行き過ぎるとバヴェルの塔みたいに崩壊しかねない。人間が神を超えようとするなんて。天地を覆すようなものだ・・だから、エドたちにはそれを止めてほしい。

ただ、この漫画は本当に奥が深いので、勧善懲罰のみでは終わらないでしょうね?誰でも心の中に、七つの大罪を持っているのだから。エドワードでさえも。
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コメントありがとうございます。 (歌猫)
2007-09-02 07:56:18
Km様こんにちは!
「お父様」は人間じゃないけれど、主人公エドに繋がる者ならば、やっぱり牛様は救ってしまうんじゃないかしら…と思うんです。
「お父様」と平行して私はホムンクルスは人間か?も考えてしまいます。人工的に創られた命はどこまで命なのか、とか、創る行為が悪だとしても創られた者が生まれながらに悪であるはずがない、などと…。
おおう!たかが少年漫画でこんなマジ語りしちゃう輩はあんまいないっすよね。ついて来てくださる読み手さんもそうはいないと思います(苦笑)
読んでくださって&コメントくださってありがとう!
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なんという名文! (柳楽)
2007-09-02 23:17:57
こんばんは、パソコンの調子が少し悪くて確認するのが遅れてしまいました。
期待はしてましたが、期待をはるかに超える名文に感動し、さらに「鋼ってスゴイ作品だ!」と改めて感動してました。そうです私が言いたかったのはそういう事なんです!と一人で勝手に喜んでました。
歌猫様の記事を読むと、鋼もまた歴然と信仰と宗教を区別してる漫画だなと感じます。最新刊コミックでトリシャさんと愛し合って生命の円環に戻ることを覚悟したホーエンの選択に心揺さぶられましたが、あれはまさに全の一部に、真理になるってことだなと。

このテーマは考えれば考えるほど混乱しますが、うちのブログでもそのうち再チャレンジしたいと思います。素晴らしい考察をありがとうございます!
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コメントありがとうございます。 (歌猫)
2007-09-04 00:02:49
柳楽様こんにちは!
そんな名文だなんて…。
素地?がある方にはご理解いただけたかもだけど、私はもっと分かりやすく書きたかった…。そう、このテーマは考えれば考えるほど混乱するのよ。その点においても、つまり難しいことを分かりやすく示すというところにおいても、荒川弘偉大なり!と思うのでした。
このテーマがもっと明確に現れれば、そして最終回に向けて現れてくると思うのだけれども、そうしたらそれは15巻と同じくらいチャレンジャーな内容になると思います。
中高生素直読者には深い後味を残し、大人読者評論家系は舌を巻く、そういう話に。
私、今すごい眺めがいい場所に立ってます。この眺めを、私はブログで伝えたいのだ!(<何か興奮してます(笑))
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Unknown (ガメ)
2007-09-05 20:09:56
はじめまして!ガメと申します。アニメで、朴さんに惚れて鋼を読み始めました。(笑)
これまで、何となくという理由で「神」というものを否定してきた私ですが、初めてこの問題に正面からむきあうことが出来たような気がします。(学校とかでは、こういうことを教えてくれないので。)

改めて、鋼は奥が深い話だなと思いました。

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コメントありがとうございます。 (歌猫)
2007-09-06 07:34:23
ガメ様こんにちは初めまして!お出でくださってありがとう!
そう、私も何となく神とか否定してきたんですが、神とカミサマは違うんだ、と気付いて目からウロコ。
ほーんと、教えてくれないことばっかですよー。
でも、学校で教わることが、教えてくれないことを考える基礎にはなるんですよね。あと、教わってないから自由に考えられたりとか。
うん。鋼は奥が深いです。これだけ語ってもまだ足りない。
これからもぜひ、いらしてください!コメントありがとうございましたーvvv
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あまりの名文に触発されてしまいました。 (1819)
2008-03-07 15:07:39
私も鋼には切ないほどの信仰心を感じる。救いを善を心の底から願ったなら、それは祈りじゃないか?と。そして祈りのベクトルが外ではなく、自分の内に向けられた時、人は神(己の導き手という意)をも内包できるのではないか?と。
大いなる神はただ見守ってくれ、いつか帰る場所。それは自然や世界と同義だ。そして内に小なる神を持った者もやがてはそこへ溶け新たな命のもとになる。
語ってしまいましたが、私にとって鋼は生きることに真っ向向き合った大作で、その深さは純文学に勝ると思います。
その価値を知る歌猫様の考察が私は大好きです。
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コメントありがとうございます。 (歌猫)
2008-03-10 06:45:21
1819様こんにちは!
>鋼は生きることに真っ向向き合った大作で、その深さは純文学に勝ると思います。
はい。私もそう思います。
鋼は「少年漫画」ではなく「児童文学」として語られるべき深さを持つ作品だと思います。(自分が純文学を読んでいないから比較できないだけとも言う(笑))
けれどそれを、どこからどう見ても少年漫画として描く。決してエンターテインメントを忘れない。それこそが偉業だと思います。難しいテーマを難しく描くのは簡単だから。
>人は神(己の導き手という意)をも内包できる
ああ、そうですね・・・!
だから、全は一・一は全で、善が集まれば世界を善に導くこともできるのだと。
コメント、ありがとうございました。
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