こんな本を読みました

気ままで偏りのある読書忘備録。冒頭の文章は、読んだ本からの引用です。

『太陽の塔』『きつねのはなし』(森見登美彦)

2017-09-06 | 現代小説
「もし精神が位置エネルギーを持つとしたら、落下するときにはエネルギーを放出するはずだ。
それを利用できればなあ」
(『太陽の塔』)


 久々にモリミーでも、と手にした2冊。
『太陽の塔』は言わずと知れた?デビュー作。・・・読み進むうちに、あ。これ以前読んでるわ、とまたも
失策に気づくが、内容を全く記憶していなかったのでノープロブレム(なのか!?)
 以前にも書いたが、こういう「リア充、何それおいしいの?」的なリビドーの塊の青少年のバカバカしさ、
大好物である。しかも登場人物は全員京大生、理屈だけはキレキレ。抜粋も、「挫折、失恋、死に至る病、
あらゆる苦悩が有益なエネルギーに変換され、自動車を走らせ、飛行機を飛ばし、インターネットは繋ぎ放
題、アイドルビデオは見放題となる。」と展開されていく。この文章の最後、「アダルトビデオ」でなく。
「アイドルビデオ」であるところに切ないまでのピュアさが垣間見える。バカだけど切ない、切ないけどバ
カだ。彼らの妄想が、ほんの少し現実を変えたり変えなかったりしながら、消費されていく青春。頭でっか
ちで潔いほど非生産的だけど、これがやがては日本のいろんなものを動かすエネルギーになるんだなあ。と、
モリミーのその後を知る者としては感慨にひたらずにおれない。多分前に読んだ時も感じたこと。
 『きつねのはなし』は、不思議な骨董品店、芳蓮堂にまつわる奇譚のオムニバス。女店主に象徴される憂
いを含んだ静けさが漂う話が多かった。バッドエンドの表題作と、旧家にまつわる不思議譚『水神』が幻想
的で特に面白かった。