乗鞍岳への自転車道

40歳で突如、自転車乗りになろうと発心して早15年。CAAD9少佐と畳平へ駆け上がる日はくるのでしょうか。。。(汗)

ZEROからの再出発

2008年09月13日 | トレーニング

みなさま

長らくブログの更新が滞っておりまして、申し訳ございません。

お休みをいただいている間も、いろいろといろいろとございました。

しかし、何も申し上げますまい。。。

“女は黙ってロードバイク”……なのでございます。

“女は黙ってロードバイク”……なのでございますからして、四の五の言わず、ひたすら走るのみ、なのでございます。

そのようなわけで、ここ1年ばかりの己をふりかえって黙考したところ、自らのふがいなさ、弱虫ぶりに、わたくしは心底嫌気がさしたのでございました。

……こんなとき、わたくしの元に日光仮面さまが来てくださって、その指にとまらせていただきさえすれば、万事解決するのかもしれません。

が、当然のことながら、日光仮面さまなど、どこにもいらっしゃいませんし、鬱屈したわたくしの気持ちも、閉塞した個人的事情も、どうにもままならないのでございました。

この状況を打開し、腐った自分をたたき直すには、初心に戻り、一から……いえ、ゼロから、修行のやり直しをするしかない!

極端なわたくしは、左様な境地に至ったのでございます。

古くから当ブログをご覧いただいている方はご存知かと思いますが、わたくしの原点、それは、“小仏峠”でございます。

XSサイズのGTでもって、初めて小仏峠を登りきったあの日から、わたくしの自転車人生は動き出したのでございました。

あれからまる2年のときを経て、今日、ふたたびゼロからのスタートでございます。

行って参ったのでございます、わたくしの小仏峠へ……

そしてそれは、ふたたび明るい道しるべを見いだすきっかけになったのでございました。

     *     *     *     *     *

日野市は八王子の東隣りに位置する市町村でございますが、小仏峠までは浅川サイクリングロード経由で、片道20kmという立地です。

わたくし程度の者にとりましては、まずまずのトレーニングコースと申せましょう。

高尾時代は、ある意味、小仏峠は近すぎたくらいでございますから、むしろちょうどよい距離といえるかもしれません。

とにかく、日野というところからは、いつも走りなれた浅川サイクリングロードを源頭に向かってひた走ることによって、おのずと小仏峠に到るという、至極、シンプルなお話なのでございました。

ところでみなさま。先だってのゲリラ豪雨の際には、京王高尾線の一部にガケ崩れが発生して、一時、京王線が運休になるという災難に見舞われました。

みなさまはご無事でいらっしゃいましたでしょうか。

あの豪雨以降も、多摩地区ではたびたび集中豪雨が発生しておりましたので、浅川サイクリングロードもずいぶん痛んでしまったようでございます。

大きなゴミなどは撤去されていますが、ところどころ土砂が堆積している箇所も残っておりました。そのせいかどうかわかりませんが、サイクリングロードを走っているときから、後輪のエアが抜けはじめている感じがしておりました。

走行中のタイヤの状態を目視で観察したところでは、それとは判別できませんが、信号で停止した際などに後輪を指で押してみると、ちょっとやわらかくなっているような印象です。

砂利の上を走ったときに、チューブに傷が入って、スローパンク状態になっているようなのでございます。

(困ったなぁ)と、内心不安を抱きつつも、そのまま甲州街道を走り、西浅川の信号を右折して、小仏方面へ進んで参ります。

さてさて、駒木野をすぎて、裏高尾の梅林近くまでやってまいりますと、しばらくご無沙汰していた間に、こんなモノができてしまっておりました。

P1010909

↑圏央道と中央自動車道が合流する小仏JCTから、さらに高尾山方面へ向けて、高速道路の橋脚が増設され始めていたのでございます。

ムググ~!

以前にも当ブログで申し上げましたが、わたくしは、この美しい裏高尾の山里に圏央道が建設されることにつきましては、非常な悲しみを抱き続けているのでございます。

高尾の地を離れ、いまや八王子市民でもなくなったわたくしが、とやかく申すのもおこがましいですが、このような巨大な道路は、この美しい山里にはいかにもそぐわないのでございました。

どうせ高速道路を建設するなら、国道16号の上に作ってくれればいいものを……などと、わたくしは国道16号沿いにお住まいの方々のご心中もお察しせずに、勝手なことを思うのでございました。

しかし、ミシュラン効果で高尾山が登山者バブルに沸いているその裏側で、ここまで圏央道の工事が進んでいたとはツユ知らず……

小仏JCT建設時から、裏高尾の有様を見守って参ったわたくしでしたが、ここ1年ばかり小仏アタックをさぼっていたばっかりに、こんなになるまで記録をとらなかった自分の怠慢さに、また反省の思いを深くするのでございました。

さてさて、自家焙煎コーヒーの“ふじだな”前を通過いたしまして、坂道もだんだん急になってまいりますと、後輪のエアはますます抜けていくのでございました。

なんとかだましだまし、峠を目指してのぼってまいります。

小仏バス停付近で、知らないおじさんの自転車を一台抜いて、さらに峠を目指したのでございますが……この「知らないおじさん」が、この後、「知っているおじさん」に変貌したのでございました。それは何ゆえか?!

それは、峠に到着したわたくしが、CAAD9少佐の後輪をはずして、チューブの交換をしていたときのことでございます。

すぐ後に峠に到着された知らないおじさんが、いかにも興味深そうに、わたくしの様子をご覧になっているのでございました。

そしてついに、「パンク? 自分でなおせるの?」と声をかけていらっしゃったのでございました。

どうも、その知らないおじさんは、パンクの際には自転車屋さんで修理をお願いしているらしいのです。

「替えのチューブ持っているの? へえ~、そうなんだ~。そういうもんなんだ~」なんて、さも感心したようなふうに頷かれるのでした。

ですが、お話をしているうちに、わたくしは、この知らないおじさんが、かなりのツワモノでいらっしゃるであろう事実に気づき始めておりました。

なぜならば、このおじさんが乗っていらっしゃる自転車は、ママチャリとまでは言わないまでも、非常にそれに近い普通の自転車で、たぶん車体重量が15kg以上はあろうかと思われるお品物だったのです。

しかも、定年退職されてから自転車に乗り始めたというお話の端々から、少なくとも60歳以上でいらっしゃることが推測されるのでした。

それにも関わらず、このおじさんは、小仏バス停付近でわたくしに追い抜かれた後、突然、闘魂に火がついたごとく、わたくしのCAAD9少佐にぴったりくっついて登っていらしたのでございます。

ええ、わたくしは確かに、へにょぴりんライダー……ですけれども、なにしろCAAD9少佐でございますから、それなりのアドバンテージはございます。

そのCAAD9少佐に、限りなくママチャリに近い自転車で、ぴったりくっついていらっしゃった60歳以上の知らないおじさん……

このおじさんが、ちゃんとしたロードバイクにお乗りになったら、まぎれもなくその力量を発揮されるであろうことは、想像に難くないのでございました。

ところで、チューブの交換が終わり、さてエアの注入という段まで参りますと、わたくしはあまり人様に観られていたくない気持になるわけでございます。

ええ……わたくしは、携帯ポンプでのエアの注入が大の苦手なおばさんなのでございます。

知らないおじさんにじっと見つめられつつ、滝のような汗を流しながらポンピングするわたくし……

次第にそのスピードが落ちてきて、満身に力をこめてポンプを押すも、いっこうにエアが入っていかない状況になってしまうのでした。

それをみかねた知らないおじさん。

「どれ、ぼくが代わってやってあげるよ」

そうおっしゃって、わたくしからポンプを引き継ぐやいなや、目にも留まらぬ早業で、グイグイとポンプを押し引きし、あっという間に50回くらいポンピングしてくださったのでした。

わたくしは事のなりゆきが理解できず、茫然自失としておりましたが、はっと気づいておじさんの上腕を観察いたしますと、ちょっと普通のおじさんとは思えないほど筋骨隆々なのでした。

そして、おそるおそるタイヤを触ってみると、かなりイイ感じにカッチカチに硬くなっているのです。

エアゲージで計ったわけではありませんが、走行に充分なエアが充填されているのでございました。

「ンマ~! たすかりましたわ~! ありがとうございます~。ありがとうございます~!」

わたくしはご親切なおじさんに、何度もお礼を申し上げて、小仏峠を後にしたのでした。

ところで小仏峠アタックでは、来た道を戻るわけですから、当然、下りの道も、おじさんと一緒です。

途中、“ふじだな”でコーヒーにお誘いしたのですが、おじさんは首を横にふり、

「するさしの豆腐屋のおからドーナツがおいしいから、買っていくといいよ」と薦めてくださいました。

そこで、わたくしがするさしの豆腐のお店に立ち寄っておりますと、

「じゃ、僕は八王子市役所の前で待っているからね」とおっしゃって、先に行ってしまわれました。

わたくしは不思議に思いつつ、おからドーナツを1パック買って、ぐんぐん小仏道を下り、甲州街道から南浅川サイクリングロードに入って、八王子市役所のところまで参りますと、おじさんはちゃんと、待っていてくださいました。

市役所前の緑地にはベンチがあるので、ここで買ってきたドーナツを食べませんか?とお誘いすると、おじさんは、チェーンオイルで真っ黒になったわたくしの手を見て、ちょっと躊躇されたあと、

「僕のうちはすぐそばだから、手を洗って、コーヒーでも飲んでいきなよ」と、気軽に誘ってくださるのでした。

わたくしは一瞬、(なにこれ、新手のナンパなの?)とありえないことを考えたのですが、なにしろこっちはおばさんですし、お相手もまぎれもなく60歳以上のおじさんなのですし、しかも、お家には奥様とお嬢様もいらっしゃるというので、庭先で手を洗わせていただくつもりでお伺いしたのでした。

おじさんの家は、ほんとうに市役所のすぐそばでした。玄関先で失礼しようと思ったのですが、奥様とお嬢様がフレンドリーに迎えてくださったので、わたくしは図々しくもお家にお邪魔させていただいて、おいしいアイスコーヒーを頂戴してしまいました。

そして、するさしのおからドーナツをみんなでいただいたのでした。

ドーナツを食べながらいろいろお話を伺っておりますと、おじさんはなんと、お若いころ、ボクサーでいらっしゃったということでございました。

わたくしは耳慣れない言葉に動揺して、

「ボクサーというのは、ボクシングをする選手の方のことですか?」

などと、おバカな質問をしてしまったくらいです。

だって、考えてもみてくださいませ。

小仏峠に、普通の自転車で登っていらしたおじさんが、ボクサーだったんでございますよ。

ちょっとびっくりな展開なのでございます。

しかしながら、60代とは思えない筋骨隆々としたお体といい、普通の自転車でCAAD9少佐にぴったりついて登っていらっしゃる気合といい、なるほど合点がいくのでございます。

ですが、さらにびっくりしたことに、おじさんは数年前、がんの手術もなさっていて、さらに今は、狭心症の持病もお持ちで、発作に備えていつもニトロを携帯されている……とおっしゃるではございませんか!

ええ~! 狭心症なのに、普通の自転車で小仏峠に登って、い、いいんですか?

わたくしはもう、目を白黒させてしまいました。

奥様はにこやかに「だって、やるって言いだしたら、もう言うことをききませんもの~」なんておっしゃいますし……

おじさんご自身も、「多少、負荷をかけないと鍛えられないからね!」なんて、明るく言い放たれるのでございました。

た、多少……(汗)

小仏峠に普通の自転車で登ることが、多少の負荷といわれましても、凡人のわたくしの基準からは大きく逸脱しているのでございましたが、ご本人さまが左様におっしゃる以上、しかたございません。

わたくしは、自分が装着していたハートレートモニターとサイクルコンピュータをお見せして、

「こういう物を使えば、心拍数の測定ができますから、お体にご無理がないように、お使いになってみられてはいかがですか?」

などと、キャットアイかポラールの回し者のようなセールスト-クをしてしまうのでございました。

さて、おいしいアイスコーヒーをご馳走になり、いろいろと稀有なお話を聞かせていただき、失礼する段になりますと、おじさんはもう一度、しげしげとCAAD9少佐をご覧になるのでした。

「ちょっと乗ってみてもいい?」

と、おっしゃるので、どうぞ、とおすすめすると、おじさんはCAAD9少佐を持ち上げて、そのあまりの軽さに目を丸くされたのでした。

……ええ、その通りでございます。15kg以上はあろうかという普通の街乗り自転車と、ロードバイクとでは、比較の対象が極端すぎるのでございます。

おじさんの目の奥に、ロードバイクの女神さまへの恋慕の炎がぽっと燈ったのを、わたくしは見逃しませんでした。

嗚呼! おじさん!

あなたさまは、今、この瞬間に、ロードバイクの魅惑的な世界に足を踏み入れてしまわれたのですね!

「これ、一台、いくらくらいするの?」

「どこに売っているの?」

矢継ぎ早に質問されるおじさん。。。

ああ、おじさん……あなたさまはもう、引き返せない……

禁断のボーダーラインを、あなたさまは超えてしまわれた……

そして、幸か不幸か、おじさんのお家は、バンビちゃん率いるショップAにものすごく近いのでありました。

おじさんがショップAを訪れる日は、そう遠くないことでございましょう。。。

わたくしは罪なことをしてしまったのでしょうか。。。

しかし、あのおじさまの高い運動能力と気合と粘り強さは、まぎれもなくロードレーサー向きなのでございます。

おじさんがヒルクライムのレースにご出場なさったら、シニアクラスであっという間に頭角を現すに違いありません。

わたくしはそのような日を夢に描いてニヤニヤしながら、浅川サイクリングロードを下って帰路についたのでございました。

そして、この稀有な出会いを通じて、自転車はやっぱりすばらしい……と、あらためて思ったのでございます。

「知らないおじさん」が「知っているおじさん」になり、わたくし自身、とても前向きな気持ちになれた本日の小仏アタック……

小仏峠は、ヘタレたわたくしに大いなる渇を入れてくれたのでございました。