お母さんと読む英語の絵本

読み聞かせにぴったりな英語絵本から、米国の子どもたちの世界をご紹介
子どもをバイリンガルに…とお考えのお母さんに

もうひとつのギビングツリー

2009-12-09 | from Silicon Valley


クリスマスシーズンになると、アメリカのそこかしこに「ギビングツリー」がたてられます。シルバースタインの絵本にちなんだこのツリーには、オーナメントの代わりに、たくさんの紙の短冊が下げられています。短冊に書かれているのは「クリスマスプレゼントに欲しいもの Wish List」とそのプレゼントを待っている人のファーストネーム、年齢、性別。

そう。短冊に書かれているのは、家庭内暴力を逃れて施設で暮らしている子ども達や、ホームレス支援施設で暮らす家族、生活保護を受けている身寄りのないお年寄りなど、誰からのプレゼントも期待できない人たちの"願い wish"です。

書かれている願いのほとんどは「欲しいもの」というよりも「必要なもの」。たとえば「冬物のジャケット、男子12歳、サイズL」とか、「ヘアドライヤー、女子13歳」とか、「あたたかいソックス、男子2歳」とか、「ハンドクリーム、女子35歳」とか、「学校に着て行ける洋服、女子10歳」とか、「おもちゃ、なんでも、男子1歳」とか。暮らしぶりがしのばれます。

個人だけではありません。法人が短冊を下げることもあります。たとえばホームレスのシェルターからは「●一人用パッケージのスープまたはヌードル、●箱入りティッシュ、●トイレットペーパー、●歯ブラシ」などの長いリストがでてきます。法人から出てくるのは、たいてい「いくらあっても足りない」もののリストですから、見た人は短冊を外さないで適当に品物をみつくろって届けます。

こういうギビングツリーは、たとえば、ショッピングセンター内の広場や銀行のロビー、学校や公共施設の玄関ホールなど、大勢の人の行き来のあるところにたてられ、場所を提供するスポンサーがその施設を使う人たちに呼びかけて匿名のチャリティを募ります。

チャリティに参加するのは簡単。ツリーに下げられた短冊を取って、そこに書いてある品物を買って(プレゼントは"中古ではなく新品"というのもルールです)、目立つところにツリーからとった短冊の紙を貼ってツリーの下に置いておくだけ。品物をプレゼント用にきれいにラッピングしてきてくださいといわれる場合と、包装は一切しないで品物のまま(中身がわかるように)短冊だけ付けて持ってきてくださいと言われる場合(別のボランティアがまとめてラッピングをします)とがありますので、指示にしたがいます。

娘のハイスクールにも毎年ギビングツリーがたちました。ツリーがたつと、生徒たちはその日のうちに早速短冊を見に行き、携帯電話で親と相談し、予算と買物の都合を考えながら、手に負えそうな内容と数の短冊をとって家に持ち帰ります。

ある年にはウォークマンの希望が殺到し、娘とふたりで地域の量販店を行脚。一番安い店でまとめ買いしました。別の年には、サンクスギビング明けのGAPのセールに早朝から並んで、半日以上かけてさまざまな年齢の子どもたちの洋服を買いました。短冊に年齢や性別が書いてあるのは、プレゼントを選ぶときの参考にするためです。洋服や靴を希望する人はサイズも書いてありますが、色の好みまでは書いてないことが多いので、あれこれ想像しながら買うことになります。

娘が高校を卒業してからは、我が家は行きつけの銀行のギビングツリーに参加していたのですが、オンラインバンキングで窓口に来るお客様が減っているので・・・と銀行は昨年からギビングツリーを立てなくなり、今年は近所のスーパーマーケット(このブログでもご紹介したWhole Foods)のギビングツリーから短冊をとってきました。が、短冊に書かれたプレゼントの希望で一番多いのが「食料品の詰め合わせFood Basket」。また、冬物の衣類、基礎化粧品など、こまごました日用品への切々たる希望ばかり。長引く不況の影響がいかに深刻か、改めて認識しました。

ギビングツリーは匿名の善意を寄せ集める仕組みです。そして、アメリカ人はこういう仕組みを作るのがうまい国民です。プレゼントの希望を聞き書きする人、短冊を作る人、短冊をツリーに下げる人、ツリーを置いてくれる施設を探す人、自分の施設内にツリーを置く人、そしてツリーから短冊を取ってプレゼントを買って持ち寄る人、誰もかれも皆が匿名のボランティアです。でも、互いに見知らぬボランティアたち一人ひとりが「(自分に)できること」だけを少しずつ寄せ集めるだけで、全体としては大きな規模のチャリティがうまく機能するようによく考えられています。

子どもを育てている当時、いつも仕事に追われて余裕なく暮らしていた私は、定期的にどこかでボランティアをするということができませんでした。でも、そんな私が、ギビングツリーのおかげで、クリスマスだけは娘と二人で手も頭も一生懸命働かせてボランティアする機会に恵まれました。知恵を絞ってよいものを安く、賢く買い、きれいにギフトラッピングしてプレゼントをつくる‥‥親子の楽しい恒例行事でした。

アメリカは公共政策の行き届かない国。医療も、教育も、福祉も何もかも不十分です。でも、だからこそ、それをよく知っている市民は、自分たちの小さな手でもできることを寄せ集めて大きくまとめあげる知恵を育ててきたのではないかと思います。

(2008年12月5日ブログをアンコールにより一部加筆して再掲しました)



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