私にとってストーンズというのは残念ながらキース/ミックではなく、ブライアン・ジョーンズである。というか、黒人のブルースを白人に聴かせる結成以来のコンセプトにはリアルタイムではないが、大変共感している。だからそれがストーンズであって、ブライアンの抜けたストーンズはストーンズでない。好き嫌いの問題でなくそう呼びたくないだけだ。勿論、キース/ミックのラインも好きであるし、多分、ロックのアーティストでは私のライブラリーでブートレックも含めてこのバンドのアルバムが一番多い筈だ(全タイトルあるので)。そんな中で、この作品が一番複雑な思いで聴いている。「アウト・オブ・アワ・ヘッズ」とはまた全然違った、大変特殊な感覚だ。
この作品の二大特徴。その1「全曲キース/ミック のオリジナル曲で構成されていること」。その2「ブライアンが多種多彩な楽器を演奏していること」。つまりは、このキーパーソン3人が実に各々の持ち味を発揮している。だが逆にその為に彼らの溝がより一層深くなってしまうという何とも悲しい作品なのである。特にブライアンは様々な楽器を使いこなしているが、それはバンドという単位で良かったかというと全く逆で、曲調の幅は広がったものの、作業的にはとてもマニアックな行程で、残りのメンバーと共にアルバムを作るという共同作業からどんどん遠ざかっていってしまった。更に自分の世界に入り込むことが多くなったブライアンは孤立し、その精神的なはけ口からまた楽器に入り込むという悪循環が生まれた。そしてこれはブライアンだけではないが麻薬に手を出すことになる。残念だが、この作品の前後からブライアンの悲劇的な最期にむけてのカウントダウンが始まっていたのである。このアルバムは、例によって、英盤と米盤は内容が違うが、決定的な違いは、冒頭の曲が英盤には”Mother's Little Helper”、米盤には”Paint It, Black”である。これは、UK盤が14曲と多すぎたので、US盤は曲を絞った際に、シングルNo.1になった同曲をいれたものだが、このストーンズの歴史でも1.2を争う「黒くぬれ」を選ぶか否かの選択は、当時は大きかったと思う。また、なんといっても、11分にも及ぶ”Goin'Home”は衝撃的な曲で、このテイストは既に「サイケデリック」である。後年ミックのインタビューでも「僕達は遠の昔にサイケなんかも試していた」と言っているように、まさにこの曲はサイケデリック以外の何ものでもない。しかも、ミックは「ブルース」で歌っている。つまり、この曲1曲に、当時のストーンズの複雑な人間関係が集約されているのである。
1966年、この年はビートルズが「リボルバー」を、ボブ・ディランが「ブロンド・オン・ブロンド」を、そしてなんと言っても、あのビーチ・ボーイズの「ペット・サウンズ」が発表になった年だ。ひとつのアーティストを取っても、大きな時代のうねりに向かっていたことがよく分かる作品ではなおだろうか?
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