音楽は語るなかれ

音楽に関する戯れ言です。

ブリーチ (ニルヴァーナ/1989年)

2012-03-31 | ロック (アメリカ)


ニルヴァーナのファーストアルバムである。だが、現在認知されているニルヴァーナではなく(勿論同じバンドであるが)この作品は、インディーズレーベルで契約したもので、最初に発売されたのはCD僅かに3000枚。しかもそのうち1000枚はクレジットもなにも入っていない、白いレコード盤であった。これがその僅か2年後に世界中を席巻したこのグループのデビューなのであった。ニルヴァーナはワシントン州のアバディーンで、リードシンガー/ギターのカート・コバーン、ベースのクリス・ノヴォセリック、そしてドラムのアー ロン・バークハートによって1987年に結成された。1980年後半のグランジシーンにて存在感を増しつつポップシーンに出現し、1994年のカート自殺による活動停止まで僅か数年であったが、その音楽と存在は全世界の若者世代の圧倒的な支持を受けた。また、カート死亡後も世界中のミュージシャンに多大な影響を与え続けている。

ニルヴァーナは、1989年に独立レーベル「サブ・ポップ」と契約し、彼らの最初のアルバムである「ブリーチ -BLEACH-」をリリースした。 バンドのメイン作曲者であったカートは、次第に「静かなヴァースと激しいヘビーなコーラスの繰り返し」というダイナミックな対比という手法を確立していく。この作品は確かに名盤と高く評価されている後の2枚のスタジオアルバムと比較すると、残念ながらそのバンドの勢いをとても強烈に感じるものの、逆にいうとそれだけであって、一本調子な部分の未熟さは残念ながら歪めない。但し、この迫力たるは大変なもので、なるほど、これがグランジロックの到来なのかということをとても分かりやすく教えてくれる作品である。グランジはそもそもその母体・源流は1970年代以前のパンク・ロック~1980年代のポストパンクやハードコア・パンクなどといったインディーロック系のシーンに持つ。よって、出自的・思想的にはそれらとの関係性を欠かすことはできない。グランジ自体がパンクの1ジャンルとして包括され語られることもあるが、グランジの音楽的最大の特徴は、パンク・ロック的と呼べる簡素で性急なビートと、「ハード・ロック的と呼べるリフ主体の楽曲構造を融合して」と一般的に解説されているが、「静と動」のディストーションギターサウンドも往々にして同軸で語られることもある。だが実はこれは混同で、グランジ全体というよりも、このニルヴァーナが往々にしてやってきたことであり、彼らの楽曲に頻繁に聴けるものである。ルーツ的にはピクシーズなどの1980年代末期のギターロックバンドが起源であり、系統的にグランジのサウンドは1980年代のポストパンクなどからの濃い影響が覗える。つまり、グランジとニルヴァーナの音楽はイコールでありながら同時にイコールではないことがこの作品を聴いているとよく分かる。また、シアトルという都市に限っていえば、このニルヴァーナをきっかけに、新しい「音楽の聖地」ともいうべく拠点となっていくが、それはグランジの土壌というのではなく、やはり、ニルヴァーナの、またカート・コバーンの残した遺産であると考える。

もし、この作品がメジャー・レーベルから発売になり、全米20位くらいのそこそこのヒットになって彼らが容易く認知されていたら、多分次の名作「ネヴァー・マインド」は生まれなかったかもしれない。そうすると、私達はこの偉大なアーティストに出会えなかったかもしれないと考えると、それは少なからず私に取っては、90年代に再びロック音楽に戻れず、きっと今もクラシックを大海を半分溺れかけながら、只管もがき、孤島を探していただろう。偉大なるカートに乾杯!


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