ストーンズが大きな変革を遂げた作品である。この作品の発表当時、私はビルボードのトップ40を聴いていたから、特別にストーンズのアルバムだという思いよりも、流石にストーンズくらいになると、突如、チャートにランク・インをして来ても、アメリカではウルフマン・ジャックが、日本では湯川れい子がやっぱり大御所で扱いが特別だし、曲を聴いても貫禄が違うなぁという純粋な感想だった。現に、シングル・カットになった「愚か者の歌」はシングルで1位こそ獲得しなかったが、上昇の仕方は特別だった。
さて、ストーンズとは「悲しみのアンジー」と、アルバム「イッツ・オンリー・ロックン・ロール」で出会った後、少し時代を遡って色々聴いていたところだったが、ピートルズの先進性も良いが、ストーンズのソウルフルな楽曲というのも骨太でやはり本物の音楽を聴いているぞという満足感を与えられるものばかりであった。しかし、一方で、ブライアン・ジョーンズに続いて、ミック・テイラーの脱退はどちらかというとショックであり、無論、ロッド・スチュアートとのバンド経験をはじめとした、華のあるロン・ウッドに対して異論があるわけではないが、正直、彼の個性とストーンズがどのようにマッチングするのかは全く想定できなかったというのが当時の感想だった。しかし、それを払拭してくれたのがこの作品だった。この作品発表に前後して、ロン・ウッドはミック・テイラーの穴埋めとしてツアー参加。当時のブートレグ盤には、ビリー・プレストンと並んで彼の名前が併記されていたし、音楽雑誌のライヴ写真には、ミックやキースに絡むロンの写真が撮影・掲出されていて、徐々にではあるが、私の頭の中でもストーンズの中でロンの存在が定着してきていた。但し、アルバムでのロンの存在感はそんなに強くない。私が払拭したと前述したのは、彼の存在に違和感がないという意味で、この作品で最も存在感が強いのは実はビリー・プレストンである。まず、1曲目の「ホット・スタッフ」は、ソウルフルというよりファンクであるが、実に格好良い。特にビリーのピアノは圧巻である。ビリーのこの作品における貢献度はとても高いが、なぜか彼は正式なメンバーにはならなかったのに、実にストーンズらしいテイストを持っていたことが大きいと思う。彼は、ビートルズのレコーディングにも参加し、クレジットが入ったことから「5番めのビートルズ」と呼ばれたこともある、この時代の素晴らしいメロディー・メーカーの一人であった。
もうひとつ、このアルバム発売以前に、ミック・テイラーの後がまとして多くのギタリストがセッションを行った。ジェフ・ベック、ロリー・ギャラガー、ハーヴェイ・マンデル、ウェイン・パーキンスなどで、この光景をメディアはグレイト・ギタリスト・ハントと呼び、誰がギタリストになるか賭けも盛り上がった。前述したブートレグでもそれらのギタリストの演奏は聴くことができるが、正直、この話を聞いたとき、ジェフ・ペックとロリー・ギャガーには絶対にストーンズ入りをして欲しくなかったが、私の同様に思うファンは多かったらしく、音楽雑誌の投稿は一時期、この話題で持ちあがっていた。現代ならウェブが炎上して大変だっただろうと思う。
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