寅の子文庫の、とらのこ日記

本が読みたいけど本が読めない備忘録

掘り出しもの~1冊の古本から思うこと。

2005年03月22日 01時02分23秒 | オンライン古書店
1冊の本を開く。
「山と渓谷/随筆篇 田部重治/角川文庫/S29年4版(初26)定価70円」

街の古本屋の決して誰にも見つからないであろう、埃を被った奥の棚で見つけた、値段は100円。著者は英文学者で大正~昭和期の著名な登山家であった田部重治。読む度に文語調の筆と克明な描写に誠実なお人柄が滲み出ている。そしてこの赤茶けた古本にはもう一人の旅人が登場している。奥付けにゴム判で【30.10.15藤原惣一郎】と押してある。文中随所に青のパーカーでメモ書きが残る。恐らくは新刊で購入の後、田部重治の足跡を辿ったのであろう、旅の所感を頁のあちこちに綴っている。二人が歩いた峠道をいつか私も歩きたいと思う~・・・古本にはこういう楽しみ方があるから面白い。またこんな古本との出会いを「掘り出しモノ」と言うのだろう。手垢も着かず只きれいであればまたそれに越したことはない、しかしそれ以上に人に読み込まれてこそ古本。保存状態の良し悪しはさほど重要ではない。

仮に本にも一生があるとすればどういうものなのか。
少しでも買い手側にその本がいかに人を介してしてきたか、その「経緯を想像させるほんの小さな楽しみ」を分かる人にはどうぞ分かってくださいと、古本寅の子文庫では目録に発行年/刷数/(初版年)を明記、そのうえで状態はどうなのか、留意する点があれば付け加えている。「山と渓谷」を例せば『並下:カバー無し/全体やけ・しみ・書き込み随所』となる。これでは出品しても誰も買わないから出さないが、読み手としてこんな面白い本はそうは出てこない、二人の人生を読めるのだからー・・・。さてはいつから古本屋の棚で永い眠りに就いていたのか、思いはさらに膨らむ。

著者は昭和47年に故人となられた。著者を慕い足跡を辿った山を愛する方ももう50年を経過している。名も知らぬささやかな人生の足跡がこの1冊には残されている。

埋れた良書を真心込めてお届けします。
オンライン古書店 古本寅の子文庫

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