肯定的映画評論室・新館

一刀両断!コラムで映画を三枚おろし。

『いつか読書する日』、観ました。

2006-04-20 20:53:19 | 映画(あ行)

いつか読書する日 (モントリオール世界映画祭 審査員特別大賞を受賞した作品です!!)いつか読書...

 『いつか読書する日』、観ました。
牛乳配達とスーパーのレジで働く50歳独身女性の美奈子は、読書のみを趣味に
平凡な日常を過ごしていた。一方、市役所に勤める高梨は末期がんの妻を自宅で
看病し続けている。美奈子と高梨は高校時代につきあっていたが、あることが
原因でずっと疎遠になっていた‥‥。
 「愛してる」だとか、「好きだった」とか、軽々しく愛の言葉が飛び交う
“お手軽”恋愛映画が多い中、久々に言うに言えない焦燥感、キリキリした
“大人の情愛”をみせられた。もう若くない男女が、若き日の“愛の残骸”を
捨てられず、それを引きずるように生きている。刻々と時間(とき)がうつろい、
少しずつ変化する周りの環境とは対照的に、まるで二人だけが“時間の流れ”
から取り残されたよう…。断ち切れぬ想いを押し殺し、押しつぶれそうになる
孤独な夜を忘れるために、女はただひたすらに本を読む。頁をめくるたび、
切なさが増してゆき、山となって積み上げられた本の束が過ぎ去った日々の
膨大さを物語る。だからこそ、そんな二人の長過ぎた時間を埋めあうように、
初めて結ばれる夜には胸かきむしられる。ラブシーンを観ながら、その息苦しい
ほどの切なさに涙がポロポロ、日本映画を観てこんな気持ちにさせられたのは
何年ぶり??、さすが本年度キネ旬第3位、評判通りの傑作だ。
 さて、映画は、主人公となる男女の純愛を“大きな幹”として、ヒロインの
近所に住むおばさんとその痴呆の夫、主人公男性と不治の病に苦しむ妻‥‥、
それぞれの“愛のカタチ”を描いていく。ボクが観ながら考えたことは、変わらぬ
想いと、永遠の愛について。死にゆく者、消えゆく者、老いゆく者…、徐々に
命の炎は小さくなり、フェードアウトするのだとしても、「真実の愛」は今も
変わらずあの日のまま、力強く輝き続ける。ラストシーン、ヒロインが街の丘へ
続く階段を、一歩一歩踏みしめるように登っていく。きっと、それは不器用だが
実直に、貫き通した“彼女の人生”だったんだろう。丘の上に広がる景色は、
青い空と白い雲…、だけど、自分の街を見下ろす彼女の笑顔は、それ以上に
晴れやかだった。

 



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